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(二)-9
緩衝材を建物やエレベーター内の床と壁面などに貼り付ける作業も必要だったが、とりあえずそれらは部屋にある引越荷物の物量を確認してからにすることになった。
藤並が1102号室のドアノブに手を掛けてそれを回す。そして手前に引っ張り、ドアを全開にした。
すると中からぶんぶんと音を立てて大きいハエが何匹も何匹も一斉に飛び出してきた。
屋外の明るさに惹かれてまっすぐ突っ込んで来るハエを避けるために、三人は思わずかがまなくてはならなかった。
「イヤな予感がするな」
松阪が言った。口にはしなかったが、藤並もそうだろうし、有井も同感だった。この中には日常には見られないような、非日常的な何かが待ち受けていることを予感させた。
(続く)




