表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星なるダメ王子の物語  作者: クロス
第一章
16/28

16 記憶にはあるは大切な宝物



冬華の母親、星川雪弓と紅野エリカとの衝撃的な出会いを果たして有らぬ誤解を生んだのを解消しながら昼食を挟んで暫くの時間が経ち気がつけば夕食時となっていた。

雪弓は昼食を食べると帰ると予想していたのだが、甘かった。

夕食も食べて帰ると言い張るので仕方なく了承した。


気を遣ったのか紅野エリカは怪我をした足で一度家に帰ると言うので紅野エリカの玄関まで見送り、夕食時に再び会うことになった。

そこから1時間近く、母と息子(おやこ)団欒で会話をした。魔術士としての会話、家族としての会話、そして・・・・5年ほど前のあの夏の出来事の話。

雪弓と話して、胸の蟠りがほんの少し無くなり気が楽になったような気がした。改めて母親の凄さとありがたみを理解した。

だがすぐに魔術士の会合に呼ばれて家を出てから数時間経過して今に至る。


雪弓からの連絡はまだないが、紅野エリカからは連絡が返ってきたので家まで迎に行く。


「おう、用事済んだか?」

「は、はい・・・・」

「ん?・・・おい、なんだそれ?」

「えっ?・・・えっと・・・買い物した荷物です・・・・」

「それは見れば分かる。お前まさかとは思うがその足で1人で買い物行ったんだじゃないだろうな?」

「・・・い、行きました」

「素直でよろしい・・・・無理すんなって言ったよな?」

「で、でも・・・」

「でももヘチマもねぇよ阿呆。しばらくは安静にしてろって言ったろ。次からは一緒に行く」

「え?」

「え?」


紅野エリカの反応に自分は何か変な事を言ったろうかと疑問が出てしまい紅野エリカと同じ反応をしてしまった。


「なんだよ」

「い、いえ。その、てっきり俺が今度から行くからお前は留守番してろって言われるかと思っていたので」

「言ってもお前は着いてくるって言うだろ?人の行動まで制限する権利は俺にはねぇよ」

「・・・・・」

「なんだよ?さっきから」

「・・・その・・・星川さんは人の意見を尊重できる人なんだなぁと思って」

「・・・昔はんなでもなかったんだがな」

「え?なんですか?」

「なんでもない・・・・・・ほら、荷物貸せ」


冬華はエリカの荷物を強引に奪い取り、もう片方の手でエリカの手を握り先導する。

家に入ってエリカをソファに座らせたらエリカが買って来た荷物を冷蔵庫にしまう。

片付けをしつつ材料を見ていると何となくだが今晩の夕食の検討がついた。


「なあ?今日ってすき焼きか?」

「・・・よく分かりましたね?」

「これでも料理はできるんだから材料見りゃそれなりには分かるさ」

「雪弓さんがいるので折角なら軽くパーティー感覚で食べられるものがいいと思いまして」

「いいな。でもまだ準備にはまだ早いか?」

「そうですね。星川さんはまだ休んでいていいですよ。雪弓さんが帰って来たら手伝ってもらいますから」

「・・・・んじゃお言葉に甘えるわ」


そう言って冬華は自室に入りベットにダイビングして横になる。今日1日だけでどっと疲れたと思いながらそのまま目を閉じ眠りに入る。


そして何度も思って来た。


(ああ、またか)


その言葉を最後にして意識は暗い海に沈むように無くなっていった。

夢を見る・・・と言っても先祖関連の夢ではあるが、偶に冬華自身の夢を見る。決まって見るのはあの夏の出来事。

アグレイシュナ・ホーリーグレイル、レイナと過ごした夏の思い出。



・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。





10歳の夏。師匠である人に(無理矢理)連れて来られた師匠保有の別荘で魔術士として修行をしていた冬華はレイナと出会った。出会った時の第一印象は綺麗で美しい、何処かで会ったことのある懐かしい雰囲気だった。

しかし、出会って1週間が経つ頃には人となりが分かってきた為、どのように接するのかはもう掴めていた。

はっきり言って太陽と月くらい対照的だった。

冬華が月ならレイナは太陽。魔術士の修行に明け暮れていた冬華を何かと理由をつけて外へ連れ出したり別荘で遊びに付き合わされたり。

かと思えば魔術の勉強を教えて欲しいと言ってきたので教えたりと、毎日毎日振り回されるばかりだった。

そんなある日、夏休み中盤に差し掛かる頃だった筈。

冬華が自分の家や自分自身について話した時だった。レイナも自分の家について少しだけ教えてくれた。


「わたしの家もね、トウカの家みたいに代々続く家系なの。トウカは聖杯って知ってるかな?」

「・・・・魔術士やってるなら誰でも知ってるだろ。手にしたものが聖杯の雫を飲んだらどんな願いも叶える事ができる万能の願望器」


聖杯。数々の英雄譚や童話に登場する。有名な聖遺物。手にした者、またはその聖杯に沸く雫を飲んだ最初の者の願いを叶えると伝わる誰もが欲しいと思う聖遺物の一つだろう。

そしてその聖杯はこの世に一つしかないわけではない。ある一定の条件を満たせば聖杯が顕現するとさえ言われ、かつて聖杯を巡って各地で争いが起きたと記述があるくらいだ。

しかしその聖杯を巡る闘いがあったにも関わらず、聖杯は一度も顕現したと記録には残っていない。

今は聖杯を巡っての争いも無いに等しく聖杯は都市伝説とまで言われている。

ならば失われた時間や命はどうなると言うのか。全く嫌な話である。

だがレイナはその聖杯の話をした。冬華は少し身構えて話を聞きつつ質問する。


「欲に目がくらんだ魔術士なら喉から手が出るほど欲しいやつだ・・・・それがどうかしたか?」

「わたしの家はその聖杯を代々守り続けてきた一族なの」

「!・・・じゃあお前の家には聖杯があるのか?」

「・・・・・うん、あるよ。わたしも実際には見たことはないんだけど。ホーリーグレイルの血を持つものなら例え見なくても感覚的なもので有る事は分かるって言ってた」

「・・・・じゃあレイナはホムンクルスなのか?」


冬華のその言葉でレイナはぎょっとした。それは目の前にいる冬華にさえ分かるほどのものだった。


「ッ!・・・なん・・で?」

「聖杯を守る家。でホーリーグレイルなら俺でも知ってるよ。まぁホムンクルスは悪逆非道の魔術士くらいしか今は作ってない筈だから、レイナはホムンクルスって言うのはちょっと違うかな?匂いもそんな感じしないし」

「・・・わたしは確かにホムンクルスの血をひいてはいるよ。でも純粋なホムンクルスじゃない。歴代の聖杯の守り手達の記憶や力をけいしょうしているだけで普通の人間とほとんど変わりはないよ」

「そうなのか。悪かったな、配慮に欠けた」

「ううん!大丈夫。・・・他人と違うってのは本当だから」


笑顔ではあったが、ほんの少し目元にある涙を見て、冬華は言葉を続ける。


「何もかもを大丈夫って言う必要はないぞ。確かに人と違うっていうのは普通に考えれば嫌な事だし、受け入れるのって難しいものだ。・・・・けどそれは他人にとってはそれは歪ってだけで拒否しなきゃいけないのかもしれない・・・・・だからってお前自身までもが自分を受け入れてあげなくてどうするよ」

「・・・え?」

「今のお前は他人からも受け入れてもらえず、自分にも受け入れてもらえずできっとお前自身の心は泣いてる。例え言葉で大丈夫って言ってもな。それじゃあダメだ。他人は他人だ。自分の事を受け入れてくれないって言う奴の事をいちいち構うんじゃない。けれど自分自身は違う。せめて・・・・せめて自分だけでも自分自身を受け入れてあげないと・・・未来永劫泣くことになるぞ?」


冬華の言葉に何を思ったのか涙を溜めていた瞳から大量の涙が溢れ、泣き出してしまった。号泣させるつもりはなく、どうすればいいのか分からず冬華はあたふたするが意を決して慰める為に頭を撫でる。


「なんで・・・頭撫でるの?」

「・・・母さんが女の子が泣いたら慰めてあげなさいって教えてくれて・・・俺も女の子には優しくするもんだって教えられてるから・・・嫌だよな、止める」


冬華が気まずそうに手をのけようとした時、ぐいっと手を掴まれレイナの頭の上に戻される。


「お、おい?」

「・・・・誰も嫌だって言ってないから・・・・とめないで」

「・・・分かった」


冬華は言われるがまま5分ほど頭を撫で続ける。泣いている子の頭を撫でるのは当たり前・・・と言う固定概念が冬華の奥底に刻まれたのはこの時からだったろう。そして同時に、この行為自体に何か懐かしさをこの時感じていた。



「ごめんね・・・泣いちゃって」

「いや別に。・・・それより飯、食っていくだろ?」

「わぁ〜い!やった!何?今日の飯はご飯はお食事は?」


レイナは食事と聞いた瞬間ウキウキワクワクという文字が飛び出し効果音が出そうな程喜んでいる。


「落ち着けレイナ」

「だってわたし、トウカの作る料理大好きだもの、楽しみでわたし地獄に落ちちゃうわ」

「レイナ違う。天国にも登りそうだ」

「・・・・・間違えちゃったわ、恥ずかしい」

「・・・飯はオムライスput it onビーフシチューだ」

「全択!」

「贅沢だ。全部選んでどうする」

「・・・・また間違えたわ、恥ずかしいったらないわ」

「仕方ないさ。日本語をちゃんと話せるだけ凄いよ。意味ってのはなんとなくとちゃんと調べて分かったらいいから」

「またおしえてね?」

「・・・喜んで」


冬華は立ち上がり、レイナに手を差し伸べる。レイナは嬉しそうな顔をして冬華の手をぎゅっと取る。

握った事を確認して立ち上がらせ、そのまま手を繋いで師匠である人の家に戻るのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ