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ギブミーマネーは通じない

翌朝。初めてのクエストで色々あったオリバーは、ソファの上で目を覚ました。

キッチンからはいい香りが漂ってくる。メリアが朝食を作っていた。


テーブルの上には卵焼きとバターを塗ったパンが並べられている。二人は並んで座り、食べ始めた。


「おはよう、メリア」

「おはよう、オリバー」

「なあ、メリア。今度こそ街のあちこちを見て回ろうぜ」


もぐもぐと口を動かしながら、オリバーが提案する。


「どこを見たい?」

「そうだな……うーん……」


オリバーは考えたが、特に思いつかなかった。


「今は思いつかないけど……あっ、そうだ! 魔法を使ってみたい!」


「魔法ね……うん、遠距離攻撃は覚えておいて損はないわ」


メリアはふと何かを思い出したように言った。


「そうだ、魔法を撃てる場所あるよ。昔来たとき、よく使ってた場所があるの」


「よっしゃ! 俺、どんな魔法使えるのかな?」


メリアはポケットからスマホを取り出し、オリバーの情報を確認する。


「君が使える魔法は……そうね、炎と風系よ」


「マジかよ! やった!」

「ってことは炎をドバァーって出せるんだな! 風は何ができるんだ?」


「風はね、極めれば鉄だって切れるわよ」


「マジで!? すげー! やってみたい!」


「それに、飛ぶこともできるわよ」


その瞬間、オリバーの表情が固まった。


「あっ……うん、それはいいや……」


「ん? どうしたの?」

(あれ? 喜ぶと思ったのに……)


メリアはスマホでオリバーの「苦手なもの」の欄を確認する。


(あっ……やば! 忘れてた。高所恐怖症だった!)


さっきまで目をキラキラさせていたオリバーは、すっかり元気をなくしている。


「しょぼん……」


励まそうと、メリアは話題を変えた。


「あっそうだ。闘技場に興味ある? ちらっとだけど」


オリバーの目が再び輝く。


「えっ、この街にあるの?」


「いや、この街にはないけど、隣の街にあるよ。昨日、はぐれてた時に偶然ポスターを見かけたの。三日間開催で、初日は新人専用だから、君も参加できるはずよ」


「いいね! 力試ししてみたい!」


朝食を食べ終えたあと、メリアは体を小さくしてオリバーの肩に乗り、二人でギルドへ向かった。


ギルドにはタツミとアレックスがすでに到着していた。机に座って二人は待っていた。


「よう、二人とも。おはよう!」


「お……おはよう」

タツミはまだ眠たそうな声で返事をする。アレックスはノートに「おはよう」と書いて見せた。


「なあ、タツミ。君は魔法使える?」


「わ、私は……ちょっとだけ……」


アレックスもノートに「僕もちょっとしか使えない」と書いた。


メリアが提案する。


「クエストに行く前に、訓練場で魔法の練習をしてみない?」


「か、構わないよ。私は……」


アレックスは「昼食の後で訓練しよう!」とノートに書いた。


オリバーとメリアは二人に別れを告げ、街の中を歩きはじめた。


「おっ、本屋さんだ。ちょっと見に行こうぜ!」


「ええ? 本を見るの? 私は反対側の店を見てくるわ」


メリアが向かった先はアクセサリーショップ。女性専用のアイテムがずらりと並んでいた。


「わかったー」


オリバーは手を出しながら言った。


「ギブミーマネー、プリーズ」


「NO」

「君は“見る”って言ったの。買うとは言ってないよ」


しょんぼりしたオリバーは、本屋の中へと入っていった。


目をキラキラさせながら店内を見回すオリバー。本棚には「魔法」「知識」「歴史」など、ジャンルが分かれている。


「いらっしゃいませ~」

店員は漫画を読みながら、片手間に挨拶する。


「店員さん、それ漫画? 何読んでるの?」


「これ? 最近流行ってる漫画だよ。どっかの転生者が元漫画家だったらしくて、連載してるんだってさ」


店員は黒髪ロングで、片目を前髪で隠していた。


「へぇ〜。他にも漫画ある?」


「奥の棚にいろいろあるよ」


「マジか! ありがとう、店員さん!」


(やったぞ! この世界にも娯楽があるのか! あれ、もしかして……)


オリバーは日本で有名な三大漫画を思い出しながら、奥の棚へ向かっていった。



一方その頃、メリアはアクセサリーを試していた。

小さな蝶のイヤリング、大ぶりのリングイヤリングなど、いくつも試していたが――。


ちょうどイヤリングを外した瞬間、店に誰かが入ってきた。


それはタツミだった。


(!?)


驚いたメリアは、自分の姿が人間サイズのままだと気づき、慌てて体を小さくして隠れる。


(やばっ……バレるとこだった……)


(タツミは……何しに来たの?)


タツミは花の形をしたネックレスを手に取り、微笑みながら見ていた。


(……な、なんであのネックレスを見てそんなにニコニコしてるの?)


やがて、タツミはネックレスを二つ買って店を出ていった。


(もしかして……彼氏がいて、ペアのネックレスでも買ったのかな……?)



その頃、オリバーは奥の棚の前で感動していた。


(ハレルヤ! 俺の欲しい漫画あるだけじゃなく、他にもたくさんのジャンルが……ヤッベェ、超ラッキー!)


(ん? 他にも……えーと、B、L……?)


(“BL”ってなんだ? 変わった名前だな……それと漢字で“百”に“人”に“合う”?“ひゃくあい”……知らないジャンルだ)


(ま、いっか。そろそろ他も見て回ろう)


オリバーは満足そうに本屋を後にした。

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