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10、従者は覇気のない血紅の公子が心配


 メインストリートから一本外れた道を通り、入り組んだ路地を抜けた先にある一風変わった骨董品店。


 少し前まで町ではデルロイ・スカイラーがまたどこかの組織を潰したらしいという噂が広がったが、よくある話だからか二日と経たずして噂は消え、今はいつも通りの平和が訪れていた。


「今日も、お休みなのね……」


 十日間ほど原因不明の病によって倒れていたメラニアは、外を歩けるようになった三日前にデルロイの噂を小耳に挟んだ。

 その時にはすでに噂は過去の話になっており、詳しい話を誰からも聞くことができずにいた。


 そのため、いつものように骨董品店で話を聞こうと毎日通っているのだが、ずっと「CLOSED」の札がかかったままなのだ。


「ロイさんやルカくんも体調を崩していないといいんだけど……」


 メラニアが体調を崩した原因は、今も謎のままだ。

 倒れる前の数日間の記憶も曖昧で、気づけば体中に黒い痣のようなものができていた気がする、程度のことは覚えているのだがほとんど記憶になかった。


 職場である洋裁店の店主が倒れているメラニアに気付き医者を呼んでくれたらしく、少しずつ快方に向かってようやく元気になった。

 他に自分と似た症状の者はいないとのことで、伝染病ではないらしいが、メラニアには本当にどうして倒れたのか謎のまま。


 そのことについてもロイと相談がしてみたかったのだが、ずっと店が閉まっているのを見ると彼らもまた同じ病に苦しんでいるのではと心配になってしまう。


「どうか、ロイさんもルカくんも元気でいますように」


 メラニアはお店の前でそう告げると、寂しそうにその場を後にした。


 ◇


 とぼとぼと歩き去っていくメラニアの姿を、ルカは店の内側から隠れて見ていた。


 あの日から毎日、ルカは店にやってきて軽い掃除をしてから屋敷に帰るという日課を送っている。

 数日前から同じ時間にメラニアがやってくることには気づいていたが、デルロイの意向を無視して会うわけにもいかず、もどかしくも見守る日々だ。


「今日もいらしてましたよ。ロイさんやボクが病に倒れていないかと心配していらっしゃいました」

「そうか」


 当然、ルカは毎日そのことをデルロイに報告している。

 だが反応はいつもこの通りで、サラッと流されるだけ。


 ルカはそれ以上何も言わず、デルロイのお茶を準備するため一度退室した。


 デルロイはあの日以降、スカイラー公爵邸で真面目に仕事をしながら穏やかに過ごしていた。

 骨董品店をやる前よりほんの少しだけ仕事に意欲的で、フラフラ遊び回らなくなった末息子の姿に屋敷の者はみな驚いた。


 とはいえ、仕事も飽きれば放り投げて勝手に読書を始めたり、身体を動かしに外に出たりと自由なところは変わらない。

 それでも頼めば話を聞いてくれて、夜になっても遊びに出かけないというだけで、彼を良く知る者にとっては大きな変化だ。


 デルロイの父であるスカイラー公爵も使用人たちもみながデルロイの変化を喜んだが、ルカはどうしてもそれを手放しで喜べずにいる。


 従者として、デルロイが少しでも真面目になったというのは喜ばしいはずなのに。


「そもそも、ボクがデルロイ様にどうこう言える立場ではありませんしね」


 デルロイに忠誠を誓っているルカは自らのスキル、契約魔法で命をかけるほど彼に忠実だ。

 彼を裏切るような真似をすれば即命を落とし、自らの過失で彼の身に何かあれば自分も同じ目に遭う。


 彼が死ねば、数日後に自分も死ぬ。


 ルカの契約魔法は国で一、二を争うほどの腕前だ。

 自分で自分に解除の難しい契約魔法をかけるほど、デルロイに人生を捧げているのである。


 ただ、当時のデルロイは契約魔法をかけるのにあまり良い顔をしなかった。

 そんなことをしなくても側にいていいと言ってくれたが、生い立ちのせいかルカは契約魔法で縛られていないと落ち着かなかったのだ。


 そんなルカを思って、最後は許可を出してくれたデルロイ。

 結局のところワガママを聞いてくれた形になってしまったと、今ではルカもそう思っている。


 こうした性質のせいで、ルカは主人に対してあまり意見を言うことができない。

 本当は聞きたいことも、言いたいこともあるが言えないのだ。


「ああ、そうだ。ルカ」

「はい」


 お茶の準備を終えて部屋に戻った時、デルロイが思い出したかのように声をかけた。


「あの店はもう畳むことにしたよ。だからもう掃除に行かなくていい。売りに出す手続きを始めてくれ」

「え」


 声に抑揚はなく、あまりにもあっさり告げられた指示にルカは返事も忘れてただ立ち尽くす。

 すぐに了承の返事をするには、ルカにとってもあの店はとても大きな拠り所となっていた。


 デルロイはそんなルカの様子に気づいているはずだが、それ以上は何も言わず優雅にお茶を飲んでいる。

 顔色一つ変えずに、いつも通りの余裕な笑みを浮かべて。


 ただ、今のデルロイには覇気がない。ルカの良く知る主人の姿とは違って見えた。


(それでもボクは、ただデルロイ様に従うのみだ)


 ルカは一度目を伏せて気持ちを切り替えると、いつも通り軽く頭を下げる。


「……承知いたしました」


 言葉では了承したものの、ルカはどうしてもすぐにあの店を売る手続きをしようとは思えなかった。


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