タツミの能力
部屋のキッチンで、温かいコーヒーを飲みながら戦闘の疲れを癒しながら、メリアとアレックスは話していた。
「まずね……」
メリアは、どうやって今回の仕事を受けたのかを語り始めた。
――メリアがオリバーと出会う前。
場所は南国のビーチ。天気は快晴で、涼しい風が心地よい。
メリアはビーチの砂の上にシートを敷き、背中を焼きながら、数年ぶりの連休を満喫していた。
ちょうど背中が温まってきた頃、誰かが影を落として声をかけてきた。
「ちょっと話があるんだけど、今いい?」
「……ん? 誰ですか」
不機嫌さのにじむ返事。内心では 人が気持ちよくリラックスしてる時に話しかけるなんて大罪 とすら思っていた。
しかし振り向いた瞬間、メリアの表情が固まる。
そこにいたのは――女神だった。
女神は天界から降り、ラフな私服に着替えていた。
メリアの目は一気に見開かれる。会社でいえば “社長クラス” と会話しているようなものだ。
その相手に、メリアは思いっきりタメ口をきいてしまった。
彼女は慌てて起き上がり、土下座した。
「す、すみません!! 女神様!」
「はは、大丈夫よ。気にしてないわ」
女神は笑って受け流した。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけどね。いいかしら?」
「は、はい」
「転生者の案内役を、またお願いしたいの」
「案内役……ですか?」
「四つの国を案内したら、戻ってきていいわよ」
「え、あの……女神様。私、まだ連休なんですけど」
「ああ連休ね。じゃあ、この仕事が終わったら倍にして休んでいいわよ」
「二倍ですか!?」
――こうして、メリアがオリバーと出会うまでの経緯を語り終えた。
二人のカップのコーヒーは空になり、メリアはもう一度コーヒーを淹れた。
アレックスはカップを受け取り、机のノートに長い文章を書き始める。
書き終わると、アレックスはそのノートをメリアに差し出した。
メリアが読むと、そこにはタツミについて書かれていた。
タツミは生前、多くのトラウマを抱えて引きこもっていたが、生き方を変えようと決意した矢先に死に、転生した。
その反動か、彼女が転生時に望んだ能力は「英雄召喚」。
効果は、多次元から状況に合った英雄を呼び出すこと。
その英雄は過去・現在・未来、どの時代からでも選ばれる。
ただの似ている“英霊召喚”と違う点は、召喚された英雄の魂を人形の身体にコピーされることだった。
アレックス自身も人形の身体であり、血は流れない。
さらに生前の装備も付属するため、彼にとってはありがたい力らしい。
“身体はコピーでも、記憶と戦闘経験は全て自分のものだ”
――読み終えたメリアは納得した。
彼から感じていた“違和感”の正体は、魂を宿した人形だったからだ。
続いてアレックスは、オリバーの能力についても疑問を書いていた。
「そうね、オリバーの能力ね……」
メリアの視線が泳ぐ。
オリバーの力は、他の転生者に比べると明らかに弱い。
魔力無限でも、レベルマックスでも、最強武器持ちでもない。
「彼の能力は――忘却よ」




