楽しい遊びの後には
前回までのあらすじ
ゴブリンを退治したオリバーたちだったが、アレックスがいなければ命を落としていたかもしれなかった。
その後、彼らは村の宿に戻って休息をとり、部屋で軽い遊びを始めた。
プレイしていたのは「試練か真実」というゲーム。
オリバーはメリアから恥ずかしい質問をされそうになり、試練を選択。
その結果、イタリア人のようなおしゃべりな口調で話すという罰ゲームを受ける羽目に。
一方、タツミはまだ語尾に「にゃん」を付け続けていた。
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メリア「そろそろ違うゲームをしよう。なんか飽きてきたわ」
オリバー「わっかる〜。その“王様ゲーム”ってのをやってみたーな!」(イタリア風)
タツミ「じゃあ、わ、私がルール説明するよ……にゃん?」
オリバー(マンマミーヤ……可愛い!)
効果は抜群だった。
王様ゲームを始めることになった一同。
タツミ「その前にアレックス、紙一枚くれる?」
アレックスはノートの紙を一枚破って渡す。
タツミはそれを細くちぎり、4枚に分けて準備を進める。
1枚には黒丸を、残りには数字を書き入れた。
タツミ「よーし、これでいこう!」
自信のないタツミにしては珍しく、堂々としていた。
※タツミ(陽キャたちがベンチューブでやってるの見て、一度やってみたかったんだ……!)
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一同「王様だ〜れだっ!」
メリア「やった、私ね! じゃあ……2番と3番は、ほっぺにキスすること!」
オリバーは3番だった。
オリバー「Eita caramba!(おいマジかよ!)」
彼はタツミを見るが、彼女は1番の紙を持っていた。
恐る恐るアレックスに振り返ると、まさかの該当者。
アレックスは二度見してしまうほどの偶然。
オリバー(お前かよー! アレックス!? 嫌なんだけど! 女の子ならともかく、男はムリだって!)
オリバー「な、なぁメリア、命令変えてくれよ……」
そう言っている間に、アレックスは無言でオリバーの頬にキスをした。
さらにノートを掲げ、「僕の国では、久しぶりに会った友達にはキスすることがあるんだ」と説明する。
オリバー(って久しぶりでもないし!)
母さんからのキスならまだしも、男にされるのは初めてで正直キツい!
メリアはニヤニヤと状況を楽しんでいた。
※メリア(ごめんオリバー、あっ……こうなるとは思わなかった)
タツミは不憫なオリバーの背中をそっと撫でていた。
落ち込んでいたオリバーだったが、気を取り直して声を上げた。
「よし、次いこう!」
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一同「王様だ〜れだっ!」
オリバー「来たー! やはり帝王はこの俺だぁーっ!」
メリア「“王様”ね、“帝王”じゃなくて」
オリバー「じゃあ、1番はこのゲームが終わるまで“お嬢様口調”で喋ること!」
1番はアレックスだった。
アレックス(仕方なくありませんわ……お嬢様口調で喋らせていただきますわ)
ノートの文字もなぜか少し丁寧になっていた。
オリバー(またアレックスかよ! タツミのが聞きたかったんだよ!)
こうして、オリバーたちは夜を楽しく過ごしていった。
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翌日 ―――
サボンはある覚悟を胸に、大きな決断を下した。
勇気を振り絞って部屋を出た彼女は、代理王を説得するため城へと向かう。
歩きながら「どう言えば説得できるか……」と深く考え続けていた。
そして玉座の間へと入ると、代理王ともう一人の女性がいた。
その女性は二十代ほどで、美しい顔立ちと白銀の髪を持っていた。
代理王「サボンか、ちょうどいいところだ。君を呼ぼうと思っていたところだよ」
サボン「えっ、私を……ですか?」
代理王「そうだ。たぶん君はベラリザの件で来たのだろう? 彼女とも話していたよ。
それで……この彼女と一緒に、デハーマ帝国に行ってもらいたい」
サボン「ま、まさか……光の勇者様……ですか?」
代理王「そうだ、本人だよ」
光の勇者「よろしくね、サボンちゃん。君の仲間がピンチらしいからね。
……でも、その前に。実力を見せてもらえるかな? 足手まといは、いらないから」
冷たい口調だった。
彼女はマントを脱ぎ捨てた。
代理王「戦うのなら、物は壊さないでくれよ」
椅子に座りながら苦笑する代理王。
光の勇者「さあ、いくわよ!」
剣を抜き、構えを取る。完全に戦闘準備が整っていた。
サボンは本当は戦いたくなかった。
だが仲間を助けたい。そして、今度こそは……。
「覚悟は、できています」
サボンはそう口にした。
「覚悟ね……そんなもの、聞き飽きているよ」
冷たく返す光の勇者。
サボンはマントの効果を発動し、マスクを装着。姿を透明にする。
……だがその瞬間、彼女は気付いた。
(針のケースが、ない!?)
(くそっ、忘れてた……オリバーめ、まだ私の針を持ったままか!)
戦う準備は整っていない。
それでも、サボンは戦わねばならない。
―――不利な試練の幕が、今、上がる。




