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星なるダメ王子の物語  作者: クロス
第一章
15/28

15 母の真実



突然の冬華の母親の訪問には驚いた冬華と紅野エリカであったが、思いの外紅野エリカと雪弓の関係が良好と分かったので、暫く話し込んでいた3人であったが、気がつけばお昼だったので、昼食を準備をしていた。


「悪いな紅野、母さんの分も作らせて」

「いえ、いつも作っているのが一人増えるだけなので全然問題ありませんよ」

「そうよ冬華。そんな事言って、本当はエリカちゃんのご飯を独り占めしようとしてたわね?母さん分かってるんだから~。彼女さんの料理くらい一人で食べたいわよね~」

「冗談言うな。確かにコイツの料理は美味いし好きだけど独り占めとかそういうのは考えてない。第一、紅野は彼女じゃねえ」

「分かってるわよ。もう初々しいわねぇ」


キッチンの二人の会話をソファで寝転んで聞いていた雪弓がからかい100%で言ってくる。

なんでまだ居るんだと思うのはこれで3回目なのでもう何も言わない事を決めた。


昼になった途端に、雪弓が「私もご飯食べた~い」と言ったので渋々紅野エリカに了承を取り、今に至る。


一度こうと決めたら何が何でも通す性格の雪弓との話し合いで冬華は一度も勝てた事がない。最後には絶対に論破されてしまう。


冬華は、雪弓の性格が苦手である。それは昔から至る所に振り回されてきた経験からだけでなく、知り合いに似た性格に人間がいるからだ。

その似ている人間というのは、幼馴染の美紀だ。彼女と母親の愛称はばっちりで、昔はよく二人で冬華を振り回してくれたものだ。


物思いに耽りながらサラダ用のキャベツを破いていく。

因みに昼食だが、殆ど紅野エリカに任せている。本当は冬華がする筈だったのだが、紅野エリカが自分から言ってきたのだ。

理由は聞かなかったが、やりたいと言うので任せた。


だが流石に一人ではと思ったので手伝いとして紅野エリカのサポートをする事にしたのだ。


「・・・ほい、こっち終わった。次はなんだ?肉か?」

「そうですね、お肉炒めててください。良い感じに色が付いてきたら野菜を次々炒めるようにお願いします」

「ほいきた」


冬華は言われた通りに肉を焼いていく。炒める肉は鶏肉だ。

今日の昼食は鮭ならぬ、鶏肉のちゃんちゃん焼きだ。


中々工程に手間がある料理だが、紅野エリカなら余裕だろうと文句を言わずに任せた。

冬華は紅野エリカの料理のファンなのでどんなものが来ても美味しく食べられる自信しかない。



そんな二人で分担して料理をしている光景を見ていた雪弓が何やらテンション高そうな声で話してきた。


「貴方達、熟年夫婦みたいね。出会ってもう半年なの?」

「・・・何言ってんだ母さん。まだ出会って一週間経ったかってくらいだぞ?」

「そうですね、一週間そこそこでしょうか。思ったよりもまだ付き合い短いですよね」

「そうだな。感覚としてはもう何十日も経った感覚だわ」

「えっ!?・・・・・嘘でしょ?」


雪弓は二人から帰ってきた返答に目を向いた。それはそうだろう。二人の行動は出会ってそこそこ経つくらいの動きそのものだが、実際の所はまだ話して一週間くらいだ。


「・・・本当だって、なんで嘘なんか言うんだよ。確かに出会ったのは入学式の日だけど、その後一ヶ月は会話してなかったから、つい最近話し出したんだよ」

「冬華~。貴方こんな可愛い子捕まえて今まで碌に話さなかったですって。それはちょっとヘタレすぎないかしら?」

「ヘタレ言うな。別に関わる事なんて無かったからだよ。俺なんかが紅野と話してても変だろ?」

「・・・・昔から言ってるけど、貴方ってこういう時とても卑屈よね。悪い事じゃ無いけど、もう少し自信持ちなさい」

「大した無茶振りだけど・・・・・善処するよ」


冬華の声が暗く沈むのを感じ取った雪弓は、何かとフォローをするが、冬華の心にはあまり響いてはいなかった。

卑屈になる事が、必ずしも悪と決めつけるのは良くはないが、良い事でないのは分かってはいる冬華だが、これは昔からの性格と癖によるものなのでどうしようもなかった。


「でも私は、冬華くんのそういう内気だけど全体を見て人に気を配れて時には怒れるところは素敵だと思っていますよ。まだ関わって日は浅いですが、それでも私がこうして冬華くんに構うのは貴方が信用における人だと思っていますからね。それにこの怪我の事も貴方の性格を考えれば放っておいても良かったのに文句を言いつつも真摯に接して処置してくれた。あれはとっても嬉しかったですよ」


気まずい雰囲気が流れる中、紅野エリカだけは平常運転で話してくれた。過大評価しすぎではと内心驚いたが、そう言ってくれる人間は数えられるくらいのものだったので、無性に嬉しかった。


冬華は自分でも顔が赤くなるのを感じたので、「あんがと」とぶっきらぼうに返して顔をエリカに見せないように肉を炒める。

紅野エリカも恥ずかしい事を言ってしまったと自覚したのか、「ドウイタシマシテ」と言ったのは良いものの動きと声が片言でロボット風と化していた。



二人のやり取りを面白くみていた雪弓は、野暮な事を言ったと思いその後昼食ができるまで、ちょっかいをかけてはこなかった。


暫くして料理が完成し、2人で食卓へ運ぶ。


「・・・・・母さん、飯出来だぞ」

「待ってました!早く食べましょ!貴方が絶賛するエリカちゃんの料理楽しみだわ!」

「そんな良いものではありませんよ?教えてもらった人のレシピ通り作ってるだけですから」

「んな事はねぇだろ。例え教えてくれた人が良くても紅野の腕が確かなんだよ」

「その通りよ。お料理に関しては冬華もかなり腕が立つから間違いないし、そんな謙遜しなくても大丈夫よ。・・・ほらほらエリカちゃん、隣に座って」

「は、はい。失礼します」


紅野エリカは雪弓の勢いに流されるがまま席に座り、冬華もエリカの座った向かい側の席に座り「いただきます」と言って食べ始める。

それに続くように紅野エリカも「いただきます」と静かに言って箸を動かす。


本日の昼食は生姜焼きだ。ボリューム重視よりも、野菜全般が多く入っている生姜焼き風野菜炒めに近いだろう。

紅野エリカは「冬華くんの体を気遣っての献立です」と、冬華に足りない栄養素を分ってかズバリ言ってきた。


まぁ生姜焼きの味が野菜にたっぷり含まれているので、味は絶品である。生姜焼きの肉や野菜を白米の上に乗せて一気にかきこむ。


それを見た紅野エリカが、「ゆっくり食べて下さいね。よく噛むことも健康の一歩ですよ」と何やら母親のような事を言ってくるので、箸のスピードを緩めた。


だが、美味いのだから仕方がない。


一方雪弓は女性とは思えないほどがっつくように生姜焼きを食べていた。別に料理に足が生えて逃げるわけではないのだから、ゆっくり食べるべきだろうと思う。


冬華は人のことを言えたためしではないが。こういう所は自分と似ていると常思う。


大きめの肉を一口を頬張ると、実に美味かった。炒めるだけしか冬華はしておらず、後の味付けなどの微調整はエリカに任せていたが、なんの心配もしていなかったのでこの味はベストだった。


雪弓も味が大層気に入ったのか口を押さえて「美味しい」と言っている。

それはそうだろう。紅野エリカの料理の腕はそんじょそこらで身につくレベルの腕ではないのが、料理をする冬華の目にはよく分かる。


「いつも通りおいしいよ。あんがとな」

「いえ、美味しくできたのなら良かったです。雪弓さんもお口に合いましたか?」

「勿論よ。冬華ったら狡いわ~。こんなに美味しいご飯を一人で食べようだなんて、私もここに通おうかしら?」

「冗談言うな。仕事どうすんだよ」

「・・・・・・偶にならくるわ」

「来んな!というか・・・紅野?どした?さっきからずっと母さん見てるけど」

「え?い、いえ、その、なんでも、ないです」


何でもないって顔をしていない紅野エリカに疑問を持つ冬華は首を傾げる。聞きたい事でもあるかのような素振りを見せているが、聞いていいものかと悩んでいるようだった。


「紅野、母さんに聞きたい事あるなら遠慮せず聞いて良いぞ。大抵の事なら聞いたら答えてくれるから」

「勿論よ。答えられる事はできるだけ答えるようには心がけてるわ。答えたくない人には答えないけど、エリカちゃんになら何でも答えちゃうわよ」


まだ何も聞いていないのに何が聞かれるのか楽しみにしている雪弓はほっといて、冬華はエリカが何を聞きたいのか大体検討がついていた。


初めて雪弓を見た人は絶対に質問される事で、もう何十回と同じ事を聞かれているので冬華自身も飽きていた。


「ゆ、雪弓さんってお幾つなんですか?」


そう、年齢だ。冬華の母親、雪弓は見た目はかなり若い。しかも服装も若者のような服だ。青と白のチェック柄ののスカートに白のブラウスを着ている。

大抵の人は雪弓の年齢を当てられないでいる。その理由は簡単だ。常識的に考えてあり得ないからだ。


「あらっ。・・・・逆に幾つに見える?」

「え?そ、そうですね。・・・・20代前半でしょうか?」

「まぁ~!嬉しい!やっぱり私それくらいには見えるのね!」

「何言ってんだよ、20代後半だろうが。それ以上若くなってどうすんだ」

「あら、私今でも10代に間違われることあるんだから。舐めないでよ?」

「そりゃ目が節穴どころかその人は眼科連れてかなきゃな」

「・・・・え?冬華くん、今なんて?」

「あ?だから、母さんは今の歳は20代後半なんだよ」

「え?」



エリカはあり得ないものを見るかのように隣に振り向き雪弓を見る。


「あら、意外だった?そうよ、冬華の言う通り私は20代後半、その名も27歳よ!」


雪弓は胸を張って堂々とする。子供がよくするえっへんというポージングを取った事で、女性の誰もが羨む胸が上下に揺れる。


紅野エリカは胸に注目したと言うよりも、雪弓全体を見ていて、唖然としていた。

まぁそうであろう。15歳の息子を持っている母親の歳が、まさかまさかの27歳なんて誰が思うだろうか。



雪弓は実年齢を差し引いてもかなり若く見える。それこそ本人が言ったように10代にも間違われる程には間違われる。

そして実年齢を知った人々は口々に【詐欺だろ】と言う。


受け止めきれない現実に頭を悩ませる紅野エリカを他所に冬華は昼食を黙々と食べる。

こればっかりは慣れてもらうほかない。冬華も最初は困惑したし、驚いたがすぐに順応した。


魔術士の息子ともなれば、咄嗟の状況判断が鍛えられるってものだ。

だが、一般人はそうもいかない。だが、焦ってもしょうがないと感じた紅野エリカは深呼吸して落ち着く。


珍しいタイプの人間だな。と、冬華と雪弓は思った。普通の人なら慌てふためいて驚き散らすものだが、エリカは落ち着いていた。



「紅野、意外と落ち着いてんな。殆どの人は母さんの年齢聞いたら驚いて尻尾巻いて逃げるやつ多いのに」

「え?そうなんですか?いえ、確かに驚きはしましたが、なんと言うか、凄いなって」

「・・・まぁ本当に凄いよな。自分の親が30代後半じゃなくて20代だって言うんだから頭が痛い話だよ」

「では雪弓さんはお幾つで冬華くんを出産されたのですか?」

「えっと、・・・・確か私が11歳の誕生日から少しした頃に冬華が出来て、12歳になった頃には生まれてたと思うわ」

「・・・・・・」


紅野エリカは再度固まった。流石に驚くべき情報がたくさんあると人間はフリーズする。

それは冬華だってそうだ。処理能力の限界を迎えると、頭は強制的にシャットダウンする。

本来女性が子供を産むのに最適な年齢は18歳からだ。だというのに雪弓が冬華を出産できている理由は・・・・魔術士だからというのが一番しっくりするだろう。

魔術の中には一時的に体を成長させるという魔術が存在する。冬華の妊娠が分かったその日から、雪弓は冬華の師匠に頼んで出産の時まで体を20代に成長させてもらい冬華を出産したのだ。

やってる事が滅茶苦茶だと思うが魔術士ならばこのくらいの常識外れは普通だそうだ。

冬華は常識に則った魔術士になりたいと思った。


「母さん、そんな事言わなくて良いだろ?紅野がショートしちまったじゃねぇか」

「え?・・・あらごめんねエリカちゃん。・・・話変えましょ。さっき朧げに話を聞いたけど、貴方達の出会いって入学式の日でいいのね?」

「そう言ったろ?」



取り敢えず紅野エリカを落ち着かせることも兼ねて、昼食後の片付けをしてもらう。

その間冬華と雪弓は二人で食事後のお茶を飲みながらまったり・・・と言うわけではないが会話をする。


ただ洗いざらい雪弓にエリカとの関係性を根掘り葉掘り聞かれて吐かされただけだが。


「で、その日は滅茶苦茶暑くて死にそうな天気だったのに、偶々エリカちゃんを見つけた冬華が、日傘を貸して次の日冬華が熱を出して、そのままエリカちゃんが看病して今に至るって感じよね・・・」

「・・・・おう。いやそんなきめ細かい説明いらんわ」

「・・・貴方って本当に人様大事よね。それで自分が体調崩してたら意味ないでしょ?」

「春にも同じ事言われた。分かってるよ、あれは俺の自己満だ。今更後悔はしてない、結果的に紅野に風邪引かせなくて良かったからいいんだよ」


そう、あの日の事は1ミリたりとも後悔はしていない。

昨日の猫を助けて怪我した事件の時もそうだが、自分がしたくてした事だ。

他人から何を言われようが関係はない。


寧ろ、怪我している人間や困っている人間を見捨てる方が堪えられない。

冬華は雪弓に見えないように机の下で拳を握る。


雪弓はそんな冬華の心情を察してか、何も言わなかった。


「・・・・あの、お二人とも?深刻な話でもしてるのですか?でしたら私は帰りますけど・・・」

「あっ・・・いや、違う違う。何でもねぇよ」

「そうよ。エリカちゃんのために冬華がした事を怒ってたのよ。この子きつく言わないと反省しないから」

「・・・・別に。怒られたってまた次やるし」

「懲りないわね。まぁそこが冬華の良いとこだけどね。エリカちゃん、この子は大丈夫そうかしら?」

「えっっと・・・死なない程度には生きていますけど、目を離した途端に不摂生な生活に戻っていたので目を離せないのが難敵です」

「悪うございましたね。気をつけていきます」

「なら構いません。私も目を離したりしませんので覚悟して下さいね」

「・・・・へい」


何処か掴めない小悪魔のように笑った紅野エリカを直視できず、思わず顔を背けてしまった。

エリカは疑問を持った顔をしていたが、雪弓だけはニヤついていたのを冬華は横目で確かに捉えた。

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