グランドアリーナデシーザー編:予想外の勝利
試合に勝ったオリバーはレストランで食事をしようとしたが、疲れのあまり眠ってしまっていた。
——レストラン
「あれっ! オリバー寝ちゃったわね?」とメリア。
「……多分、薬の効果かな……」
タツミはカバンからハイパー回復薬のビンを取り出し、ラベルを読んだ。
注意:副作用として眠気・吐き気が出る場合がありますので、少しずつ飲むようにしてください。
(ごめん、オリバーくん……全部飲ませちゃったよ……)
オリバーは口からよだれを垂らしながら熟睡していた。
「Zzzzz……」
「って、めっちゃ熟睡してる‼︎」
メリアは思わずツッコんだ。
そんなやり取りをしているうちに、店員が料理を運んできた。
「わぁー、美味しそう!」とメリアが声を上げる。
タツミもおそるおそる手を合わせる。
「い、いっただきまーす……」
するとその瞬間、オリバーが目を覚ました。
「はっ! ……俺、寝てたのか?」
二人が食事を楽しんだあと、再び闘技場へと戻った。
⸻
実況者マキエナちゃんに次の試合を確認すると、なんとすでに決勝戦になっていた。
「マジか、もう次で決勝戦なのか……。
うおおおー緊張してきたな。バグラファイナルのカード大会以来だ!」
緊張するオリバーを見て、メリアが諭すように言った。
「落ち着きなさい。君はあの大会で優勝したのよ。だから今回も大丈夫」
「いや、優勝はしたけど……結構ギリギリだったんだぞ」
「や、やれますよ! 一戦突破できたじゃないですか!」とタツミもフォロー。
アレックスは無言でグッジョブのサインを見せ、さらに「大丈夫、やれる」と書かれたノートを掲げた。
「……そうだな」
オリバーは小さくうなずいた。
前世でも勝ち負けは散々経験してきた。やることは分かっている。
——今はただ、楽しみたい。
その時、マキエナちゃんの声が響いた。
「お待たせしました! ビギナークラス決勝戦を開始します!」
「右側にはオリバー選手! 左側にはコズモ選手!」
「今回の指定武器は鉄の棍棒です!」
二人は棍棒を手に取り、構えた。
⸻
コズモはギザギザの髪をした二十代の青年だった。
「よう! オリバー、正々堂々と戦おうぜ! 安心しろ、あんなクソ野郎みたいに騙したりしないさ。
ただ……俺には時間がない。このあとデートなんだ」
「(……なるほど、コイツは悪いやつじゃなさそうだ)」
オリバーは相手の言葉に少し安心した。
「わかった。でも俺を倒すのは難しいぞ!」
二人は激しく棍棒をぶつけ合う。
ガンッ! ガンッ! と闘技場に響き渡る音。
実況席からマキエナちゃんが叫ぶ。
「うおおおー! なんちゅー激しい打ち合いだぁー!」
両者同時に肩へ一撃を食らわせ合った。
「やるな!」とコズモは笑い、オリバーは息を切らしながらも応じる。
⸻
観客席では、メリアたちが声を張り上げて応援していた。
……ただし勇者ナタリアだけは横を向いて居眠りしていた。
両者は再び激突。
互いに相手の棍棒を奪おうとし、取っ組み合いになる。
「おっと! これはお互いの武器を奪い合いだ!」実況が盛り上がる。
「おいおい、俺の武器取るなよ!」
「いやいや、君こそ取るなって!」
二人が熱く叫んでいると——
「ゴーン、ゴーン」
昼の鐘が鳴り響いた。
その音を聞いた瞬間、コズモの動きが止まる。顔が青ざめていた。
「やべっ! 悪い! 本当はもっと戦いたかったけど……デートの時間なんだ!」
そう言ってコズモは武器を放り投げ、実況者に向かって降参を告げた。
「えっ……降参!? ……わかりました! これにより勝者、オリバー選手!」
オリバーが振り返ったとき、すでにコズモの姿はなかった。
「えぇぇぇ!? もういない! ……か、勝っちゃったよ……」
勝利には違いない。だがオリバーの胸には、どこかモヤモヤした感情が残っていた。
——本当は、全力の戦いで終わらせたかったのに。