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転生姫  作者: 有栖川 すず
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王子様

「……へ」



 あまりに唐突な言葉に変な声が出たのは、許してほしい。


 それにしても今何て言った……?


 一目惚れ……?

 婚約者になって欲しい……?


 転生する前も、『一目惚れしました』という男の人からの告白を上手く断り切れずに、押し切られる形で付き合ったことがある。

 でも……体だけが目当てだったのか、数回体を重ねたらあっさりと振られ、正直『一目惚れ』という言葉に良い印象は全くない。


 それに加えて今回は、婚約者という言葉まで付いてきてしまっている。


 真剣な表情を見れば嘘をついているとは思えないけど……。


 いやいや、今までそれで信用して何回も裏切られてきたじゃない……。



「…あ、あの……」



 どう答えていいのか分からずにいれば、彼が一歩私に近付いてきた。



「あ、自己紹介がまだだった。俺はこのクラーク王国の王子、レオ・クラーク」



 口元に笑みを浮かべながら名前を言った彼は、私に手を差し出してくる。



 クラーク王国……。

 それが私が転生した国なんだ……。

 当たり前だけど全く聞いたことのない国名。



「……っ!?」



 自分の転生した国の名前をやっと知ることが出来た私は、次に言われた言葉を思い出し勢いよく顔を上げ、彼の顔を見た。



 王子……。

 今、王子って言った……?

 私の耳が正常に働いていれば確かに王子って……。


 初めてまともに見た彼の顔。

 ……綺麗な顔。


 幼い頃呼んだお伽噺に出てくるような整った顔。

 金色の髪に、ブルーの瞳。

 立派で高級そうな服。



 ……王子様。



「あなたの名前は?」



「…わ、私は……っ」



 いきなり名前を聞かれ心臓がバクッと跳ねた。


 相手が名乗ったのだからこっちも名乗るのが礼儀。

 そんなことは分かっているけれど……。


 日本にいた時の名前を言っちゃいけないことくらい分かっている。

『五十嵐天』だなんて名乗ってしまえば、それこそ確実に怪しい人になってしまう……。


 ……どうしよう?

 王子様が待っているのに……。



『ソラ』



 パニックになっていれば、頭の中に声が響いてきた。

 どこかで聞いたことのある鈴の鳴るような綺麗な声。



『ここではソラと名乗りなさい。それ以外のことを聞かれたら覚えてないって言えばいいわ。それと私の声は貴方にしか聞こえていないから声を出してはダメよ』



「女神さま!」と口を開きかけた瞬間に、女神さまの声が聞こえ慌てて口を噤んだ。


 危ない。

 ここで「女神さま」なんて言ってしまえば不審な目で見られること間違いなしだったもん。


 ついさっきまで音沙汰なしだった女神さまに聞きたいことは山ほどあったけど、私の名前を待っている王子様に目を向けた。



「……ソラ…です」



 控えめ気味に差し出されていた手を握れば、ギュッと握り返される。



「…ソラ。…いい名前だ。あ、今から家に帰るところなんだ。ソラも一緒に行こう」



 そう言うや否や、私の返事を待たずに王子様は歩き出していた。

 しかも、ほんの数秒前までは握手だったものが、今は手を繋がれ引かれている。



 え……?

 家……?

 家ってまさか……?


 いや、そもそも私通行許可証持ってないから戻ろうとしていたわけで……。

 それを伝えたいのに、どうしても言葉が出てこない。


 …昔からこうだ……。



「レオ様!」



 声がした方に顔を向ければ、そこは既に門の目の前で。

 王子様の護衛らしき人が慌てて駆け寄ってくる。

 その周りを取り囲むように門の護衛の人たちなども集まり出して……。


 大きい男の人たちに囲まれ、咄嗟に身を小さくした。



「どこに行っていたのですか!?レオ様に何かあっては困るのですよ!」



 大きな声が近くで聞こえ、更に小さくなった。



「そんな大きな声を出すなよ。うるさいだろ」



 さっき私と話していた時よりもワントーンくらい低い声。

 それには驚いたけど、繋がれていた手がちょっと強く握られさらに驚いた。

 まさか、私が怖がっているのに気付いた……?


 ちょっと前、数人の男の人たちに襲われそうになったことがある。

 その時はたまたま通りかかった人たちが助けてくれて未遂で終わったけど。

 それからというもの、男の人たちに囲まれるとその日の出来事がフラッシュバックし、苦手になってしまった。

 頑張って2人が限度というところだ。


 確かに小さく震えていたかもしれないけど……それに気付いてくれた?

 それともたまたま強く握り直されただけかもしれないけど……。



「ところでレオ様、そちらの方は?」



 顔を下に向けて出来るだけ注目を浴びないように息をひそめていたけど、そんなことがいつまでも通用するわけもなく。

 そちらの方というのが私だということは一瞬で分かった。


 顔を上げなくとも、護衛の方たちの視線が私に向いているということを感じる。


 あぁ……もう怖い。

 ……怖すぎる。



「家に連れてく」



 王子様が答えれば、ザワザワと護衛の方たちがざわめいた。


 …その反応になるのは当たり前です。

 私だって護衛の立場だったらきっと驚くだろうし。


 だって一国の王子が知らない女の人を家に連れ行こうとしてるんだから。

 そりゃそうなります……。



「失礼ながらレオ様。そちらの方は通行許可証をお持ちでないようなのですが……」



 その言葉にチラッと視線をあげれば、門の前に立っていた護衛の人がいた。

 さっきまでの鋭い視線でも冷たい口調でもなく、恐れおののいているような表情と口調をしている。



「だから何だ?」


「っ!!」



 その王子様の一言でその場が凍り付いたのが分かった。

 王子様の斜め後ろにいる私には、表情なんて見えないけど、その口調からある程度の予想はつく。

 きっと、声同様冷たい顔をしているんだろう……。



 ……クラっ。


 再び顔を下に向ければ、目の前が歪んだ。

 足元が二重に重なり、立っているのも辛くなり始める。


 あれ、そういえばこの世界に来てどれくらい経ったんだろう?

 恐らく半日は余裕で経っている気がする……。

 でも私、その間何も飲んでいないし、食べ物を口にしていない……。

 しかも、昼は太陽が出ていて結構暑かったし……。


 あれ……?

 これヤバいかな?


 王子様たちの会話がどこか遠くに聞こえ出し、グラグラと視界が揺れ、手と足の力が抜け……。


 ドサッ―――。


 気付けば地面に倒れていた。



「ソラっ!!」



 それまで護衛の方たちと話していた王子様の焦った声が聞こえてくる。

 でも、それに答える力もなく、私はそのまま意識を失った……。


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