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第0話 葬送行進曲は突然に

 俺は宍戸真。

 町工場で働く父と、コンビニバイトの母。

 裕福ではないけど、貧困するほどでもない。庶民というやつだ。

 

「マコト君、なんか遠くを見てるけど……考え事?」


 この子は周防夏美。

 外交官の父と、代々議員を輩出する家柄の母。上流階級のお嬢様だ。

 

「ちょっとね。なっちゃんと出会ってずいぶん経つんだなぁって考えてた」

「そうね、小さいころはいっつも私にべったりだったよね」

 

 俺となっちゃんは幼馴染。家も近く、仕事で両親がいない日は大概一緒にいたな。

 一緒にいるのが当たり前すぎて気づかないこともいろいろあったんだ。

 

「バカ、俺がなっちゃんにべったりだったんじゃないだろ!逆だ、逆」

「じゃあ、そういうことにしておきます。でもあの時はびっくりしたなぁ。お父さんたちも固まっちゃってたよ」

 

 なっちゃんが親父さんの仕事で海外に行ってしまったことがあった。

 俺は強がって「あっそ、行ってらっしゃい」とか言って送り出した。

 ガキだったなぁと思う。なっちゃんすごく悲しそうな顔してたからな。

 でも何日かしてやっと気づいた。

 なっちゃんは俺にとってすごく大切だったんだって。

 それからの俺は凄く頑張った。

 なっちゃんは勉強が出来たし、家の都合的にも高校は最難関の進学校に行くと思ったから。

 さっきは否定したけど……俺はなっちゃんにべったりだったな。

 努力の甲斐あってなっちゃんが帰ってくる頃には学年トップになっていた。

 

「あれは若さゆえの過ちといいますか、勢いあまってやらかしたと……」

「私は過ちなんて言ってほしくないな。すごくうれしかったんだよ?少し恥ずかしかったけど……」

 

 なっちゃんが帰ってくることになって俺は空港まで迎えに行った。

 久しぶりに会ったなっちゃんは凄く奇麗になっていた。

 本当は久しぶりとか、おかえりとか言うつもりだったんだけど……。

 

「なっちゃんを見たらだれにもとられたくないって思っちゃってさ……」

「君のことがすごく大切だったと気づきました。付き合ってください、だったかな?」

「そんなくさい言い方してた?」

「してたしてた。私がただいまって言おうとしたのを遮りながらね」

「うるさかったロビーが静まり返ったよね」

「周りにいた人たち、話すのやめて私たちのこと見てたからね」

「なっちゃんがOKしてくれた時は、周りから歓声があがったからね」

「見ず知らずの人たちも一緒に喜んでくれるなんてびっくりだったね」

 

 そんなこんなで恋人になり、無事に同じ高校にも進学できた。

 授業は難しく大変だったけど、なっちゃんに負けないように頑張った。

 

「そういえば高校の時、俺テストの点で一回も勝てなかったけど……勉強頑張ってたの?」

「マコト君に負けないようにすごく頑張ったんだよ。褒めて褒めて」

「すごいなぁ、なっちゃんは。結局ずっと断トツの一位だったからなぁ」

「マコト君だってずっと二位で喰らいついてきてたじゃん。それにスポーツだとマコト君にまったく勝てないから」

「なっちゃん、運動神経はね……」

「スポーツ万能な人に私の苦悩はわからないでしょうね!それに女子の憧れの的だったんだよ。文武両道の王子様だって!」

「妬いてるの?可愛いなぁ、なっちゃん」

「やーいてーなーい!まぁ、可愛いのはホントだけどね。フン!」

「まぁまぁ、なっちゃんの人気もすごかったんだよ。俺といないときは猫被りのお嬢様モードだったじゃん。だから高嶺の花とかお姫様って」

「じゃあ今みたいに話してる私を見たらみんな幻滅するのかな?」

「さぁ、どうだろうね?でも、自然体のなっちゃんは俺だけにみせてほしいな」

「……この天然たらしめ」

 

 ホント、楽しい時間はあっという間だな。

 なっちゃんは高校卒業後、都会の名門大学へ進学した。

 俺は周りの大学進学の勧めを断り、地元の大企業に就職した。

 早く一人前の男としてなっちゃんを迎えられるように、必死に働いてきた。

 

「なっちゃん、俺今度昇格試験受けることになったんだ。史上最年少だって」

「えっ、マコト君すごいね!頑張ってたからね」

 

 俺の雰囲気がかわったことに気付いたなっちゃんは、真剣に耳を傾けてくれている。

 

「試験は間違いなく受かると思う。給料も一気に跳ね上がるんだ。合格発表はなっちゃんが卒業して帰ってくる少し前」

 

 緊張してきた。たぶんなっちゃんは察しているだろう。

 

「だから、帰ってきたときに大事な話があるんだ」

「そっか、楽しみに待ってるね……(これってもしかしてプロポーズの予告!?)」

 

 二人は気恥ずかしさで黙り込んでしまった。


――――――

 

 今日は合格発表の日。

 一人掲示板に向かって歩いていた。

 

「あれ、バッグが落ちてる。落とし物かな。しょうがない、守衛所に持ってくか」

 

 拾い上げた瞬間。

 ドォン!

 爆発したと思う。

 

(テロ?なんで俺が?)

(なっちゃんにプロポーズするはずだったのに!)

(あっ、これ死んだんだ。ごめん、なっちゃん)

(君を残して逝ってごめん……)


――――――

 

 オギャアオギャア。

 

「元気な男の子です!」

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