グランドアリーナデシーザー編:負けず嫌い
丸出屑の握手による卑劣な罠にかかり、オリバーは眠ってしまった。
どうやら握手そのものが罠で、何らかの能力によって眠らされたのだ。
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観客席
「まさか、こんな相手と初戦で戦うなんて……」
メリアは心配そうにつぶやいた。
タツミも、パタンっと倒れて無反応のオリバーを見て心配していた。
だがアレックスだけは動揺せず、冷静にオリバーの様子を見守っていた。
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夢の中
その間、オリバーは夢を見ていた。
休日になるとゲームばかりしていた前世のオリバー。
特にホラーゲームのパズルに手こずることが多かった。
「えー、ムズいなこれ……。これかな? ……いや、多分こっちか?」
部屋の中にはゲーム機のファンの音と、コントローラーのカチャカチャ音が響いていた。
そこへ母さんがイヤホンをしながら入ってきて、モニターの「ゲームオーバー」画面を見て言った。
「ブラジル人は……あ・き・ら・め・な・い♪」
ご機嫌に歌いながらアドバイスしてくる母さん。
「はいはい、わかってるよ……。でも問題は“諦めない”じゃなくて、“このギミックがムズい”んだって……」
と、オリバーは夢の中で苦笑していた。
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現実
現実のオリバーは、寝ている間に背中を何度も蹴られていた。三回蹴られたところで、丸出屑は勝利を確信した。
「これで俺様の勝ちだな!」
しかし実況者が制止する。
「いいえ、まだ勝負はついていません! ルールでは“指定の武器で三回攻撃”を当てないと勝利ではありません!」
丸出は仕方なくオリバーをひっくり返し、鉄の棒を振り下ろそうとした。
その瞬間、オリバーは心拍数が一気に上がり、目を覚ました。直感で状況を理解し、反射的に丸出の股間を蹴り上げる!
「ウッ……お……おまえ……! よくも俺の大事なところを……」
実況者が叫ぶ。
「おおおっと! 間一髪でオリバー選手が目を覚まし、同時に相手の股間へカウンターキック!」
「これは痛い! 見ているだけで痛そうだぁー!」
心配していたタツミはホッと胸をなでおろした。
オリバーが観客席を見ると、タツミはなぜか目を手で拭っていた。
(えっ……泣いてる? なんで?)
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反撃開始
股間を押さえて悶絶する丸出を見て、オリバーは覚悟を決める。
(あの握手……やっぱり能力を使ってたな。多分“眠らせる効果”だろう。ズルいなー……いや、俺も自分の能力を知りたいぜ)
(にしても背中いてぇ……。Aí caramba、マジで痛え……)
背中を伸ばしながら、オリバーは構えを取った。
丸出は痛みに耐えながらも武器を構えて叫ぶ。
「くっ……そ……ぶっ潰してやる! 優勝するのは俺だぁ!」
オリバーも応じる。
「俺は諦めない! おおおおおお!」
丸出が先に鉄棒を振り下ろす。しかしオリバーは受け止めた。
次の瞬間、丸出が素手で触れようとしたその手首を掴み、オリバーは太ももへ蹴りを叩き込む!
同時に相手の武器を奪い取った。
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決着
観客席ではメリアとアレックスが熱く応援していた。
武器を奪われた丸出は取り返そうと突っ込む。
だがオリバーは二本の鉄棒を駆使し、左膝、右胸、そして頭部へと三連撃を叩き込む!
「決まったーーー! オリバー選手、華麗な三連撃で丸出選手を撃破! 勝者、オリバー選手!」
会場が大きく沸いた。
アレックスとの特訓とアドバイス、そして長年のゲーム経験が結びつき、オリバーに新たな才能が芽生えていた。
——直感戦闘。
「イェーイ! 勝った、勝った!」
(やっぱ俺、アニメみたいに無双できるぜ!)
観客席で見ていたメリアたちも、思わずほっこりしていた。
だが勇者ナタリアだけはジト目でオリバーを見て、「まだまだ未熟者ね」と心の中で思っていた。
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その後
こうして大会の一戦は幕を閉じた。
観客席に戻ったオリバーは、タツミから回復薬を受け取り一気に飲み干す。
次の瞬間、吹き出した。
「ブーッ! な、なんだよこれ! すっごい苦いんだけど!」
タツミが答える。
「そ、それはハイパー回復薬よ。打撲や切り傷なら瞬時に治るけど……味は最悪なの」
「と、とりあえず全部飲めば元気になるよ!」
そう言ってタツミは無理やり飲ませた。
「オエーーッ! Aí caramba……吐きたいけど、吐けねぇ……」
オリバーが苦しむ様子をタツミは心配そうに見つめていた。
「大丈夫? オリバーくん……そんなにまずい?」
「まずい! 死ぬほどまずい!」
隣で見ていたメリアは鼻で笑う。
「大げさね。そんなにまずいわけないでしょ」
そう言って、タツミから少し分けてもらい口にした。
直後——
「オエーーッ! まっず……これ!」
メリアも同じ反応をしてしまった。
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その後、オリバーは昼飯を食べに闘技場を出た。
本来なら他の選手の試合を見たかったが、今は腹が減って仕方ない。
近くのレストランでタツミと一緒にダブルエッグハンバーグを注文。
メリアとアレックスは注文せず、ただ見ていた。
料理が来るのを待つ間、オリバーは疲れを感じて壁にもたれ、そのまま眠ってしまった。
——眠りに落ちる直前、ふと思った。
(……なぜだろう。母さんの顔が、思い出せない……)