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星なるダメ王子の物語  作者: クロス
第一章
18/28

18 すき焼き食べて仲良くなろう


親子としての語らいを終え、冬華は夕食が出来るまで部屋で休んでいたが、三十分が経った頃、紅野エリカからお呼びがかかり部屋を出た。


「おはようございます、冬華くん」

「ん。おはよう。悪いな、全部準備任せちまって」

「いえ、雪弓さんが手伝ってくれたので問題ありませんでしたよ?」

「・・・・いや、母さん自分のペースに引き込むマイペース野郎だから殆ど準備手伝いになってなかったんじゃないのか?」

「・・・・・・そんな事ないですよ」

「おい、目逸すな。こっち向け」

「いひゃい、いひゃいでふよ。ほうかくん」

「母さん手伝わなかったろ?」


冬華は目線を逸らして雪弓を庇おうとするエリカの両頬を優しく挟み込み追求する。両頬を押さえられた紅野エリカは上手く話せていない。やがて紅野エリカはうんうんと2回ほど首を縦に降ったが、肯定の仕方になんとなく躊躇いが見られた。恐らく、手伝いはしたのだろうが、料理の方ではなく別の事を手伝ったのだろう。まぁそれでも、殆ど手伝っていないだろうと言う予測は立てられる。ほんの少し揶揄う程度でやってみたが、思いの外興が乗ってしまい両頬を軽く優しく引っ張ってみる。


「にゃ、にゃふぇてふだはい〜」

「ふっ・・・おもろ」


つい本音が溢れ笑われていると分かると、紅野エリカは目を細めてじっとこちらを睨んできた。けれど、両頬が挟まれた状態なのであまり説得力というものを感じなかったが。


こんな時間がいいと、柄にもなく思ってしまったが、ふと気配に気づいて紅野エリカの背後に視線をやると、母親の星川雪弓がソファに座り、ニヤニヤと何処かの漫画かアニメで見たことのある面白猫みたいな顔でじっと見てきた。


「母さん・・・声かけろよ」

「えーー二人が二人の世界作っちゃってたからお邪魔かなって思ったから声かけなかったのに〜」

「(うぜぇ)」

「うぜぇって思ったことは目を瞑るわ・・・・さ、どうぞどうぞ続けて?」

「続けるか!」


冬華は紅野エリカの頬から手を離しソファに座っている雪弓のもとに駆け寄る。

二人が話している後ろで紅野エリカはさっきまで冬華に触られていた頬を両手で触りながら首を傾げていた。


(・・・・熱いな)


両頬は自分の髪と同じくらいの紅く染まっていたが、何故そう思ったかは、本人はそれに気づいていなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。



星川冬華は驚愕・・・というよりはどうすればいいのかと悩んでいると言った方が良いだろう。まぁ、誰でもこの目の前の光景を見ればそうなるだろうと満場一致は取れるだろう。

途方に暮れている冬華の両サイドで、隣人である妖精様と自分の母親はいつも通りに振る舞いながら冬華の隣でじっとしている。

紅野エリカの方は少しだけ表情が暗く、すみません、と言う表情が若干読み取れるが。


「・・・・紅野さん?」

「はい、なんでしょう」

「俺は今日すき焼きと聞き及んでいたと記憶しとるんですが?」

「はい、そう言いましたね」

「・・・・・・母さん」

「ん?ん〜?」

「すき焼きは確かに量がいるよ、そりゃ。野菜に肉にetc・・・だからって・・・・机いっぱいに材料並べる必要あるか!?俺ら3人しかいないんだぞ?」

「・・・・・買い過ぎちゃった、テヘペロ♪」

「かわいこぶるな!てか紅野も止めろよ!この三十分足らずで何があったってんだ!」

「私も詳しくは・・・仕込みと仕上げをしていたんですが・・・雪弓さんが『もうちょっと材料いるんじゃない?』って仰って・・・私もそうかもと了承した結果、お買い物をお任せして・・・・・帰ってきたらこんな事に」


冬華はついに片手を額に当てて頭を抱えた。この人に自由にさせるべきではないと思う同時に、自分の母親だから仕方がない、という気持ちの両方があって怒るに怒らないのが息子としての辛いところだ。


「まぁ・・・早く食っちまおうぜ。量多いけど、三人で囲んじまえばすぐ終わるだろ」

「そうですね、じゃあ早速食べましょうか」

「お腹すいちゃったわ〜」

「母さんは率先して多く食えよ」

「あら手厳しい」


三人がテーブルの席に座りガスの火を付け鍋を温めていく。因みに席は4人座りのテーブルで奥が雪弓一人、その前が冬華と紅野エリカだ。

てっきり紅野エリカは昼間と同じく雪弓の隣に座るものだと思っていたが、ちょこんと自然に座ってきたので驚いた。


十分に食材に熱が通った所でお玉で具材を取って更に盛り付ける。しかし最初によそうのは自分のではない。冬華は紅野エリカが自分の皿に卵を入れたのを確認し皿を手に取り鍋の中の食材を皿によそう。


突然の事で呆気に取られている紅野エリカに「ん」と短く言って皿を手渡す。


「ありがとう・・・ございます」

「どういたまして」

「やるわねこのイケ男」

「やめろ、そんなんじゃねぇ。自分のよそうんだから紅野のも一緒にやった方が効率いいからだ。それにこいつ怪我してるんだから無理させられねぇし」

「あ、あの、足の方が痛いだけで別に手の方は問題はーーー」

「なんだ」


紅野エリカが言い終える前に冬華が睨みを効かせて言葉を遮る。あまりこういうことはしたく無いが、余り身に染みていないようだ。


「ほら。俺は何も用意してないし言えた義理じゃないが、食えよ」

「はい・・・いただきます」

「冬華〜私も〜」

「たっく・・・貸せほら」


冬華は雪弓から皿を強引にぶっきらぼうに受け取りよそう。すき焼きにはなぜか似つかわしくない物まで入っている気がするが、それはそれと考えて皿に取り分ける。ただ、中身は完全にすき焼きというよりは単純な鍋に近い。大根、がんも、ちくわに卵、こんにゃく、そして何故か鮭とほたても入っている。

これ以上何かすき焼きではない何かが入っていると最早鍋とも呼べなくなってきている・・・これでは闇鍋だ。


取り分けた皿を渡して雪弓も食べ始める。意図してやったわけであるが、皿の中身は雪弓の好きなもので固めてある。こんにゃくが好きなのでこんにゃくは多めだ。


そして我が母ながら味覚の方が大雑把なのだ。偏食家でないのがいいが、雑食なのでなんでも食うため味より食えたらなんでもいいというのが事実だろう。

父親もなんでも食べる人ではあるが、良心的な料理をするので有難い。比べる相手が悪いが、料理の腕は紅野エリカに比べれば父も母も一歩・・・いや5歩くらい劣る。

因みにだが、冬華の料理が店を出せるレベルなら、紅野エリカの料理はどんな家族であったとしても我が家の味だと思える味・・・・という評価だ。

大袈裟ではあるだろうが、冬華はそうは思っていない。

後は技術的なものは冬華の何倍もある。恐らく冬華が普段料理しないものは大抵出来るだろう。どれだけ練習すればそうなるのかは不思議ではあるが、日々の努力なのだろう。


隣を見れば、紅野エリカも美味しそうに食べている。冬華もようやく食べ始めて・・・・ふと気づく。


「なぁ、このすき焼きの食材、どれも一口サイズに切ってあるか?」

「!・・・よく分かりましたね。そっちの方が食べやすいですし、沢山鍋の中に入るのでいいかなって」

「あなたそういう技術的な面を見るの得意よね」

「自分ができない技術とかを見て凄いと称賛して自分も出来るようになりたいって思うのは当然だと思うぞ。よく隣の芝生は青いだなんて言うけど、俺はこの言葉、相手を羨んで出た言葉だけじゃない気がするんだ。多分・・・・自分もこうなりたい、あの人みたいになりたいって気持ちがあったからなような・・・・気が・・・する・・・・って悪い。なんかナーバスな雰囲気にさせちまった」


自分が昔から感じていた熟語の意味を自分なりに解釈した事を、他人に話してしまっていた。

やってしまったと思い慌てて白米を口にかきこんで平成を保とうとするが、隣でくすりと笑い声が聞こえたので箸を止めてそちらを見ると想像通り紅野エリカが笑っていた。


「な、なんだよ」

「いえ・・・なんだか冬華くんの本音みたいなものを聞けた気がして嬉しかったんです」

「それよそれ。エリカちゃん、もっと言ってやって。この子ったらあまり本音という本音を言わないから困ったものなのよ」


らしくない事を言って何か言われたり慰めなどを受けるものかと思っていたが、予想に反して意外な反応が返ってきたのでリアクションに困る。


「そんな本音なんて他人にべらべら喋るもんじゃないしな。ほら、早く食べようぜ。終わらないから」


話題を逸らそうとさっさとすき焼きを頬張り、皿が空になったのでまた新たに皿に盛り付ける。

そんな態度を見ていた二人は互いに顔を見比べて笑っていた。


ああ、今日はなんだか素直な気持ちが出てしまうなと二人が笑っているのに釣られて困った表情で苦笑いをこぼした。



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