ソラの治癒魔法
『ソラちゃん』
落ち着く声が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、そこには女神さまがいた。
「め、女神さま…。わ、私…」
「大丈夫、落ち着いて。あなたの持っている力について詳しく話しておけば良かったわね」
事の一部始終を見ていたであろう女神さまがそう言った。
「お、王子様は…?」
あの時王子様の声が聞こえた気がしたけど、それが幻聴だったのではないかと疑ってしまう。
それほどに今の私は、困惑していた。
「彼は大丈夫。あなたの治癒魔法の力の凄さを知ったから、驚いていただけよ」
「…治癒魔法の……?」
女神さまは私の質問に優しく微笑むと、私の手を誘って、机の前に座らせ、飲み物を出してくれた。
その飲み物を一口飲みと、スーッと心が落ち着いてくる。
そんな私の様子を見た女神さまは、ホッと安堵の表情を浮かべて口を開いた。
「単刀直入に言うと、あなたの治癒魔法はあの世界では最高峰の魔法よ。というか、この治癒魔法を使えるのは、あなたしかいない」
女神さまの言葉に驚いて、目を見開いた。
「あなたの治癒魔法は、軽い怪我や病気などを治せるのはもちろん、その人自身の心臓が止まっていない限りはどんなに治らないものでも治すことができる。さらに、手足や視力など、失ったものを完璧に戻すこともできる。これらは人だけに限らず、動物にも同じことが言えるわ。でも魔物はまた話が別」
「…魔物……」
前世に読んだことはあったけど、見たことが無いもの。
転生してからも魔物は見たことはないし、話に聞いたこともない。
「魔物はとにかく危険なの。人を襲ってこない魔物は見たことが無い。魔物においては、あなたの治癒魔法は全く効かない。だから、攻撃魔法の使えないあなたは、絶対に魔物に近付いてはいけないわよ」
どんな魔物がいるのか、どんな強さをしているのか、見当もつかないけど、私が勝てる相手ではないということは分かった。
だから、女神さまの言葉にしっかりと頷いた。
「話を戻すけど、あなたの治癒魔法の発動方法は他の人とは少し違うの」
リアム様は、心の底からその人を助けたい、癒したいと思った時に発動するって言っていたけど…。
意味が分からず首を傾げれば、
「なら、さっき彼の事を癒したいと思った?」
と女神さまから言われハッとした。
そう言えばさっき…そんなこと思った覚えはない。
失敗したらどうしよう?
王子様に危害を加えてしまったらどうしよう?
とマイナスなことしか考えていなかったはず。
「…どうして」
「あなたは潜在的にいつも、誰かを助けたい、癒したいと思っているのよ。だから、意識せずとも勝手に治癒魔法が発動する。…本当に優しいのね」
潜在的に……?
意識せずとも……?
「…そんなこと……っ」
私が優しいだなんて…そんなことあるわけがない。
あんな環境で育ってきた私が、優しさを持っているわけがない……。
「でも実際に治癒魔法が発動したでしょ?私もそんな人見たことが無かったら、驚いたけど…。他の神とも話し合った結果、それが答えなんじゃないかって考えに辿り着いたの」
他の神様と話し合った結果……。
その言葉に私は何も言えなくなった。
「それに、あなたの持っている膨大な魔力と使える魔法が治癒魔法だけというところ。それもどうしてか分からないの。私がそうしたわけでも、他の神がそうしたわけでもないから、本当に謎のままなのだけど…。転生させた人があなたしかいないから、比較対象がいなくて……」
神様たちも私がどうしてこうなのかを分からないなんて……。
「でも安心して。あなたの魔法が暴走することはないし、あなたの魔法によって誰かが傷つくなんてことは絶対にないから。何だったら、あなたはこれからたくさんの人の命を救っていくの」
女神さまが真剣な表情をして、私の肩を掴んでくる。
「最初は戸惑うかもしれないけど、自信を持って。私たち神がついているから。それに…」
チラッと女神さまが視線を落とした先には、水晶玉。
そこに映し出されていたのは、私を抱えて心配そうにしている王子様の姿。
「あ……」
もしかしてこれで私の姿を見ていたのかな?
声は聞こえないけど、女神さまには聞こえているのかもしれない。
「あなたにゾッコンの人もいるみたいだし…」
その言葉を聞いて、顔が熱くなるのを感じた。
「彼も心配しているみたいだから、そろそろお別れの時間ね。あ、あなたの治癒魔法は意図せず発動してしまうのだから、無闇に人に手をかざしてはダメよ。手をかざすことによって魔法が発動してしまうから」
「わ、分かりました」
頷いた私を確認した女神さまは、安心したように微笑んだ。
「何かあったらいつでも呼んで頂戴」
光りに包まれ、現実に戻る寸前に聞こえてきた優しい声。
その言葉と声に、心が温かくなるのを感じた。




