魔力測定
「ところでソラちゃんはどこから来たんだい?その髪と瞳の色。ここら辺では見ない容姿だし、通行許可証を持っていなかったということは、この国の人ではないということか?」
一段落ついた王様たちは、それぞれの席に座っていた。
いつの間に持ってきたのか、王子様の席もあり、ビリー様は王妃様の膝の上に座りニコニコと笑みを浮かべている。
周りが落ち着いたのを確認した王様は、口を開き、私はその言葉にギクッとなった。
ついに来てしまった……。
いつかは来るだろうと思っていた質問。
それにしても、黒髪と黒い瞳はこの国では珍しいのか。
確かに、メイドさんたちや王様たちなど、ここに来て見た人に黒い髪の人や瞳の人はいなかったな。
「…覚えていないんです」
私は女神さまに言われた通りのことを口にした。
「覚えていない?」
王様の眼光が鋭くなり、身を固くしながら頷いた。
「…気付いたら草原にいて……」
「…なるほど。おい、医者を呼べ」
王様の声に扉の近くたっていた護衛の人が、「はい」と返事をして足早に部屋から去っていった。
それからすぐに、私の部屋に毎日来てくれていた、60代くらいのお医者さんが現れた。
お医者さんは王様たちに一礼し、王様から話を聞いた後、私に向かっていろいろな質問をし出した。
どこから来たのか。
両親はどこにいるのか。
ここに着くまでにどんなことがあったのか。
自分の魔力の量は。
自分が得意としている魔法は何か。
などなど、たくさんの質問をされたが、私は覚えていないと首を横に振り続けた。
「…そうですか。では、名前以外は何も覚えていないと?」
確認されるように聞かれた質問にも頷けば、お医者さんはクルッと王様たちの方を向き、
「おそらく記憶喪失かと」と重く口を開いた。
「記憶喪失?」
「はい。おそらく何らかの衝撃を受け、その影響で名前以外についてのことを忘れてしまったと思われます」
「…そうか。では、あれを」
再び王様が扉の近くに立っていた護衛の人に声をかければ、返事をし、またしても部屋から出て行った。
あれを…?
今の話の流れで何を求められているのか分かったのかな?
「それでいつ記憶は戻るのかね?」
「それは…断言できかねます。明日いきなり戻る可能性もありますし、このまま永遠に戻らないということも……」
「そうなのか…。分かった、ありがとう。もう戻ってもよい」
「はい」
恭しく頭を下げたお医者さんは、静かに部屋から出て行った。
それとすれ違うように白い服に甘いマントを羽織った顔の整った男の人が入ってきた。
その人は私と目が合うと一直線にこちらに向かってきて、目の前に跪き、右手を取った。
「あぁ美しき人。お初にお目にかかります」
その言葉を言い終わるや否や、手の甲に唇を落とした。
「……!?」
声も出せず、身動きも出来ずにいれば、グイッと後ろに引っ張られ、手が離れる。
「おい」
後ろから聞こえてきた低い声に首で振り返れば、王子様が鋭く男の人を睨みつけていた。
「レオがその態度を取るって言うことは、その子が噂のレオが好きな子ってわけだ」
王子様に対して、呼び捨てのうえにため口なんて……。
この人は一体誰なんだろう……?
「…ふ~ん」
上から下まで舐められるように見られ、少しの恐怖心を持つ。
数秒間私の事を見ていたその人は、私の顔に視線を移し、ニコッとキラキラの笑顔を浮かべた。
「先ほどは驚かせてしまい申し訳ありません。私は魔法師団、団長のリアム・スコット。ちなみにレオとは従兄弟になります。以後お見知りおきを」
パチッとウインクをしたリアム様。
従兄弟……。
だからあんなにフレンドリーだったのか……。
「リアム、あれは用意できたのか?」
「はい」
王様が声をかければ、さっきまでニコニコしていた笑顔が一瞬で真面目な顔になった。
そして、パチンと指をならせば、部屋の中に赤いマントをつけた人が2、3人入って来て、私の胸くらいまである台と、その上に水晶版を置いて颯爽と部屋から出て行った。
「この水晶版は、魔力量など、魔法についての情報を確認することができるものです。では早速ではありますが、ソラ様こちらに右手をかざしてみてください」
おずおずと水晶版の上に右手をかざせば、小さな光が数秒続き、そして静かになった。
もういいかなと手をどければ、
「こ、これは!?」
リアム様が水晶版を覗き込んで声をあげた。
その驚きの混じった声に、王様たちも何事かと椅子から立ち上がり台の上に集まってくる。
いきなり人に囲まれたことで、クラッとよろけらば、誰かに受け止められる。
「大丈夫か?」
見上げれば王子様が心配そうな表情をして見下ろしている。
「…は、はい。申し訳ございません」
王子様から体を離し前を向く。
「いや、何かあればいつでも言ってくれ」
と腰に手が回され、心臓がバクバクと音を立て始める。
「…これはどういうことだ」
私と王子様が小さな声で会話を続けている間にも、水晶版を取り囲んでみんなが驚きの声をあげていた。
そんなに驚くことがあるのかと思い水晶版が目に入る距離まで近寄れば、王子様も私の後に続いてくる。
それにドキドキしながらも、水晶版に浮き上がっている文字を見た。
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ソラ
魔力量:11000
魔法:治癒魔法
女神様の加護持ち
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短い情報が書いてあるのが見え、首を傾げた。
これのどこに驚く要素があったんだろう……?
他の人がやったらどんなことが出てくるのか分からないけど、私のはあまりにも少ないような気がする。
王様たちの方を見れば、王様たちも目を見開いて私の方を見ていた。
……え?
「君は一体何者なんだ!?」
リアム様が大きな声を出した。
「…え」
何者なんだと言われても……。
「一般的魔力量は、五千ほどで、優秀な人でも八千~1万ほど。それ以上の魔力を持っている人なんて珍しいなんてものじゃないぞ!しかも、魔法の欄も今まで見たことがない。普通はその人が使える魔法が何種類か出て来て、一番初めに出てくる魔法が得意魔法なはずなのに…。ソラ様の水晶版には治癒魔法の一つしかない。つまりは、とんでもない魔力が詰め込まれた治癒魔法が発動するってわけだろ?そんな魔法…想像も出来ない。極めつけは、女神さまの加護持ちだと!?今まで神様の加護を持っている人なんて見たことが無い!そもそも俺にとってこの水晶版は初めて尽くしのことばかりだよ」
リアム様は、興奮したように一気にまくし立てた。
丁寧な言葉も忘れているし、一人称まで変わっている。
つまり、それほど驚いて、興奮しているということなんだろうけど。
そう、そうなんだ……。
何の変哲もないと思っていたけど、全てがとんでもなかったらしい。
「それで君はどうしてこんな魔力が多くて、使える魔法が治癒魔法しかなくて、女神の加護を持っているんだ!?」
そんなこと私に聞かれても……
「わ、分かりません……」
どうして魔力が多くて、治癒魔法しか使えないのかなんて…。
異世界に来たばかりの私が分かるけない。
少なくとも女神さまから加護を貰っているのを知ってたはいたけど、そんなことを素直に話せるわけがないし……。
「リアム少し落ち着け」
王様の落ち着いた声に興奮していたリアムさまが、ハッとして前のめりになっていた体を戻した。
「ソラちゃんにどうしてと聞きたい気持ちは分かるが、ソラちゃんは記憶喪失なんだ。いくら聞いても答えは分からないよ」
「……記憶喪失…」
その言葉で私の方を見たリアム様は、バッと頭を下げた。
「申し訳ありません。そうとは知らずに…」
「い、いえ……。私の方こそ、何も答えられずに申し訳ございません」
それにつられるように私も頭を下げた。
リアム様は魔法師団の団長だって言っていたから、魔法について探求心が尽きないんだろう。
それなら、私の事を知りたがるのにも納得ができる。
それに、何かを知りたいと思う気持ちは凄いことだ。
…ちょっと怖かったけど……。
その後このことは、しばらくこの場にいた人たちだけの秘密にしようとまとまった。
私は魔法をむやみに使わないようにと言われ、後日から魔法についての勉強をすることになった。




