ソラの治癒魔法 リアム視点
その光景を目にした時、夢を見ているのだと思った。
それほど非現実的で、幻のような現象だった。
最初に彼女の存在を知ったのは、魔力を測定したあの時。
水晶版はとても希少なもので、壊れたらもう一度作るのが難しいもののため、魔法師団の団長室で厳重に管理している。
また、一般向けにも出回っているが、希少なために価値が高く、一般市民が手に入れらることはほとんどない。
じゃあどうやって魔力量などを測るかについては、魔力量だけを測ることが出来る水晶版があり、それは安価で一般市民にも手が出せるもの。
その水晶版で魔力量を測り、それぞれの魔法を放ってみて得意な魔法を知る人が多い。
魔法師団で管理している水晶版を使う機会は、王族関係の人の魔力量を測る時などに限られており、ほとんどないに等しい。
それなのに、あの時俺の事を呼びに来た兵士の人は、水晶版も一緒に持ってきてほしいと言った。
貴重な水晶版を使うほど、重大なことが起きたのかと不安になりながらも、王様たちのいる部屋へ行けば…。
そこには、美しい容姿をした女性が立っていた。
思わず口説いてしまえば、敵対するような目でレオに見られ、俺の手から彼女が離れる。
そんなレオの様子に俺はすぐに理解した。
この女性が、レオのことを夢中にさせている人だと。
兵士たちの中で話題になっているのを小耳に挟んだことがあった。
あの『氷の王子様』が夢中になっている女性がいると。
それを聞いた時はまさかと思っていたが、レオの姿を見て本当の事だと分かった。
この人がレオを変えた女性かと見ていたら、彼女が引いていることに気付き、謝りパチッとウインクをした。
その時の話は置いておいて、その後が問題だった。
肌が白く、か弱そうな雰囲気をしている彼女の魔力なんてたかが知れていると思っていた。
だけど、水晶版が現したのは俺の予想を遥かに超えているものだった。
魔力量が11000!?
しかも得意な魔法が数個出てくるはずの所には、治癒魔法のたった1つのみ。
さらには、女神様の加護持ち……。
女神様の加護を持っている人なんて初めて見た、というか、そんな加護があるということにこの時初めて気付いた。
容姿からは想像も出来ないことに、彼女は只者ではないと確信した。
その予想はどうやら当たっていたらしく、魔法の使い方を教えただけで魔法が使えていた。
それに、治癒魔法ならではの光が俺が見てきた光とは比べ物にならないくらい眩しく輝いていた。
さらにそれが彼女の全ての力ではないと分かったのが、オーガの群れを討伐した人たちの手当てをしているところを見た時。
馬車から降り、負傷者の数をザッと確認した俺は、数人の死亡者が出るだろうと覚悟していた。
それに、一番重傷な人は今生きていることが奇跡だというくらいに、虫の息だった。
だけど彼女は…ソラ様はそれを完璧に治して見せた。
ソラ様が目を閉じ、男に手をかざすとさっきレオに向けた光の倍の光が男を包み込み、みるみるうちに血が消え、傷が無くなっていき、さらには失っていた手足まで元に戻した。
それを見て、言葉を失った。
……この人は一体何者なんだろう?
記憶を無くしていると言ったけど、その前は何をしていたのだろう。
少なくともこの国の人ではないのかもしれない。
こんな治癒魔法を使える人が噂にならない訳がないのだから。
「死亡者がでなくて良かったな」
城へ帰る馬車の中。
魔力の使い過ぎによる疲労で、眠ってしまっているソラ様を抱いているレオが声をかけてきた。
「あ、ああ」
さっきの光景が頭から離れず、曖昧に頷いた。
あの後もソラ様は負傷者の為に走り回っていた。
というか正確には、連れまわされていたと言った方が正しい気がするが……。
その後もソラ様の姿を見ていたが、どうにも理解できなかった。
光が大きくなったり、小さくなったり……。
目も当てられないほど眩しかったり、そこまでだったり……。
とにかく不思議だった。
「おい、そんなに見てもソラは渡さないぞ」
先ほどの事を思い出しながらソラ様を見ていたのか、レオが牽制してくる。
その姿にフッと鼻で笑ってしまう。
「別に狙ってなんかないから、安心しろよ。何だったら、誰かにゾッコンなレオを見ることが出来てソラ様には感謝してるよ」
「っ!ゾ……っ」
赤い顔をしながらも、否定をしないレオにさらに笑顔が浮かんでくる。
「それにしても、やっぱりソラ様は凄かったな」
「…ああ。あんな治癒魔法初めて見た」
俺の言葉にレオが同意をしながら頷く。
「あんなに大勢の人がいる中であんな治癒魔法が使えるなんて知られたから、これから大変になるかもな」
元々人が賑わっていた場所だったため、野次馬がたくさんいた。
その中でソラ様の力を隠す事はこれからは不可能だろう。
きっと既にその場面に遭遇していなかった人まで知っているだろうし、明日には王都内に知らない人はいない話題になってしまうだろう。
それに、フードも何も隠すようなものを羽織っていなかったし、この容姿なのだから顔を覚えている人も大勢いるだろう……。
そう思うと感謝と同時に、罪悪感が押し寄せてくる。
魔物化したオーグの群れが近くの森に現れたという知らせを受け、頼みこんだ身なのに、ソラ様に対するケアが出来ていなかった。
魔物化していない普段のオーグは、基本的にこちら側から刃を向けない限り襲ってくることはない。
だが、一度魔物化してしまうと凶暴になり、力も倍増してしまうため、余程の魔法や剣の使い手ではない限り、最低でも2人は戦力が必要になってくる。
そもそも、魔物というものすらここ数年では見られることがなかったし……。
「ああ」
短く言葉を吐いたレオは、自分の腕で寝ているソラ様の頭を優しく撫でた。
「そこら辺はどうしようも出来ない。親父への説明はお前に任せる」
「了解」
丁度会話に一区切りがついた時、タイミングよく馬車が城に着いた。
レオはソラ様を抱いたまま馬車を織り、焦っているメイドとともに、どこかへ消えていった。
そして俺は、王様に説明するべく王様への謁見を求めに向かった。




