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星なるダメ王子の物語  作者: クロス
第一章
21/30

21 自らの闇はコーヒーよりも苦い



午前の授業をつまらないと思ったのは久しぶりだった。身になることも聞いた気はしたが、今日は本当に朝からエリカが隣の席になったという事実が頭にあったせいか授業に集中できていなかったからだろう。


それと・・・・心臓に悪い急な名前呼びに驚いたし、なにより少しだけ男心をくすぐられて、名前呼びを反芻してしまっていたのが授業に集中できなかった結果だ。


・・・・【我ながら単純だな(しょうじきになれよ)】と思った。


移動教室の際、しっかりと歩けては居たが冬華の目にはやはり無理をしているように見えた。

今日は午後から体育だ。『見学しとけよ』、と連絡を入れたのに対して、『勿論ですよ。貴方に言われた通り無茶はしませんよ』と返ってきたので安心した。


スマホをポケットに入れて中庭に出る。今日は弁当もあるので外で食べるのがいいと思ったからだ。

空を見上げて、雲と青空を見て少しだけ懐かしい気持ちになったのを振り払って日陰があるベンチに向かおうとするとーーーーーー


「おーーす!」

「やっほーー!!」

「ぐぶっ!」


全く同時に背中にタックルされた。魔術士として何年修行を積んできたんだ。気を許している相手であっても気を抜かず警戒しろと自分を呪った。

魔術士の中には殺気などを隠したり、無害な一般人を装ってきてそのまま暗殺に入る魔術士や身体に受けた数が遅れてやってきて出血して倒れるなんていう変態じみた方法で殺しをやる魔術士だっているのだから警戒して然るべきなんだが、この2人には全く意味がないのが悔しい。


呆けていたのもあるが、余りのスピードに反応できず、背中に幼馴染の美紀と春正の攻撃がクリティカルヒットした。


「おい!何なんだいきなり!」

「いやいや、親友同士のスキンシップだって」

「そうそう。愛情表現だよ、愛情」

「何が愛情だ!朝食ったもん吐くかと思ったわ!」

「およ?何食べたの?」

「サンドウィッチ」

「「おお~!!」」


二人の声が見事にハモリ、賞賛の声を浴びる。

二人は冬華の料理の腕を知ってるので、羨ましがるのも当然かもしれない。


「弁当のついでに何個か持ってきたから食べていいぞ」

「マジで?やった~!」

「わ~い!と~君のご飯♪と~君のご飯♪」

(ただのサンドウィッチ何だけどな)


しかし、エリカもかなり美味しそうに食べていたので、美味いとは言えるが自信はそこまでない。

自信を持てと周りの人間から言われるが、逆に自信満々で居る方が難しい。

自信満々すぎるのも良くないし、自信喪失気味なのもの良くないと思うが、自身ありげで失敗した時の方が嫌なので出来るだけ自信というものを身に付けないようになったと思う。

他人に期待されすぎるのもプレッシャーに感じるので

適度に期待されすぎないスタンスで出来るだけ生きている。



「あっ!とー君弁当だ!」

「あれほんまだ。めっずらし」

「あーーうん。最近食生活を見直してよ。暫くは弁当にしようかなって」

「いいことじゃん。学食代節約できるし」

「な〜に?可愛い彼女にでも言われたの?」

「彼女なんていねぇよ。・・・・単純に料理の修行で作ろうと思ったんだよ。腕落ちてるし」

「ふぉんなほのふぁひよ」

「もう食ってんのかよ・・・・・美妃、何言ってるか分かるけど食ってから喋れ」

「ごくんっ・・・・そんなことないよとー君。めっちゃうまいよ」

「そうそう美味い美味い。特に俺はこの粒マスタードがいいな。うめぇぜ」

「私チーズとケチャップのやつ!パン違うけどハンバーガーみたいな感じがする。お肉が欲しかった」

「そりゃもうサンドウィッチじゃなくてハンバーガーだばかたれ」

「にゃはは。ごめんごめん」


冬華もエリカの作ってくれた弁当を食す。実に美味しかった。卵焼きも甘いのと塩の両方を作ってくれているし、なんならコロッケも入っていた。


(あいつ、俺のこと甘やかしすぎじゃないか?)


自分でも優しく笑っていたことに気づいていた。この気持ちをなんと呼ぶかは分からないけれど、心が満たされているのが実感としてあった。


この感情の正体が分かる日は今ではないだろう。だから今は考えずに弁当に集中する。


俺はそれを知らない(うそをつくな)


ならばこれは何だ?(めをそらすな)


そして気づいた。頭の中に浮かぶ言葉の裏に何か聴こえてくることに。

まるで自分の中にもう一つの感情が意識が・・・・闇があるかのような感覚だ。

視界と意識が真っ黒に染められていくように感じ、今自分は何処を見ているのかも目の焦点があっているのかも分からない。

過呼吸の人間が上手く呼吸が出来ず苦しんでいる人を見た事があったが、今の冬華はそれに近い状態だったと言えよう。

人の声が聞こえず、自分が今何をしてどこに向かっているのかも分からない、呼吸をしているのかも怪しかった。何せ感覚がなかったから。


そんな状態の中、声が聞こえた気がした。


起きて(うるさい)


自分を保って(うるさい)


声は聞こえるが、自分の内側の声と誰かの声が聞こえる。気のせいだろうと思い感覚がない感覚のままあろうとしているが、それでも声が聞こえてくるのは気のせいではなかった。

声と意識が明瞭になり始め、感覚が戻ってきたの実感する。

まさにそれは夢の中で夢だと気づくのと同じことで、目は開いているのに、暗がりの中にいるような感覚で、目が開いているのに暗いのはもう、目を閉じているのと同じだ。

やっと今初めて目を開けられたと実感する。

目を開けて意識をはっきりとさせると、目の前には何故か紅野エリカが立っていた。

それも心配そうな顔でこちらを覗き込んでおり、少しだけ焦りも見えるように思う。

他に視界をやるとエリカの背後には春正と美妃が居て、今いる場所は廊下だった。その他周りには他生徒が大勢いた。


「・・・・どーした?紅野?」

「貴方の方こそですよそれは!」

「え?」


少し声を荒げてそう言われてしまったので寝起きのような思考回路を素早く目覚めさせて、いつもの思考に戻す。


「冬華」

「・・・春?」

「とー君大丈夫?」

「美紀も・・・・大丈夫って・・・・何が?」

「何がって・・・お前昼食終わった後俺たちと歩きながら歩いてたの覚えてるか?」

「え・・・いや」

「私達、とー君に話しかけてたんだけど、ちゃんと返事が返ってきたから可笑しくないって思ってたんだけど・・・紅野さんが駆け寄ってきてね」

「そしたら急に冬華の体を揺らしながらまるで意識ない人間に意識確認の為の声掛けみたいに声かけるから驚いたぜ」

「様子がおかしいと思ったんですよ、遠目から見ても。顔色が悪いように見えて、ですけど影月さん達には違和感を抱いていないように見えたので一瞬躊躇ったのですが・・・声を掛けて正解でしたね」

「・・・・・」


全く覚えていなかった。覚えているのは自分の知らない何かが自分の中にいることが分かったのと、誰かの優しい声がした事だけだった。

確かに冬華は歩いていたのだろうが、冬華自身に記憶はない。一体自分に何が起こったのか分からず、混乱するだけだったが、エリカにこれ以上の心配をかけさせるわけにはいかなかったし、他生徒にエリカと何かあるんじゃないかと噂されても面倒だ。


「声かけてくれてありがとな紅野。なんか心ここにあらずって感じだったみたいだ。よく覚えてないけど、お前が声かけてくれなかったらあのままだったかもな」

「・・・・体調に問題はないのですか?」

「至って元気だぜ?ただちょっと気分が優れなかったってだけだ。今日は天気もいいし、日に当たってのぼせたかな?」

「・・・・分かりました。だったら一度保健室へ行ってきてください。授業までまだ時間ありますし昼休みもまだ残ってますから」

「え?いや平気」

「いいから、紅野さんの言う通り休んどけよ」

「そうだよ!最悪来れなさそうなら先生に言っとくから、休める時に休んでて?とー君」

「・・・・・分かった、悪いけど頼んだ。春、これ弁当箱頼む」

「おう。念の為更衣室に体操着持ってとくな」

「さんきゅ。紅野も本当にありがとう、助かったよ」


冬華は3人と別れ、少しだけ重い足で保健室まで向かう。近くで見ていた生徒から様々な目で見られていたが気にせずそのまま保健室に入る。


「失礼します」

「あら?久しぶりのお客様ね」

「いらっしゃい、冬華君」

「・・・お久しぶりです。保健室なんて早々来るものではないですからね」

「熱かしら?それとも睡眠不足?」

「ティアさん、どれも違います」

「じゃあそれともお姉さん達に会いに来たのかしら?」

「未門さん、もっと違います」


ティア・スターリング。金髪ロングで翠眼、眼鏡をかけている。白衣と、スーツの上からでも分かる程のスタイル抜群で人一倍の巨乳と男子生徒からは言われている。一挙手一投足から母性が溢れ、誰に対しても優しく対応してくれる為、恐らく学校の教師の中で人気No. 1であるだろう。

そしてドジっ子としてもNo. 1である。歩いているだけなのに何故か足元に物が落ちていて毎回躓いてこけている。

服を前後ろ反対に着ていたり、遂には下着を付けずに外出することもあるそうだ。

ドジの範疇を超えている気がする。


眼鏡のレンズを拭きつつ笑っている姿はつい笑みを溢してしまうほど安心した。


「ティアに見惚れてるんじゃないわよ。ここにも美人のお姉さんはいるわよ」

「見惚れてませんよ。ていうか美人なのは知ってるんですから態々言わなくていいですよ」

「あら嬉しいこと言ってくれるわね」


魅鏡未門(みかげみかど)。薄い赤ワインのような髪、キュートさと大人の色気がある黄色い瞳、ティアと同じくスタイル抜群(胸は標準程度)である。

ティアが巨乳(ドジっ子)No. 1なら、未門は色気No. 1の教師だろう。

胸が大きく開いた服装の上からは白衣を羽織っているのがなんとも男心をくすぐってくる。

というのが男子生徒からの声が上がっている。


この2人は小学校からの仲らしく、魔術士専門の医者であるが、今はこの学校の学園長に誘われ2人で看護教諭になっている。

冬華はこの2人とは知り合いで、以前は冬華の実家にも居た事があるし、約5年前のレイナを失ったあの夏の日で起きた時の事件でおった怪我を手当してくれたのはこの2人なのだ。


それ以降、仲良くさせてもらっている。何せこの2人の先祖は冬華の先祖と深く関わっていたそうで、ティアの先祖に至っては冬華の先祖の妻の1人だったそうなので、冬華とティアは血縁関係になる。


「冬華くん、保健室に何か用なの?」

「あーいや、実はちょっと調子が良くなくて、身体的なものじゃなく、精神的なもので・・・」

「・・・・・何が見えるの?」

「え?」

「いや、見えると言うよりは聴こえるのかしら?」

「!・・・・はい。ここに来る前から何か頭の中に自分の考えている言葉と重なって、別の言葉で語りかけてくるんです。まるで天使と悪魔の囁き、みたいに」

「未門・・・」

「ええ。・・・今は聞こえるの?」

「いえ、友人に声をかけられて起こされるまでは聴こえてましたけど今は大丈夫です。さっきまで普通に歩いて話もしてたそうなのですが、俺は全く覚えてなくて・・・・本当に別の誰かが俺の体を乗っ取っていたような感覚・・・のような気がします」


今思い返してみても、何が原因であんな事になったのか分からない。

何かしらのきっかけが原因であるとは予想はできるが、全く検討がつかない。


取り憑かれていると言うよりは自分の中にある闇のような部分、としか言えない。

あれは確かに自分だったのか、あやふやだ。


「・・・・どんな気分でした?」

「え?」

「その声が聞こえている間、どんな気分に苛まれたかってことよ」

「・・・・・よく覚えてないですし、今の自分の持っている言葉でその時の感情を正確に文章として出せるか分かりませんが・・・・自分の隠している感情に対しての物凄い憤りを感じていた・・・と思います」

「成程ね・・・恐らくそれは正しい感情よ。貴方には悩みがあって、それに対して自分の心の中の闇が貴方に対して素直な感情をぶつけてきたということよ」

「でもそれだと俺がさっきまで意識がなかったのはどういうことなんですか?」

「多分だけど・・・その闇が貴方に成り代わろうとしていたんじゃないかしら?貴方が、抑えている感情は分からないけど、その感情を素直に曝け出そうと代わりに動いてくれた。小さい頃に虐待を受けて自分を守ろうと別の人格を生み出してしまう。かなり前からある、多重人格者に対する研究成果よ」


そう言われて納得できる自分がいた。けれど、あの聞こえた声からは邪気を感じられた。


「けれど、今聞こえないのなら様子観察でいいんじゃない?また酷くなったら正気を頑張って保って私達の所まで来てね?」

「・・・はい、ティアさん。ありがとうございます」

「兎に角次の授業始まるまで、ここで休んでいきなさいな・・・・コーヒー、飲むかしら?」

「・・・はい、いただきます」

「砂糖は?」

「・・・・・今日は砂糖いいです」

「!?・・・だ、大丈夫?いつも砂糖沢山入れて飲んでたでしょ?」

「・・・今は、砂糖を無しで飲みたい気分なんです。飲んだことはないですけど」

「分かったわ・・・・はいブラック」

「ありがとうございます」


冬華は受け取ったブラックコーヒーを一口慎重に口へと運ぶ。

・・・・・苦い。この口当たりを苦い、と表現したのは一体誰なのだろう。この口の周りにまとわりつくゾワっとしたような味覚を、苦いと言葉で表現できたのは単純に凄いと思う。

けれど、甘党の冬華からすれば我慢して飲んでいるので正直に言えば砂糖とかがほしい・・・・が、今の冬華にはブラックで十分だった。

さっきまで聴こえていた声と、陥っていた放心状態の感情をはっきりとしてきた頭で現すなら、ブラックコーヒーのように苦かったというのが適当な答えであった。


あの時の苦さに比べれば、今飲んでいるコーヒーの苦さは苦でもなんでもなく、嫌々ではあれど、すんなり飲むことができた。

そのコーヒーと一緒に自分の中にある黒ずんだ感情も一緒に飲み干したような気分になり、体調も良くなったので、授業に出るべく保健室を後にした。









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