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星なるダメ王子の物語  作者: クロス
第一章
2/28

02 風邪引き王子と世話焼き毒舌妖精様



「・・・・・」

「おーい、生きてるか~?」

「・・・・・死んでます」


翌日の朝、体調を崩したのは冬華の方だった。

冬華の席の前で心配?して見ているのは、木の幹のように濃い茶色の髪にこれまた濃い緑色の瞳をした如何にもチャラそうな青年は冬華の昔からの幼馴染である影月春正(かげつきはるまさ)

かなりのお調子者でお喋りですぐ調子に乗る。性格的には冬華と真反対であるが、決して友人の悪口は言わないし、悪いと思った事はすぐに謝る事のできる誠実な人間だ。

付き合い的には長いのだが、昔は彼のそういう性格が嫌いであまり関わって来なかった。


家が近所で子供の頃からの友人ではあったのだが、如何せん人付き合いが苦手の冬華なので春正とは特に打ち解けようとは思っていなかった。

それは、昔あった出来事のせいでもあるのだが、それでも春正はずっと冬華を気遣ってくれて、小学校を卒業する頃には冬華も段々春正と関わるようになり、中学に入った頃にはもう既に親友と呼べるレベルにあったのだ。本人曰く、「俺は子供の頃から親友だと思ってたぜ?」と言っているがからかい半分な気もする。

普段はおちゃらけているが、コレで周りからの評価が高いので不思議だ。


春正は冬華と一緒にこの学校の中等部に引っ越して来た。冬華はかなり個人的な理由だが、春正もかなり個人的な理由だった。

それは、両親と反りが合わないから家出をしたそうだ。

それ以来は、一人暮らしをしているそうだ。


話を戻すが、今冬華は机に顔を付けて、全くの無気力で居た。

昨日紅野エリカに日傘を貸した後、少しの間真夏の天気に当てられた冬華は家に帰り、いつも通りに食べて風呂入って寝てを行なった・・・のだが、真夏耐性がゼロに等しい冬華は翌日体調を崩した。


そうは言っても風邪とかではなく、単純に夏バテに近い症状なので心配する事はないが、それでも今日一日過ごすのは厳しいように直感が悟った。


あ~と嘆けば、春正からは心配というよりも呆れたという目線を冬華に向けた。


「お前昨日の入学式の日は滅茶苦茶元気だったじゃねぇか。まぁいつもの顔色の悪さ変わらねぇけどな。あの後どうしたんだ?」

「少しの間、真夏日みたいな暑い中帰った」

「マジか。そりゃ体調も崩すわな、昨日の天気だったら。でもお前日傘持ってたろ?」

「・・・人にあげた」


流石に親しい友人にも、学校一の美少女に日傘や、タオルや水をあげたなんて言えるはずもなく、適当に濁す。

因みに紅野エリカの方は教室でちらっと見た限り、顔色も悪くなく至って健康そのもので、暑さ対策グッズを全て渡した自分が馬鹿みたいだと冬華は思ったが、あれは自分がしたくてした事なので後悔はなかった。


だが、教室で紅野エリカを見た時は驚いた。

何故なら、同じクラスだったからだ。昨日の入学式で初めて紅野エリカを見たが、聞けば紅野エリカは中等部から居たそうなのだが、全く記憶になかった。

それだけ自分が周りに興味がないのだと改めて実感した。昨日はそもそも彼女を教室で見た記憶すらなかった。


しかし、春正に聞けば、「ずっと居たぞ?彼女。クラス中大騒ぎだったじゃねえか」と言うのだ。

これからはもう少し、周りに気を配ろうと誓う冬華だが、今の体調ではどうしようもない。


一方紅野エリカは本当に体調不良が無さそうな顔色をしており、普段から健康には気をつけているんだろうなと思い自分とは大違いだと実感する。そもそも比べる相手が悪い。

「でも、人にあげたってお前さ、それかなりお人好しじゃね?誰にあげたんだ?」

「寂しそうな子供?」


子供と呼ぶにはかなり立派な体つきをしているし、というか紅野エリカに失礼な気がする。


(・・・ああそうか。寂しそうだったのか、あいつ)


自分で思って納得できた冬華だったが、実際そう感じたのだ。寂しそうに見えたから、その手を引くように手助けをした・・・・・までは良かったが、少し不器用だったような気もするが、あれ以上上手くやれないのでそこは仕方がないと横に流した。


机から顔を上げ、クラスの騒がしい方をチラリと見れば、その中心には紅野エリカがいる。

今の彼女の顔は昨日とはまるで別人のように見える。昨日の顔はまるで、親に捨てられたというより長い事親に会っていない子供の顔だった。

だが今日の顔を見ると、至って普通そうに見える。心配しすぎも彼女に迷惑なので、今は自分の事を優先すべきだ。

このしんどい体を引き連れて家に帰らなければならないと考えると、憂鬱だった。


「優しいのはお前の良いとこだがよ、それで自分が体調崩してんならダメだろ」

「それには何も言い返せんな」

「というかだな、お前どうせ何もせずそのまま寝たんだろ?ちゃんと飯も食わずに。更には、冷房入れたまんま寝たんだろ?寒暖の差で一気に体内のバランスが崩れたわけだ」

「・・・・おう、まぁな」

「いや、今のは誇るとこじゃないぞ?・・・・だから夏バテ症状が出るんだよ、馬鹿目」


親友の一言はかなり胸に刺さり、冬華は口をつむぐしかない。

冬華は何年も師匠とも呼べる人から家事全般を全て教わっていたというか、師匠自身が自堕落な生活を送っており、その為冬華が基本家事をやっていたのだが、元々のやる気の無さが仇となり今では師匠と同じ自堕落生活をしている有り様だ。


もう最後に自分で料理をしたのかなんて覚えていない。

ここ最近はずっとコンビニ弁当や外食や持ち帰りにピザ発注の毎日だ。こんな常日頃非健康生活を行なっていれば、嫌でも体調は崩れるのは当たり前だ。

そんなさも当然の事に、今更になって後悔している自分がいるが、もう仕方がない。何故なら冬華には家事をしようという【やる気】がないのだ。


完全に宝の持ち腐れだが、披露する場面もあまりないので、正直困ってはいない。

昔から自分の事に頓着しない冬華は、身だしなみも特に整えないので、側から見るとただのニートにしか見えないのだ。

まあそんな訳で、日頃から自堕落生活をしていれば、いつかは体調を崩すだろうとは思っていたが、まさか高校生になって二日目でこんな目に遭うとは思わなかった。


「まぁ~でも良かったじゃねぇか。今日はもう30分だけあるホームルームで終わりだし、明日明後日は休みだし、しっかり治してこい。何なら季節外れの鰻でも食えば?」

「・・・そう、だな。そうするよ」

「あ~あ。せめてこうなった時に看病とかやる気を持ってやってくれる彼女でも居たら良かったのにな?」

「るっせ。だぁってろ、春」

「やだ。怖い怖い」


そんな冬華の心情など梅雨知らず、春正は揶揄うように冗談を言ってのける。

だが、春正は春正なりに心配してくれているので、その気持ちを全く言う事はないが、冬華はそれを無言で汲み取る。

こんな親友を持てて幸せだなと心の底から感謝した。


30分間のホームルームはあっという間に終わっていた。殆どの内容は、しんどすぎて聞いていなかったのだが、春正が言う所によると大した事言ってなかったようだ。

今日が午前中で終わる事に感謝しながら、重い体を動かし教室を後にしようとしたのだが、ぐいっと制服を掴まれ危うく腰を抜かしてしまう所だった。


ゆっくりと後ろを振り返れば、そこにはフワッとカールのかかったゴールドアッシュよりも金髪に近い髪色を持つ、少女が立っていた。身長はエリカより少し大きいくらいだろう。因みにこの髪色は地毛らしい。

彼女の名は姫咲美妃(ひめさきみき)

冬華と春正の幼馴染であり、美妃も冬華達と一緒に中等部から引っ越してきたのだ。


理由は、単純に二人に着いて行きたかっただけだと本人は言っている。

性格は春正と似ていていつも元気で、心優しい性格をしているから冬華とは全くの真逆だ。


「と~~君!一緒に帰ろ♪」


エリカと違って全く警戒されていない反応をしてくる美紀を見て、ほんの少しだけ気持ちが楽になった気がした。

でもやはりしんどいものはしんどいので、残念ながら彼女の要望には答えられい。


「・・・・悪いな美妃。今日は早く帰って寝たいんだ。ちょっと怠くてな」

「え!?それ大丈夫なの!?・・・・あっもしかして昨日の真夏の天気で?・・・・いつも不摂生な生活してるからだよ。春正は知ってたの?と~君の体調悪いの」

「まぁな。コイツ、親切な事に人に日傘渡したんだと。しかもタオルに水まで、馬鹿だろ?更に帰って何もせずに寝たからそりゃ体調も崩すわ。だから、今日は俺らだけで帰ろうぜ。コイツはさっさと返さねぇといけねぇしな」


本当に心の底から心配してくれる親友二人を持てて幸せだなと思う。

こんな自分にどうしてここまで心配してくれているのかは分かると言えば分かる。

昔冬華は少し塞ぎ込んでいた時期があった。

その時にずっと側に居てくれたのがこの二人だ。


それから春正と美妃は、ずっと隣に居てくれている。本当に感謝しかない。

偶にしつこいくらいのノリで来るのは迷惑だが、それももう慣れ、今では退屈もしない生活を送れている。


「ほんとに悪いな美妃。また誘ってくれ」

「うん・・・・ちゃんと治してね。・・・行こう、春正」

「おう。・・・・んじゃな、冬華」

「・・・・ああ」


学校から出てマンションまでの帰路に着いた頃には、もう体調は最悪だった。

平衡感覚は左右へ揺れまくっているし、目も霞、立っているのさえ難しいくらいだった。

どうやら夏バテではなく、本当に風邪を引いたようだ。

普段から健康になど気をつけていないので、風邪をひいてもおかしくないし、こんな事になっているのは日頃の行いが悪すぎるせいでもある。


今更後悔しても遅いので脇目も振らずにマンションまで急ぐが、体はずっと風邪に負けているようで、家に着くまで30分近くかかってしまった。


それでもようやくマンションのエントランスに辿り着き、重たい体を無理やり動かしエレベーターに乗った所で、壁にもたれかかる。


(・・・・やばい。これもう立ってられねぇ)


そう思いながら息を吐くと、平常より荒く、そして何より熱い。

どうやら学校では耐えていたらしいが、もうすぐ家に着くという安堵で一気に気が抜けてしまったのだろう、体全てが不調を訴えかけてきた。

頭はズキズキと痛く、体温は下手すれば39度あるかもしれない。


普段、そこまで気にならないエレベーターが上がる際のふわっとした浮遊感も、今では頭が揺れる為、迷惑に感じられる。


そして、いつもより長く感じたエレベーターの中も終わり、ようやく自分の住まう階に到着した。冬華の住んでいる階は高層マンションの最上階の一番奥。冬華は緩慢な動作でエレベーターを降り、歩き出す。

自分の部屋まで行く為廊下に出たタイミングで冬華の体は一度ーーー硬直した。


何故ならそこには先客がいた。数十メートル離れてはいたが、冬華は生まれつき目がいいのでよく見えた。

そう。もう碌に話す事も関わる事もないと思っていた、真っ赤な紅色によく目を凝らさなければ見えない白色が入っている髪を持つ、学校中のアイドルにして妖精様や色々な二つ名のある紅野エリカが冬華の家の前に立っていた。


彼女の近く、基、自分の部屋まで歩いていく。目と鼻の先くらいの距離になると紅野エリカの方もこちらに気づいたようで冬華の方に体を向けた。

冬華は彼女に風邪を悟られないようにヤケクソで彼女の目の前に真っ直ぐ立つ。

学校でも遠目で見たが、ここまで近くで見ても彼女の顔色は綺麗で健康そのものと言っても過言もない程、血色良いい。

誰が考えても体調崩してもおかしくなかったし、冬華が考えても紅野エリカは炎天下の日の下に何時間もいたはずだ。

それで体調を崩していないという事は、常日頃から体に気をつけているのだろう。

まるでぴんぴんしていた。


紅野エリカの手には、昨日冬華が押し付けた日傘が握られていた。

返さなくても良いと言ったのに、態々返しにきたのだろう。律儀な事だ。

一分ほどお互いにだんまりだった(紅野エリカが何を考えてるか分からなかったから)が、このままな訳にもいかないので渋々話しかける。


「・・・・・よう」

「・・・・星川さん、こんにちわ」

「それ、返さなくてもいいって言ったろ?」

「借りた物は・・・・・・?」


昨日と同じ冷たい声が飛んでくるのだろうと覚悟していたが、紅野エリカは途中で言葉を切った。

というより、切らざるを得なかったように見えたのは、冬華の顔をじっと見てからだ。

まずいと思ったがもう遅かった。紅野エリカは慌てた顔でこちらの顔色を窺ってきた。


「・・・あの、体調悪いんですか?」

「・・・お前には関係ない」


熱がある事は秒でバレた。図星を疲れてぐぅの音も出ず、最悪のタイミングだ、と冬華は内心で悪態を吐く。


傘は全く返さなくても良かったのだが、今この体で紅野エリカに会うのは良くなかった。

人付き合いを多くしていて、そして何より賢い彼女なら、冬華が体調を崩している事くらいすぐに看破できるし、何故風邪を引いたか、その理由までにも辿り着くのは早いだろう。


「でも、私に日傘を貸したせいですし、それに冷やタオルも貸してくれて」

「あの後俺がちゃんと対策をしなかったのが、悪い。よってお前は悪くないし、関係ない」

「関係あります。私があそこに居なければ貴方は風邪を引かなかったんですよ」

「だからさっきも言ったと思うけど、お前が気にする事じゃない。お前もしつこいな」


冬華としては、こっちが勝手に自己満足な感じでやった事なので、気にされるのはなんだかとっても嫌だった。

本当なら放っておいて欲しいのだが、紅野エリカの顔を見ると、はいそうですかとはいかないようで、紅野エリカの端整な美貌にはほんの少し不穏な表情に加えて、眉間にシワが僅かながらに寄っている。


「・・・・というか、何でお前が俺の部屋の前にいるんだ?」


冬華は話すだけでもしんどい体で紅野エリカに話しかける。正直立っているだけでも辛いのだが、紅野エリカがここにいる理由は知っておくべきだと思ったからだ。


「それは、貴方の部屋が近かったのですぐに返そうと思いまして」

「近いって、お前このマンションに住んでたのか。何階なんだ?」

「・・・・・貴方の隣です」

「・・・・・は?」


長い沈黙の果てに出てきた言葉はたった一言で、熱にうなされているはずの頭と体は、事実に耐えきれずに更に熱を上げてしまう羽目になった。

もう何が何だか分からなくなり、そのまま冬華の意識はパソコンの電源がいきなりシャットダウンするかのように消えていった。




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