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転生姫  作者: 有栖川 すず
15/18

ソラの治癒魔法

 

「ソラ!」


 緊迫した声に静かに目を開けると、一番最初に目に入ったのは不安そうな表情をしている王子様の姿。


 ……あれ?

 何で私……。


 どうやら王子様の腕に抱きかかえられているようだが、その訳も分からず困惑する。

 その数秒後……

「っ!?」

 こうなっていた訳を思い出した私は、慌てて王子様の腕から抜け出した。


「ソラ!大丈夫か!?」


 私が動いたことで初めて目覚めたことが分かったのか、王子様が私の腕を掴んだ。


「は、はい。大丈夫です」


「本当にか?」


 まだ疑ってくる王子様に私は首を縦に振った。


「本当に大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません。魔法が使えたことに驚いてしまって…」


 女神さまに会っていました、なんて口が裂けても言えるわけがなく、それっぽい理由を言った。

 それに魔法が使えたことに驚いたのは嘘じゃない。


「それはそうでしょう。治癒魔法を使うとその対象を光が包みこむのですが、あれほど眩しく広範囲の光は初めて見ました。どうやらソラ様に、魔法を教える必要は無かったようですね」


 王子様の後ろにいたリアム様がそう言った。


「そ、そんなこと……」


「ソラ様は魔法に関する知識においては乏しいかもしれませんが、それを実践する力は確実にあります。ソラ様の治癒魔法は、人々にとっての助けになることは間違いないでしょう」


 人々の助け……。

 女神さまにも同じようなことを言われたのを思い出して、そんなことはないのにと下を向いた。

 私に人を助ける力なんて……。



「大変です!」


 いきなり聞こえてきた声に驚いて、マイナス思考に陥っていたのが止まる。

 声のしたほうを見れば、裏庭の入口の所に白い服を着ている男の人が肩で息をしながら立っている。

 服装からするに、魔法師団の人なんだろうなと簡単に分かった。

 なぜなら、魔法師団長であるリアム様も白い服を着ているから。

 違うのは、赤いマントを羽織っているかどうかのみ。

 恐らく、このマントは魔法師団長だけが羽織れるものなんだろう。


「どうした」


 ただならぬ雰囲気を感じたのか、リアム様は真剣な表情で魔法師の人を向いた。

 彼は、慌ててリアム様に口を開こうとしたが、近くに王子様がいるのを見つけ、恭しく頭を下げた。

 肩で息をしているところや、表情からして慌てているはずなのに……。


「何があった?」


 頭を下げられた王子様も、ただ事ではないと分かったのか、先を促した。

 魔法師の人は、ハッとして口を開いた。


「近くの森で魔物化したオーガの群れが発見されました」


 その言葉に、リアム様と王子様が息を飲むのが聞こえた。

 …魔物化したオーガの群れ……。


 オーガ……。

 編集者として働いていた時に、オーガが出てくる小説があった気がする。

 2足歩行をし、人の形をしているが、その体がとても大きく、力も強い。

 何よりも、頭に角が生えている……。

 鬼のようなもの……。


 その姿を想像するだけで、背筋が冷たくなった。


「それでどうなってる?」


「はい。それを聞いた冒険者や騎士団の方がすぐにその場に駆けつけ、討伐には成功しました。しかし、10体近くいたこともあり、重症者が多数出ており、今あるポーションでは足りないそうで…。中には、命の危機の人もいるらしく……」


「…そうか。…ソラ様」


 いきなり名前を呼ばれ、驚いてリアム様の方を見れば真っ直ぐに見つめられていた。


「あなたの力をどうか貸してください」


 そう言って頭を下げた。


「……え」


「もちろん全員の命を救ってくれとは言いません。…そんなこと言えませんが、どうかソラ様の力を……」


 懇願するようなその言葉に、私は嫌と言えなかった。


『あなたはこれからたくさんの人の命を救っていくの』

『自信を持って』


 女神さまの言葉が脳裏によぎった。

 女神さまは私の魔法が暴走することはないと言った。

 だけど…本当に?

 あんなに優しく知れくれる人を疑いたくはない……。

 でも……。



『あなたなら出来るわ』


 頭の中に女神さまの言葉が聞こえてきた。


 …でも……。


『大丈夫。あなたには無限の可能性があるのだから。安心して』


 その言葉でふと前世の自分を思い出した。

 あの頃の私は、人に押し付けられてばかりだった。

 誰かの雑用として存在していた。

 誰かに必要とされたことなんて1回もない。

 父からも母からも…他の誰からも……。


 でも今は……必要とされている。

 私が努力して手に入れた力ではないけど……。

 転生させた女神さまにも理由が分からない力だけど……。

 それでも必要とされている。



「…分かりました」


 そう言うと、リアム様は安心したように、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ありがとうございます!ではすぐに負傷者がいる場所にご案内します」


 リアム様は、魔法師の人からその人たちが集まっている場所を聞くと、私と王子様と共に馬車に乗り込み、その場に向かった。




 馬車が止まったのは、魔法師団の建物を出てから約5分後。

 外に降りて目に入ったのは、横に寝かせられている大勢の人たち。

 軽い怪我の人や、目も当てられない程血が出ている人など、数えられないほどの人たちがいた。

 そして次に目に入ったのは、真ん中にある大きな噴水。

 よく見てみれば、周りにはお店らしき建物がこれでもかというほど立ち並んでいる。


「……ここは」


「クラーク王国の王都、スタリードの中央広場です。普段は大勢の人で賑わっているのですが、こういった負傷者がたくさん出た場合にその人たちを集める場所がなく……。この辺では一番大きな場所なので、やむを得ずこの場所に……」


 リアム様の言葉に納得して、頷いた。


「おい、この中で一番の重傷者は?」


 リアム様は、近くに立っていた兵の人に声をかけた。

 その人は、気まずそうな顔をした後、ある方向を指さした。

 その指を追えば……

「……っ!」

 明らかに他の人とは違う雰囲気の人が横たわっていた。

 その人の周りには、家族らしき女の人と幼い子供が1人。


「最後のオーガを倒す前に、そのオーガの攻撃をまともに受けてしまい……。ポーションも既に飲ませてはいるのですが……」


 その兵の人の言葉を聞いて、私はゆっくりとその人に近付いた。

 すぐ横まで来ると、その惨状がさらに露わになる。


 右足と右腕はなく、装備の上から攻撃が貫通していて、微かに見える体には内臓が見えそうなほど深い傷。さらにどこから出てきているのかも分からない程の大量の血液。苦しそうな呼吸。

 それ以上見ることが出来ず、目を逸らした。

 医者でもない私が分かるほどの重傷。

 これで今、生きている方が不思議だと言ってもいいだった。


 …この怪我を私は治せるの?

 女神さまは手足を失っても、また元に戻せるほどの力が私にはあると言ってた。

 だけど……。


「あなたは治癒魔法が使える人!?」


 私がすぐ近くに立っているのに気付いたのか、男の人にすがって泣いていた女の人が私の腕を掴んだ。


「どうかこの人を、夫を助けて!!手足が戻らなくてもいいから……どうか…命だけでも…っ」


 やっぱり夫婦だった……。

 顔はあまり見ていなかったけど、かなり若そうな見た目をしていることに気付いた。

 それに…お父さんがどんな状態なのか、お母さんはどうして泣いているのか分からずに、ポカンとした顔をしている子供がつぶらな瞳を私に向けている。


 …きっとこの子供は、親から愛されて育っているのだろう……。

 どうしてか分からないけど、そう思った。

 この子から親を奪ってしまいたくはない……。



「最善は尽くします」


 私は男の人の横に膝をつき、目を閉じた。

 …ごめんなさい。

 これ以上悲惨な姿を見たくはないから…目を閉じさせてください。

 伝わるはずのない気持ちだけど、心の中で謝った。

 そして、私は男の人に手をかざした。


 …どうかこの人が今まで通りの生活を送れますように……。


 そう願った瞬間、周りから驚くような声が聞こえた。

 つい先ほどと同じような声に目を開けば、さっきとは比べ物にならないほどの眩しくて、強くい光が男の人を覆っていた。

 そして、血が止まり、傷が塞がり…失っていた手足が生え、今まで苦しそうな呼吸をしていて男の人が、しっかりとした呼吸を始め、表情も柔らかくなった。


 光が消え、その光景を目にした人たちは驚きの声と動揺が混じったような声を上げた。


「こ、これは……っ」


 奥さんも元の姿に戻った男の人を見て、驚き、すぐに私の両手を力強く握った。


「ありがとうございます、ありがとうございます!何て言ったらいいのか……っ。あなたは命の恩人です!」


 涙ながらに言う女の人に私は苦笑を浮かべた。


 命の恩人だなんて…私にはもったいない言葉だ。

 そう思っていれば……グイッと横から再び力強く腕を引かれた。

 驚いて顔を向ければ、今度は小学生くらいの子供が私を見て口を開いた。


「パパの事も治して」



 その後はあっちにこっちに引っ張りだこだった。

 一番最初の男の人までいかないまでも、重傷の人は何人もいて……。

 その人たちを治す度に、命の恩人だと泣いてお礼を言われた。

 そう言われるたびに、そんなことないのにと心の中でそれを否定した。


 結局その場にいた負傷者を治していたら、いつの間にか日が沈む出す頃になっていた。

 でも、魔物化したオーガの群れが現れたのに、死亡者は0人だったとみんな泣いて喜んでいた。



「ソラ、大丈夫か?」


 治療が終わる頃には、私はヘトヘトで1人で立つことすらままならない状態になっていた。


「魔力を使い過ぎたんだ。すぐに城に送るよ」


「ああ」


 王子様に支えてもらいながら、王子様とリアム様の会話を聞いていた。


 そして、フラフラする足で馬車にやっと乗り、疲れたピークに達したのか私はそこで目をつぶった。

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