第15話 帝都の偉容
リラスパッツの城壁が少しずつ離れていく。
モンベリアル伯爵様一家に見送られた私たちは、東部と北部の境界線に向かっていた。
モンベリアル領は東部の一番端にあるため、ここを抜けると北部に突入だ。
「お嬢様ぁ、関所が見えてきましたよぉ」
「ついに北部ですね。でも、思っていたより普通の関所ですね」
東部と北部の境目なのだから、特別感を期待していた私。
「北部や東部なんていうのも貴族しか関係ない話だからな。選帝侯の選出エリア分けってだけで、商人や農民は意識すらしていないだろうな」
「そうですねぇ。北部に入った途端寒くなるとかはなさそうですからねぇ」
「ですが、南部は砂漠だって聞いていますが?」
「全域が砂漠ってわけでは無い。むしろ、ナッサウ家の高原地域よりも高い山々が連なっているぐらいだ」
いつのまにか関所を抜けていた。
確かに今までと変わらない。しいて言うなら、モンベリアル領よりさらに道路の舗装がきめ細やかな程度か。
「帝都周辺はすべて国の直轄領。名目上北部と言っているだけで、選帝侯エリアとは無関係だ」
「皇族の領地なだけあって綺麗な道ですねぇ。どれだけの予算をかけているんでしょうねぇ」
「他国の使者は、ほとんどがこの道を通って帝都に向かうからな。帝国の威信をかけて整備しているだろう」
このあとも順調に旅は続いた。
街で二回宿泊した。どちらの街も手入れが行き届いた良い街だった。
そして、ついに目的地が見えてきた。十日以上かかった旅の終着点、帝都イストリア。
「でっか!なにこのでかさ!」
「お嬢様ぁ、さすがにその言葉遣いはまずいですよぉ」
「ごめんあそばせ。わたくしとしたことがつい」
それにしても帝都は大きい。まだ距離があるのに、視界の端から端まで城壁が続いている。
その城壁から頭が飛び出しているいくつかの巨大建造物。通称、帝都三大建築。
皇城、ティエラ教本部大聖堂、イストリア大図書館。
でも、来年あたりには四大になるんだろうな。
だって、工事中の魔法学校も見えちゃってるし。皇子殿下、本気過ぎです……。
「さて、少し早く着いてしまったな。別邸に向かう前に寄りたいところはあるか?」
「それでは、魔法学校の工事を見学したいです」
「わかった。近くまでしかいけないが、寄り道にはちょうどいいだろう」
巨大な正門をくぐり、馬車は帝都の中央通りを走っていく。
リラスパッツほどの人出はない。だけど、整然とした上品さがある。
中央通りと交差する道も等間隔で敷かれていて、計画的に街が作られているのがわかる。
交差する道に入った馬車からの景色が様変わりした。
中央通り周辺が商業区で、今は居住区なのだろう。
夢の世界でいう下町のような街並みが続いていた。
駆け足で進んだ旅だったので、どの街でも中央通りを通り過ぎてきた。
こういった生活感を感じる場所を見ていると、夢の中の私を思い出す。
「少し羨ましいな……」
誰にも聞こえない声量で気持ちをこぼしてみる。
裕福な家庭ではあったが、大きな責任も使命もなかった夢の中の私。
貴族として、次期当主として振舞わなければいけない私。
今の生活もそれなり以上には気に入っている。でも、たまに窮屈に感じてしまう。
ままならないものだな。
いつの間にか、貴族の別邸エリアに入っていた馬車から魔法学校が見えてきていた。
「お嬢様ぁ、これいくらかかっているんですかねぇ?」
「きっとナッサウ領の予算の数年分じゃないかな」
「ひえぇ、皇族はとんでもなくお金持ちですねぇ」
そこらの町ならすっぽりと収まりそうな広大な敷地に、遠目から見ても巨大な校舎の枠組みが見える。
貴族のためだけの魔法学校ならここまでの広さはいらないと思うんだけどな?
それに、街中にここまでの広さの土地が余っているわけないのに……。
「マリア、元々ここは湖だった。それを埋め立てたようだ」
考えていたことを見抜いたお兄様が説明をしてくれた。
「ということは、帝都の水源をつぶしちゃったってことですか?」
「そうなるな。だが、それ以前に帝都では地下に水の道を通す工事をしているから問題はない」
夢の世界の技術じゃん!
水道管とか下水道とかがすでに考案されてるの?
考えた人天才か?
「それをやったのが五歳のころの第一皇子殿下だ」
「ええと、聞き間違いでなければ五歳の皇子殿下と聞こえたのですが?」
「そうだ。ほかにも様々な公共事業を行っている。それらがひと段落しての学校建設だ」
皇子殿下は軽々と予想を上回ってくる人だな……。
またオレ何かやっちゃいました?って言ってそうだよ。
「お嬢様ぁ、そろそろ別邸に向かった方がいいと思いますよぉ」
「そうね。お祖母様たちを待たせるわけにはいきませんね」
「そうだな。ちょうどよい時間だな。向かうとしよう」
帝都での滞在場所、ナッサウ伯爵家帝都別邸に向かった。
別邸には、普段なら皇城勤めのお母様、お祖母様、お祖父様が暮らしている。
今はお母様が領地に戻っているため、お祖母様たちだけだ。
最後に会ったのは、二年前の十歳の記念パーティーだったので久々の再会だ。
「マリア、もう着くぞ」
「近かったですね。貴族が通いやすいように学校をつくったんですね」
「だろうな。私も別邸に来るのは初めてだから楽しみだな」
「お兄様も初めてだったんですね。てっきり来たことがあると思っていました」
「成人前に帝都に来る用事など、そうそうないからな。魔力測定もリューネブルク領の聖堂でやったしな」
「お嬢様は明後日の謁見の日が成体なので、その翌日に大聖堂で測定ですよぉ。大聖堂で出来るなんてすごいですねぇ」
総本山で魔力判定をするのはほとんどが皇族だ。
ちょうど帝都に呼び出されてしまったため、皇族側で手配してくれたらしい。
目立ちそうで嫌だな……。
「さて、着いたようだ。お祖母様たちがお待ちだ」
馬車を降り、お祖母様たちの下に駆け寄る。
「マリア、到着いたしました。しばらくの間お世話になります」
「マリアちゃん、久しぶりね。また綺麗になったわね」
お祖母様は嬉しそうに笑い、歓迎してくれた。
「まずは部屋まで案内しちゃうわね。その後に夕食ね。奮発したから期待しててね」
そう言って案内された部屋は、普段お母様が使っている部屋だった。
「遠くまで来たんだな……。屋敷のみんなは元気かな?」
お母様の残り香を感じ、ホームシックになりかかっている私がいた。




