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17、優秀過ぎる鑑定士の友人


 ルカの淹れたお茶と用意したお菓子とともに、急遽小さなお茶会が開かれる。

 ロイがミニィのことを友人だと改めて紹介すると、メラニアは自分も今日から友人だと花開くように笑った。


 彼女が喜ぶと、ロイも自分のことのように嬉しく思う。

 新たな友情が結ばれた瞬間をにこやかに眺めていると、ミニィがピンと人差し指を立てて元気に告げた。


「あ、でも。あたしが大人になったらロイお兄ちゃんの恋人になってあげてもいいよ!」


 邪気のない笑顔で言いながら、小動物のようにクッキーを食べるミニィは愛らしい。

 たとえまだ子どもでも、女性から申し出てくれるというのは喜ばしいものだとロイは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう、小さなレディー。そう言ってもらえてとても嬉しいよ。だが僕にはもう心に決めたレディーがいるのさ」


 メラニアと出会う前なら、ミニィが大人になるのが待ち遠しいとでも答えただろう。

 しかし今のロイは、相手が子どもだからといって誤魔化すようなことはしなかった。


 ロイの返事を聞いて、ミニィは落ち込むどころか顔に喜色を滲ませて目を真ん丸に見開いた。


「そうなの!? 誰っ、誰!?」

「その人は君の隣に座っているよ、ミニィ」

「え」


 サラッと答えたロイの答えに、思わず声を漏らしたのはメラニアだ。

 彼女はぽかんとした表情の後、頬をほんのり赤く染めてこほんと一つ咳をする。


「ま、またそうやってロイさんは女性を誑かすんですから」

「本気ですよ? ずっとそう言い続けているではないですか。レディー・メラニア、僕は貴女ともう一歩踏み込んだ関係になりたいのだけれど?」

「私がロイさんのような素敵な紳士に釣り合うわけないじゃないですか。からかうのはもうおしまいですよっ」


 ここまで言ってもまだメラニアは頑なにロイの言葉を本心として受け取ってくれない。

 メラニアがわざと気づかないフリをしているわけではないことは、ロイの天眼が意図せず教えてくれた。


 覗くつもりは毛頭ないというのに、感情が揺れると無意識に天眼が発動してしまうのがまた苛立たしい。


 そんなロイの複雑な心境を、純粋なミニィがあっさり言葉にしてくれた。


「なんで釣り合うわけないの? メラニアお姉ちゃん、すごく綺麗なのに」

「えっ、ミニィまで……」


 ロイは思わずグッと拳を作ってしまう。

 小さな友人が、意外にも心強い協力者となってくれているようだ。


 ミニィにじっと見つめられ、たじたじになったメラニアは目を泳がせながらも頑張って答えてくれた。


「だって、その。あまり触れないようにしていましたが……実はロイさんって貴」

「ミニィもそう思うかい? むしろ僕のほうが彼女に釣り合うような男にならなければと必死なくらいなんだ。美しいメラニアさんの隣に立ってもおかしくないよう、常に自分を磨かないとってね」


 しかし、途中で言いたいことを察したロイは被せるようにミニィに話しかける。

 ここで「貴族」という単語を出されるのは少しだけ困ったことになるからだ。


「ロイお兄ちゃんもカッコいいよ! 二人はお似合いだと思うなー」


 どうやらミニィは気づかなかったようだ。

 ホッとしつつもキャッキャとはしゃぐミニィを横目に、ロイはチラッとメラニアに視線を向けるとウィンクをしながらこっそり人差し指を口元に立てた。


 メラニアはハッとなって口元に手を当てると、ミニィを一度見てから再びロイに視線を向けて申し訳なさそうに頷く。彼女も理解してくれたらしい。


 実際、まだ子どものミニィに貴族やら平民やらの話はあまり面白いものではないだろう。

 もしロイが貴族だと知って家の人にでも話そうものなら大ごとになる上、今までのように仲良くしてもらえなくなる可能性がある。


 ロイを知る人たちは薄々、彼が貴族だと感じてはいるものの、何も言わないでくれている。

 皆が自然と、ロイが普通に接してほしがっているということを察してくれていた。

 ハッキリさせないことが、ロイの町での立場を保っているのだ。


 メラニアとてうっすら感じていたはず。だからこそこれまでもずっと触れずにいてくれたのだろう。


(でも、彼女を本気で想うなら、いつまでも黙ってはいられないな)


 まだ自分がデルロイだと明かすことは難しいが、貴族であることは打ち明けるべきだろう。

 となるとタイミングが問題になってくる、などと頭の中で考えていると、またしてもミニィが明るい声でとてもいいアイデアを出してくれた。


「あたし、いいことを思いついたわ! ロイお兄ちゃん、メラニアお姉ちゃんと二人っきりでデートするのはどうかしら?」

「……ミニィ。君は天才かな? 素晴らしいアイデアだ!」

「でしょー? というか、ロイお兄ちゃんはどうしてそんなことも思いつかないの? おくて(・・・)なんじゃない?」


 奥手、だなんて血紅の公子からも紳士ロイからももっとも遠い言葉を言われ、ロイだけでなくルカもきょとん、としてしまう。


 数秒の間を置いて、ロイは額に手を当てながら大きな声で笑った。


「あははは! まったくもってその通りだね。僕はずいぶんと奥手だったみたいだ」


 だが言われてみれば、メラニアに対してだけロイは行動に移していなかったように思う。

 言葉や態度で好意を示してはいたが、やはり心のどこかで身分差や彼女に降りかかる危険を思って行動に移せなかったのかもしれない。


「勇気を出すのよ、ロイお兄ちゃん! あたし、応援するから」

「やぁ、まいったな。僕の友人が優秀過ぎる」


 グッと拳を向けてきたミニィに、ロイは拳をこつんと当てる。

 奥手な鑑定士は、小さなレディーに大きな勇気をいただいたのだった。


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