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第7話 皇子の思惑1

「叔母様、叔父様、お久しぶりです」


 屋敷についた私たちを家人勢ぞろいで迎えてくれた。


「マリアちゃん、すっかり大きくなってしまったわね。ハインリヒちゃんはいつみてもイケメンさんね」

「マリア君は十歳のパーティー以来か。ハインリヒ君、この間はありがとう」


 叔母様はさすがお母さんの妹なだけあって雰囲気がそっくりだ。

 叔父様はお兄様と流通の交渉や経済会議などで顔を合わせる機会が多いようだ。

 お兄様はしっかり働いているんだな。見習わなければ!

 ……でもまずは、屋敷から出られるように頑張ろう。


「さあ、こんなところで立ち話もなんだし、食事でもしながら話しましょう」

「待て待て、まずは部屋まで案内して、身支度を整えてからのほうがいいんじゃないかい?」


 叔母様は思い立ったら即行動な人だ。それを叔父様がうまく制御している。

 お母様とお父様もガッツリ文官とゴリゴリ武官。お互い得意な分野で頑張っているし、お互い信頼しあっている。

 いずれ私にもそんな素敵なパートナーが見つかるといいな。


「そうね。まずは部屋に案内するわね」

「よろしくお願いします。お邪魔しまぁす」

「お嬢様ぁ、そんなに急ぐと転びますよぉ」


 お兄様と叔父様は景気の話で盛り上がっているようだ。

 二人をよそに、私は珍しい物ばかりの屋敷に興味津々だ。

 南方の宝飾品に西方の絵画。熊の魔獣のはく製なんかも飾られている。

 さながら博物館のようだ。


「あらあら、マリアちゃんは好奇心旺盛ね。この街はいろんなところの商人さんが集まるから、領都では珍しい物もたくさんあるわよ」

「そうですね。領内でもこれだけ違うのですから、明日からの他領や目的地の帝都ではまた違う発見や出会いがあると思います」

「そうね。きっといい経験になると思うわ。将来領主様になったときに役立つようにね」


 そうだ。いくらお兄様が優秀でも家を継ぐのは女として生まれた私の役目。

 お兄様が結婚して家を出てしまったら私が頑張らなければいけない。


「はい。頑張ります」

「さあ、ここが今日泊まってもらうお部屋よ。準備が整ったら食堂まで来て頂戴」


 部屋に入るや否やベッドにダイブした。

 初めての連続で思っていた以上に疲れていたようだ。


「お嬢様ぁ、お疲れなのはわかっていますが、お着替えしてディナーが先ですよぉ」

「そうね。みんなを待たせるわけにはいかないからね」


 ベッドでゴロゴロしたい衝動を抑えて身支度を整えた。

 

――――――


「マリア、来たか。みんな揃っているよ」


 食堂につくとすでに勢ぞろいしていた。


「遅くなり申し訳ありません」

「いいのよ。初めての旅の疲れもあるわけだしね」

「そうだね。それにレディーの準備には時間がかかるものさ」

 

 私は急いで席につく。

 ナッサウ領では珍しい西方料理が並んでいる。


「マリア君たちには珍しい料理だろう。帝都に近付くにつれて増えていくだろうから今のうちから食べ慣れておきなさい」

「それではみんな揃ったわけだしいただきましょう。使徒様に感謝を」

『使徒様に感謝を』


 ティエラ教。全世界にひろがる唯一の広域宗教。

 ほとんどの国で国教とされているが、本拠地がカージフ帝国帝都にあるため他国よりもより篤く信仰されている。

 神と人を結ぶ複数の使徒様を崇拝の対象としている。


「さっそくですが、あなたたちに伝えたいことがいくつかあるわ」


 叔母様の雰囲気がきゅっと引き締まった気がする。

 大事な話なのだろう。


「この街の商人たちの情報網からいくつか面白い情報があったから伝えておきたいの」

「時として商人の情報のほうが貴族より早いことがあるからね」

「まずは帝都の謎の大規模な工事について」

「それについては母様から聞いています。宰相や財務卿を通さずに始まったと。母様はいつもの皇族の戯れだろうと怒っておりました」

「皇族というのは合ってるわね。ただ、かなり重要案件らしいのよ」

「ハインリヒ君、学校というものを知っているかね?」


 あれ?そういえば学校の話は聞いたことがない。

 夢の世界では当たり前にあったから気付かなかったが。


「確か遠くの国で学校とよばれる教育機関ができたと聞いています」

「さすがハインリヒ君は優秀だね」

「そうなの。我が国にも学校を作るべきと、第一皇子殿下が皇帝陛下を説得して始まったらしいのよ。かなりのスピードで建設が進んでいるわ」


 そんなに重要なことなら国の予算でやればいいのに。

 わざわざ皇族のお金でやらなくても。


「なぜ国の事業として行わなかったのですか?」

「マリア君、いい質問だ。いくつかの噂はあるのだが、一つに絞り切れていないんだよ」

「皇族主導で行うから人気取りとか、審議の時間を省いて少しでも早く着工したかったとか、情報を出すタイミングを見計らうために内々で進めたかったとかね」


 お兄様が難しい顔で考え込んでいる。

 まあ私としては、帝都に新しい観光名所が出来るかも程度な認識なわけで。

 時間があったら工事現場を見に行くとしますか。


「それでね、二つ目の情報が今回の呼び出しが学校に関係する可能性が高いってこと」


 えっ!私たち完全に関係者じゃん……。


「マリア君やハインリヒ君以外にも陛下からの呼び出しがかかっているらしいんだ。第一皇子殿下がリストを作ってね」

「そのリストが有力貴族の成人や成体前後の令嬢令息ばかりらしいのよ」

「ということは、私たちは生徒の中核となるにふさわしいか品定めされに行くということでしょうか?」


 お兄様はとくに驚いたような様子もない。

 さっき考え込んでいたときに予想出来ていたのかもしれない。


「そうね。他にも理由はあるでしょうけど、縁談ではないとのことよ」


 それを聞いて少し安心する。

 縁談の線が消えたのはとてもありがたい。


「さて、食事も情報共有も済んだことだし、二人は明日以降に備えてしっかり休息をとっておきなさい」

 

 叔母様たちが席を立ち、それに続いて私たちも部屋に戻ることにした。

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