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16、小さなレディーの襲来


「店主、私はそろそろ失礼するよ」


 ライアンがそう声をかけたことで、メラニアは来客をよそにロイと話していたこと、それも見るからに高位貴族を無視していたことに気づいて顔を青ざめさせた。

 そんな彼女に大丈夫という意味を込めて背をぽんぽん叩いたロイは、ライアンをドアの外まで見送ることにした。


 店のドアを閉め、表でライアンと向き直ると、デルロイはこれまでの店主の顔をやめ、弟の顔でフッと笑う。


 ライアンは軽く肩をすくめながら口を開いた。


「最後に確認するけれど。もう屋敷に戻るつもりもなければ、結婚する気もないってことでいいんだね?」

「はい。また兄上には多大なるご迷惑をおかけしますが」

「ははは、今さらだね。お前のしでかしたことの後始末には慣れてる」


 ライアンはそう言うと、ロイの肩を軽く小突いた。


 やはり長兄は末の弟に甘い。ロイはさすがに申し訳なく思うと同時に、頼りになる兄に感謝の気持ちでいっぱいになった。


「素敵なレディーじゃないか。しっかり射止めて守ってやりなさい」

「はい、必ず」


 最後にそんなことを言って立ち去られては、ロイももう後には引けない。

 問題は山積みだが、必ず全てを乗り越えて自分の望みを叶えたいと改めて決意した。


 店内に戻ると、すぐにメラニアが駆け寄ってきたのでそれだけでロイの心は浮き立った。


「本当にごめんなさい。あの方、怒っていらっしゃいませんでしたか?」

「まさか。むしろ彼は、素敵なレディーを放っておいてはいけないと思うような素晴らしい紳士ですよ」

「お、怒っていらっしゃらないなら良かったですけど……」

「何も気にしなくていいのですよ。話は終わった後でしたしね」


 その後も気にするメラニアに何度か大丈夫だと告げてやると、まだ完全に納得できたわけではなさそうだが彼女はようやく肩の力を抜いてくれた。


 やはり平民にとって貴族は雲の上の存在らしい。

 いくらメラニアがデルロイに憧れていても、それはそれ、これはこれであるようだ。ロイの心中も複雑である。


「ではロイさん。そこに座ってください」

「はい?」


 苦笑を浮かべていると、突然メラニアが笑顔で腰に手を当て、そんなことを言い出した。

 彼女の言うことには全て従うロイは、疑問の声を上げながらも素直にイスに座る。


「急に何日も姿を消して……病気やケガではないならメモくらい残してほしいです」

「おっと、まだ怒りは収まっておられませんでしたか」

「いえ、もう許しましたよ? でもそれとこれとは話が別です。私がどれだけ心配したかわかってもらう必要がありますから! あ、ルカくんもですよ!」

「えっ、ボクも?」

「当たり前でしょう!? ロイさんにもルカくんにも、何かあったんじゃないかと気が気ではなかったんですからね!」


 下心もなく、純粋に心配したという気持ちだけで叱ってくれるのが心地好い。

 裏表のない心の綺麗なメラニアは、ロイの心を常に癒してくれる存在なのだ。


 結局、それからしばらくメラニアの説教は続き、ロイはルカとともに二度と同じことはしないと何度も謝ることとなった。


 ようやく一息ついた、というところでルカが何かに気づいたように顔を上げ、口を開く。


「ロイさん、数秒後に小さなお客様がいらっしゃいます」

「そのようだね」

「小さなお客様?」


 ロイもまた口角を上げて頷いた。

 一人わけのわからないメラニアが首を傾げていると、ルカの言う小さなお客様は店のドアを豪快に開けて、ドアベルをカランコロンと元気に鳴らしながら飛び込んできた。


「ロイお兄ちゃぁぁぁん!」

「やぁ、いらっしゃい。小さなレディー」


 小さなレディーは真っ直ぐロイの胸に飛び込むと、そのまま首に腕を回して抱きつき頬にキスをした。

 かわいらしいお客様の愛らしい行動に、ロイやルカ、それから先ほどまで説教をしていたメラニアも含め全員が自然と笑顔になる。


「ずっとお店が閉まっていて心配したのよ? どこに行っていたの?」

「ああ、ここにもお怒りのレディーがいたね。ごめんよ、ミニィ。ちょっとした大人の事情というやつさ」

「んもう! 子どもだからって適当なことを言ったって誤魔化されないわよ!」

「これは手厳しいな。よかったら弁明させてくれないか? そうだな、一緒にお茶でも飲みながら」


 頬を大きく膨らませてぷんぷん怒る小さなレディーことミニィは、赤毛をおさげにした緑の目の愛らしい七歳の少女だ。

 

 ロイが骨董品店を始めた頃にこっそりミニィが様子を見に来た頃からの付き合いで、いつでもお茶を飲みにおいでと誘ったことですっかり友人となった。


 ミニィもまたここ数日誰もいない店に通っていたらしく、メラニア以上におかんむりのご様子だ。


「そうやってご機嫌を取ろうとして! ちゃんと説明するまで許さないわ! お、お茶は飲むけれど」

「とびきりのお茶菓子も用意するよ。メラニアさんも一緒にどうかな」

「メラニア、さん?」


 ロイが流れるようにメラニアも誘うと、ようやく彼女の存在に気づいたらしいミニィが首を傾げて振り返る。

 メラニアもミニィも店の常連だ。すれ違ったことくらいはあるかもしれないが、意外にもちゃんと顔を合わせたことはないらしい。おそらく店に来る時間帯が違うためだろう。


「わぁ、お姉さん美人だね! あたしミニィ!」

「褒めてくれてありがとう。ミニィもとってもかわいいわ。私はメラニアよ。仲良くしてくれる?」

「もちろん! やったぁ、お友達が増えたわ!」


 簡単な自己紹介だけであっという間に仲良くなったらしいレディー二人を見て、ロイはルカと目を合わせると微笑ましげに笑った。


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