王子様の友達
結局その後、私は王様の頼みに何も言うことが出来なかった。
謝る私を諭しながら、王様は優しい笑みを浮かべ、少し考えてみてくれと言ってくれた。
その優しさにさらに心が痛くなった。
その数日後。
王様の頼みの答えを1日中部屋にこもり考えていた私に、ジェシカさんが
「応接室にソラ様に会いたいというお客様がお見えです」
と声をかけてきた。
私に会いたい……?
…誰?
全く見当もつかずに、少しの不安を抱えながらもジェシカさんの後をついていき、1階にある客間として使われている部屋のドアの前に辿り着いた。
コンコン。
「ソラ様をお連れいたしました」
ジェシカさんがノックの後にそう言えば、ドアの奥が騒がしくなったかと思うと、バンと勢いよくドアが開いた。
内側に開くタイプのドアだったから良かったけど、外側に開いてたら完全にぶつかってた……。
痛い想像をしながらも、驚いて開かれたドアを見ればそこにいたのは……
「キャー!!あなたがソラちゃん!?噂通り綺麗で可愛い!」
綺麗なドレスに身を包んでいるので、どこかのお嬢様だとは思うが、テンションがとても高い。
それに私の事を綺麗で可愛いって言ってくれたけど、この人の方が数十倍は綺麗で可愛いと思った。
「こんな子ならレオが惚れるのも頷けるわね」
王子様の名前が聞こえ、ドキリと心臓が跳ねる。
しかも…呼び捨て……。
王子様に向かって呼び捨てってことは、相当深い関係に違いない……。
「おい、エミリー。近すぎる。ソラが困ってるだろ」
至近距離まで詰め寄って来ていたのが、王子様の手によって離される。
…エミリー。
恐らくこの女の人の名前なんだろうけど……。
王子様も呼び捨てなことに、少し胸がモヤモヤとする。
「あ、ごめんなさい。困らせるつもりはなかったのだけど……」
「い、いえ……。大丈夫です」
「今お茶をしていたところなんだけど、ソラちゃんも一緒に飲みましょう」
さっきのテンションは何処に消えたのか、今は口調も落ち着いていて丁寧な言葉を使っている。
「で、でも私は……」
こんな場所にいるのは場違いではないかと思い、断ろうと口を開いたが…
「さあこっちに座って」
と強引に椅子に座らされていた。
そこで応接室の中にいたのは、王子様とエミリー様だけじゃないことに気付く。
私の右前の席に、1人で本を片手に紅茶を飲んでいる男の人がいた。
さっきの喧騒も聞こえていないのか、視線は本に落としたまま。
真面目そうで落ち着いた雰囲気をしている男の人。
「…っ!?」
私がジッと見ていることに気付いたのか、彼がおもむろに顔を上げ、視線が合ってしまった。
驚いて逸らすことも出来ずにいれば、彼は口角を少し上げた。
「ルーク・ジェームズです。レオとは幼い頃からの付き合いで、今では同じ王立学園に通っています」
「あ、ソラ…です」
「知っていますよ。それと先ほどは俺の婚約者がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「い、いえそんなこと……。え?婚約者?」
雰囲気と同様に落ち着いた口調で話すルーク様のペースに完全に飲まれていたけど、その一言にペースを取り戻した。
婚約者……?
え?誰が……?
王子様ではないはずだし……。
だとすれば……ハッとして隣に座っていたエミリー様がニコッと笑みを浮かべて頷いた。
「ご挨拶が遅れましたが、私はエミリー・シャーロット。ルークと同じくレオとは幼い頃からの付き合いで、王立学園にも通っています。そして、彼の言った通りルークの婚約者です。よろしくお願いします」
その言葉でどうして呼び捨てなのか理解することが出来た。
幼い頃から知り合い、つまりは幼なじみみたいなものだからこそなんだと。
「そ、そうなんですね……。よろしくお願いします」
頭を下げようとすると、ガシッと両手を握られた。
「私の事はエミリーとか呼び捨てで呼んで頂戴。もちろん敬語もいらないわ。私もソラと呼ばせてもらっても?」
「は、はい。それはもちろんいいですが、私が呼び捨てをしたり、ため口を使ったりするのは……」
この世界に来て、誰かを呼び捨てで呼んだりため口で話したりしたことはない。
もちろん、関わっているほとんどの人が私よりも立場が上の人が多いと言った理由もあるけど…。
呼び捨てにして、敬語を使わないでと言われてすぐに実行できるほどのコミュニケーション力は私には到底ない。
「そう?なら、少しずつ慣れていって欲しいな」
「どうしてそこまで……」
エミリー様がそこまで言ってくる理由が分からず首を傾げれば、エミリー様はさも当然かと言うように口を開いた。
「そんなの、ソラと友達になりたいからに決まっているじゃない」
……友達。
その言葉に、ビクッと肩が震えた。
私にとって『友達』と言う言葉は、何の信用も無い言葉だ。
前世で生きている時に、幾度となく『友達』という言葉を信用し、その度に裏切られてきた。
だから『友達になりたい』という言葉は信用できない。
だけど、エミリー様の顔を見ていると何故か信用したくなってしまう。
「焦らなくても私はいつでも待ってるから。無理に頑張ろうとしなくていいから。でもその代わり私からはグイグイ行くから覚悟しといてね」
真剣な瞳をしたと思った瞬間、いたずらっ子のような笑みを浮かべてエミリー様は綺麗なウインクをした。
「女子同士の話は終わったか?ソラに紹介しときたい人がもう1人にいるんだけど」
あまりに綺麗なウインクに見惚れていれば、横から入ってきたのは私の正面に座っていた王子様。
「…紹介したい人ですか?」
王子様の方を見れば、視線を後ろに移した。
それにつられるように私も、王子様の後ろに目を向けると、兵士らしき人が1人立っていた。
会話に参加することもなく、微動だにしていなかったので気付かなかった……。
「彼は俺の側近のレドガー・フィード。俺たち4人は幼い頃からの家族ぐるみの付き合いで、レドガーも俺たちと同じ王立学園に通ってるんだ」
家族ぐるみの付き合いって……。
王族との付き合いを持っているということは、3人ともいい家の育ちなんだろうな……。
王子様に紹介されたレドガー様は、優しい笑みを浮かべ頭を下げてくる。
「レドガーもこっちに来て一緒にお茶しようよ」
「はぁ?俺は今仕事中なの。そんな時間ねーよ」
「仕事中にしては砕けた喋り方してんじゃない」
ああだのこうだの言い合っていたレドガー様とエミリー様だけど、いつの間にか席にはレドガー様もいた。
そして学園の話になり盛り上がっている。
盛り上がっていると言っても、大体喋っているのはレドガー様とエミリー様の2人。
王子様は呆れたような表情をしながらたまに会話に入ったりしているが、ルーク様は本の世界に入ってしまっているのか全く声を聞くことは無いまま時間が過ぎた。
「そう言えばソラは王立学園に来たことある?」
黙って今までの話を聞いていた私は、いきなり自分に話題が振られ驚いたまま首を横に振った。
そもそも王立学園という名前すら聞いたことが無かった。
多分ニュアンス的には学校のようなものだとは想像が出来るけど、異世界の学校となると想像も出来ない。
「じゃあ明日学園に来ない?」
「え?」
「そう。明日新しい学生を募集するために学園が見学できるの。だからどう?」
…学校見学的なものか……。
私も受験を受ける時に何か所も行った記憶があるな……。
でも、明日って……。
「お誘いは嬉しいですけど、急すぎじゃないですか?そんな、飛び入り参加みたいなこと……」
正直王立学園というものは気になる。
でも事前に応募とかしなくてもいいのかな?
「大丈夫。誰でも自由に参加できるから」
「…そうなんですか。じゃあ…ご迷惑でなければ……」
「やった!じゃあ決まりね!明日は私が案内してあげるから安心して!」
「は?何でお前が案内すんだよ」
「いいでしょ!私はソラと仲良くなりたいの!」
「俺だってソラに好きになってもらいてーよ」
王子様とエミリー様の言い合いが続いていたが、王子様のその言葉にその場に一気に静寂が訪れる。
王子様も自分が言った言葉に徐々に赤くなり始め、私の顔をチラッと見て視線を逸らした。
そんな王子様につられるように、私も赤くなっているであろう顔を隠すように俯いた。
そんな姿を見て、レドガー様とエミリー様、それにルーク様までも笑っていた。




