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15、弟の意外な姿を見てしまった兄


 懸念していた骨董品店への襲来は、父ではなく長兄だった。


「昨晩はよくも勝手に帰ってくれたね」


 店に入るや否や腕を組み、仁王立ちするライアンは体格の良さもあって完全に入り口をふさいでしまっている。

 目を細めて睨むその姿は迫力があり、有無を言わせぬ圧とこの人についていきたいと思わせられるオーラがあった。


 さすがは「先覚者」のスキルを持つ人物だ。人の上に立つべくして生まれたライアンが長男で本当によかったとデルロイはつくづく思う。

 そうでなければダブルスキルなんてものを授かった自分が担ぎ上げられ、小公爵になっていた可能性があるのだから。


 上の兄姉を全て差し置いて末っ子の自分が当主になるのも居た堪れないし、そもそもなりたくもない。


「これはこれは。スカイラー家の小公爵様ではないですか。いらっしゃいませ」


 まずはなにより接客だ。弟に甘いライアンではあるが、怒らせると一番厄介なのだから。


「屋敷に戻るんじゃなかったのか」

「今日はどんな品物をご覧になりますか?」

「ああ、お前に今すぐ父上の青筋を見せてやりたい」

「ふむ、公爵家の方のお眼鏡に適うものはなさそうですね。残念です」


 ライアンの言葉に一切の反応をせず、あくまで接客を続けるロイ。

 怒らせると厄介な兄も、さらに上を行く厄介な末っ子ロイの手にかかればこうなるのだ。


「わざとだね?」

「申し訳ありませんが、僕はしがない骨董品店の店主でしかありませんので。小公爵様のおっしゃる意味はわかりかねます」

「……はぁ、まったく」


 ついに根負けしたらしい、ライアンが大きくため息を吐いたその時、カランとドアベルの音がなったかと思うとすぐに小さな悲鳴が聞こえてきた。


「きゃ……あっ、ご、ごめんなさ、きっ、貴族様!? も、申し訳ございませ……」

「いや、こちらこそ入り口をふさいでしまってすまなかったね。怪我はないかい、レディー」

「は、はいっ」

「メラニアさん!?」


 ライアンにぶつかって大慌てしているのは、ロイが会いたくて仕方なかった女性、メラニアだった。


 ロイは慌てて一歩駆け寄ると、ライアンに思い切り体当たりをしてメラニアの手を取る。

 怪力のスキルがなくとも、体格の良いライアンを簡単に押しのけるほどの力はあるらしい。


「ああっ! お久しぶりです、レディー・メラニア。お元気でしたか? 体調を崩されていませんか? 少し瘦せられたようですね……けれど美しさに陰りは一切ない。いえ、それどころか僕には貴女が一層光り輝いて見える!」

「ちょ、ロイさんっ!? 今日は一段とお上手です、お上手すぎます! どうしたんですか!?」

「全て本心ですよ、メラニアさん。貴女に会えなかった時間が長すぎて、言いたいことの半分も言えていません。この胸を占める貴女への想いは語り尽くせぬほどです」

「お、落ち着いてください! それ以上褒められると私、その、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうです……!」

「おっと、これは失礼」


 顔を真っ赤にしながら俯くメラニアを見て、ようやく我に返ったロイは半歩下がる。

 そのまま手を取り口元に持っていくと、軽いリップ音を鳴らしてメラニアを熱い眼差しで見つめた。


「メラニアさんに、ずっとお会いしたかった」

「ロイさん……」


 二人だけの時間が流れているかのような錯覚。

 しかし、突如キッとメラニアが睨んできたことで場の雰囲気が一変する。


「それは、こちらのセリフです」

「……メラニアさん?」

「急にお店に誰もいなくなってしまって、私、すごく心配したんですからね! ロイさんやルカくんに何かあったのかって、このままずっと会えなかったらどうしようって……黙っていなくなるなんて酷いです!!」


 いつも穏やかなメラニアが怒る姿など初めて見たロイは、目を丸くして言葉を挟むこともできずにいる。

 おろおろとしながらただ彼女の言葉を聞くロイは、いまだかつてないほど慌てていた。


「そりゃあ、私はロイさんたちにとってただの客ですけど、友人になれたかなって勝手に思っていたんです。それなのに……っ」


 最後にぐすっと鼻を啜りながら涙目で告げるメラニアを見て、ロイは彼女にとても寂しい思いをさせていたのだと気づく。

 同時に、寂しいと思ってくれたことがこれ以上ないほど嬉しかった。


「……そんな風に、思ってくださっていたのですね」

「心配しました。とても怖くて、寂しかったんです。……うう、ごめんなさい。全て私が一方的に思って、勝手に怒っているだけですよね。ごめんなさ……きゃ」


 ロイはたまらなくなって、気づいた時にはメラニアを抱きしめていた。

 彼女があくまでロイを大切な友人と思っていることはわかっている。


 それでも、ロイという存在が少しでも彼女の心を占めてくれていたことがうれしくて仕方がないのだ。


「本当に申し訳ありませんでした。二度と、何も言わず去るようなことはいたしません」

「……っ!」

「僕にとっても、メラニアさんはただのお客様ではありませんよ。貴女には怒る権利があります。本当にごめんなさい」

「ロイさん……はい。謝ってくれたので許します。怪我や病気じゃなくてよかったです」


 ロイを慰めるように背中に手を回し、ぽんぽんと軽く叩いてくれるメラニアが愛しくてたまらない。

 あと少しだけこの温もりを堪能すべく、ロイは長めにハグを続けた。


「ルカくん」

「はい」

「もしかしなくても、あのレディーだね?」

「はい、そうです」

「なるほど……」


 一方、ロイに体当たりされ、呆気に取られながら弟たちの様子を見ていたライアンは遠い目をしながらルカに問うていた。


「あんな弟の姿は初めてだ。あいつも焦ったり照れたりするんだな」

「はい、ボクも驚いています」

「え? それで?」

「驚いています」


 無表情でロイを凝視したまま告げるルカを見てぽかんとなったライアンは、再びロイとメラニアに視線を移すとさらになんともいえない表情になるのだった。


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