第6話 王城
「ドナドナ~♪ドナドナ~♪」
アクシスは暢気なものである。カリカ伯爵は近衛兵団に同行を申し出てピリピリとした空気を醸し出していた。
「アクシス。いくら何でもお気楽すぎないか?」
「ははは・・・」
「あーやせ我慢か!」
「んだんだ」
そう、アクシスはめちゃ緊張してた。だって王城だよ?おうじょう!正式に男爵の継続式は来月だっていうのに!とブツブツ心の中で愚痴っていたのであった。
アリアス王国首都アリアス。外周10キロに外壁を備えた都市である。4方には物見塔がたっておりその白い外壁に変化をもたらしている。内壁は2重になっており商業区、平民区、行政区、貴族区を分けている。アリアスは水資源が豊富であり都市に放射状に水路が伸びている。周辺は北部に小高い山があり東には耕作地が広がり西には草原が広がり遠くにはサリス海が見える。南側は街道が広がっており交通の要所になっているために外壁の外にかかわらず宿場、馬車の駅、ちょっとした市場が広がり賑わっている。王城は北側の山を背に北側に建っている。アクシスを乗せた馬車は王城周辺の行政区を抜けついに王城の重厚な正門へ到着した。
「ん?正門?」
カリカ伯爵は違和感を感じた。王城の正門は国賓や重要な客、そして、王族のみ使用するからであったからである。なにかやらかしたアクシスが決して通れる門ではないのである。馬車は正門を通り正面玄関へ停まった。カリカ伯爵はそこでさらに驚いた。前王妃アントワネットとリック宰相、従者が整列して馬車を待っていたのである。カリカ伯爵はてんぱった。パニックといってもいい。訳が分からなかった。それでもカリカ伯爵は平静を装い震える手でアクシスを引きずるように馬車を降り、平伏したのである。
「これはアントワネット様。ご機嫌麗しゅうございますか。我が甥の為にお時間ありがとうございます。」
とカリカ伯爵は貴族らしく挨拶をしアクシスの頭を手で押さえつけて礼をとらした。
「これ!アクシス、礼をつくさんか!王妃様であるぞ!」
「へへー。」
「おま!まあいいか・・・。」
カリカ伯爵は心の底から寒気がした。前王妃と宰相がニコリともしないのである。顔色は悪く、眉間にしわがより表情が強張っているのである。そのままアクシスと伯爵はそのまま応接室に通された。二人ともビビりすぎて真っ青である。応接室に入った途端カリカ伯爵は土下座した。貴族は土下座など決してしないのだがカリカ伯爵は土下座した。
「我が甥がなにかとんでもないことをしでかしたようで申し訳ございません。その罪、我が命でお許しください。甥の命だけは助けてください。」
アクシスは感動した。土下座という恰好の悪い姿がものすごくかっこいいと思った。普段、へらへらしている叔父が必死に自分の為に土下座しているのである。
「おじさん・・・ありがとう。」
カリカ伯爵は振り向きニコっとした。悲壮な表情で。
「カリカ伯爵。どうかそのようなことはしないでください。エイリアス男爵は罪など冒しておりません。」
「え?では・・・このような待遇はいかなることで?」
アクシスと伯爵は前王妃に椅子へ座るようにとすすめられて事情を聴いたのであった。
「エイリアス卿、率直に言います。緊急事態ですので・・・。時間がないです。」
「宰相。わかりました。無礼があったらすみません。」
「無礼なんて言ってる場合ではないんです・・・流行り病で王が危篤なんです・・・。」
「なんと!とんでもないことに・・。」
「そこでいろいろな伝手を聞いて回っていたのですがエイリアス卿は母上と姉上の流行り病を治療しお二人は回復したと聞きまして、お招きしたのです。」
「なるほど・・・。」
「アントワネット様。事情は分かりました。陛下が罹患されたなら王城の中の方々も罹患されているのではないです?」
「はい、かなりの者が出ております。今は大ホールに集めて治療していますが弱っていくばかりで・・・。」
王城の被害は甚大であった。国王をはじめ、内務大臣、軍務大臣等重鎮貴族、政務担当者など罹患したため、国の運営ができなくなっていた。
「分かりました。王妃様。非才の身ですが全力であたります。」
「エイリアス卿。幼いそなたに頼むのは気が引けるがもう手段は多くない。頼みます。」
アクシスとカリカ伯爵、前王妃、宰相は国王の寝室へ移動した。