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転生姫  作者: 有栖川 すず
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転生

「…ん」



 肌に当たるチクチクとした感覚。

 顔に当たる温かい光。


 だんだんと意識が浮上し、ゆっくりと目を開いた。

 そして体を起こした。



「……っ!?」



 目の前の光景に、ついさっきまでボーっとしていた頭がクリアになり、息を飲んだ。


 そこに広がっていたのは、見渡す限り広がっている緑。

 少し離れたところに緑がなく、地面がむき出しになっているところが見える。


 ……あれは多分道…なのかな?

 舗装も何もされておらず、土だけが顔を出しているという、凄くシンプルな道。

 恐らく、馬車などが通る道なんだろうけど……。


 編集の仕事をしている時に、何度か異世界物を手にしたことがあり、その話の中に出て来ていたような気がするし……。


 それにしても、ガードレールや信号機がついている日本とは全然違う……。


 本当にここは異世界……?


 女神さまのことを信じていないわけではないが、未だに受け止め切れていない部分もある。

 もしかしたら、私が今いる場所はどこかの田舎道で、今までの出来事は全て夢だったんじゃないかと心のどこかで思ってしまっている。



 ギャアアアアアアアア…!!



 静かだった草原に、大きく何かの声が響き渡った。

 ……声質や大きさから人の声ではないことだけは分かった。

 ビクッと肩を震え上がらせながらも、周りも見回してみる。


 動物はおろか人の姿すら目に入らずホッとしたのも束の間、人ではないものが近くにいるのかと思うと心臓がキュッと縮こまる。


 とにかくこの場から一刻も早く離れよう…っ。


 パッと立ち上がり、おもむろに視線を下に向ければ、自分の服装に驚いた。

 女神さまと別れる前までは、確かに黒のスーツを着ていたはずなのに……。

 今は、ベージュのワンピースと呼ぶにはあまりにもシンプルで、だけど真新しい服を着ていた。

 それに脱ぎ履きの楽な靴に、後ろに一つにまとめられていた髪は、いつの間にかおろされている。


 他にも変わっているところは無いかと見てみるが、服装の変化以外には変わっているところはなさそう。

 いや、もしかしたら顔や体格なんかが変わっているかもしれない。

 でも鏡が手元にない今はそれを確認する術がないため、その不安を心の奥にしまった。



 ギャアアアアアアアア…!!



 再びあの声が響き渡った。

 とにかく今はどこか人のいるところに行こう……。

 ここがどこなのか分からないし、お金も持っていないし……。

 女神さまがこっちの世界でも話せるようにしておくと言ってくれたけど、今のところ女神さまの声は聞こえないし……。


 もしも異世界に転生しているのであれば、野垂れ死ぬのは遠慮したいから。


 とにかく進もうと土がむき出しになっている道路に来たものの……。


 どっちに進めばいいんだろう?

 右を見ても左も見ても何も見えない……。

 と思いながらも目を凝らしていれば、左側の方に小さな門のようなものが見えた。


 あの門のところに行けばきっと誰かいるはず……。

 そう微かな望みを信じて私は歩き出した。


 歩き続けること数時間。

 眩しかった太陽はいつの間にか傾き始めている。

 …なんとか夜までには着きそうかな…。

 良かった……。


 安堵の息をはき、顔を上に向けた瞬間目に入ってきた門に目を見開いた。


 大きい門……。

 40メートルほどの高さがあり、横幅も大きい……。

 きっと遠くから見たから小さく見えたんだろうけど、目の前にしてみると迫力が全く違う。


 それに門の両端からは門と同じ高さくらいの塀がぐるりとそびえ立っていて、門の前には厳重な装備をしている兵士みたいな人が立っている。


 こんなふうになっているということは、この奥には何かとんでもないようなものがあるのかもしれない……。

 こんな固く警備されているのに、私みたいな人間が入れるんだろうか?


 多少の不安もありながらも、長距離を歩いてきた疲労から早くどこかで休みたいという思いの方が強く、門の前に立っている人の方へ足を向けた。



「……あの」


 小さく声をかければ、私よりも数十センチは背の高い男の人が眉ひとつ動かさず私を見下ろす。


「通行許可証は?」


「……え?」


 通行許可証……?

 なにそれ……。

 聞き覚えのない言葉に止まっていれば、男の人が目を細めた。



 あ、この目は……。

 私の事を疑っている目だ……。



「通行許可証がなければここから先は通れません」


 言葉遣いは丁寧だけど、突き放すような冷たい口調。


 ここから先に進めないということは、元の道を戻るしかないということ。

 だけど、何時間も歩いてきて疲労は溜まる一方だし……。

 戻ったところで人がいるような場所があるかも分からないし、もしあったとしてもどのくらいの時間がかかるかも検討もつかない。

 それに飲まず食わずのままでいたら、きっと辿り着く前に倒れる未来は見えているし……。

 かと言って何か買えるようなお金を持っているわけでもないし……。


 どうにかしてこの先に進みたいけど……。


 チラッと男の人を見上げれ、鋭い瞳と目が合ってしまい、すぐに顔を下に向けた。


 これ以上、この人に立ち向かう勇気なんて私にはない。



 ……帰ろう。



 男の人に小さく頭を下げ、来た道を引き返そうとすれば―――……。


 ザッと私の横に馬車が止まり、御者の人がカードを取り出して警備の男の人に見せ、門が開き馬車が動き出そうとした瞬間、

 窓から馬車に乗っていた人と目が合った。


 チラッとしか見えなかったけど、カッコいい男の人だった…気がする。



「…私には関係ないけど……」



 私はあの門の向こうには今後一切入れないんだから。

 も、もしかして、この辺は全部通行許可証がなかったら入れないんだとしたらどうしよう……?

 私完全に詰んだよね?



 異世界に転生したばっかりなのに、こんなことって……。

 結局私は何度人生をやり直しても、哀れな道を進むしかないのかもしれない……。


 そんなことを考えながら来た道をとぼとぼと力なく歩いていると……

 グイッと腕を引かれて足が強制的に止まった。

 驚いて振り返れば、高級そうな服に身を包んでいる男の人が立っていた。



 ……あれ?この人……?

 さっきの場所に乗っていた人……?

 チラッと一瞬見た人にも関わらず、脳裏には記憶されていたようで自分でも驚く。


 いやいや、覚えていたこともそうだけど、何でこの人はここにいて、私の腕を掴んでいるんだろう?

 それに一向に離してくれそうもないし……。



「…あ、あのっ……」



 動かない彼に戸惑いながら声をかければ、彼の体がビクッとなったと同時にパッと私の腕を掴んでいた手が離れた。



「あ、怪我は?」


「え?…あ、ありません…」



 確かに力は強かったけど、怪我をするほどの力ではなかった。

 首を横に振った私に、ホッとした表情を浮かべた彼は、いきなり真剣な顔をして私を見つめてきた。



「あなたに一目惚れしました。俺の婚約者になってください」



 そして、とんでもないことを言った。



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