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転生姫  作者: 有栖川 すず
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魔法訓練2

 

「まずは、基本的なことから。ソラ様が得意とされている魔法は治癒魔法ただ一つとなっております。こう言ってしまうと、それだけしか使えないと思われるかもしれませんが、そうではありません。魔法の威力などは魔力量によって決まっており、得意魔法ほど大量の魔力を使うことが出来、2番目、3番目と威力が落ちて行きます。水晶版の魔法の欄の一番左に書いてある魔法が一番得意魔法となり、その次に得意な魔法と続いていきます。しかし、ご覧になった通り、ソラ様の魔法の欄には、治癒魔法のみしか書かれておりません。ですから、1万を超える魔力を使って治癒魔法が使えるということになります」


「…はい」


「そもそも、治癒魔法を得意魔法としている人が極端に少ないのです。2番目、3番目に得意としている人でも、軽い怪我や、風邪などを治す程度しか使える人がいません。ですから、ソラ様の魔力を使った治癒魔法は底知れません」


 リアム様は、そう話しながら机の上に、ピンク色の液体が入った瓶を3つ置いた。

 よく見てみると、同じピンクでも濃さが違うのが分かった。


「これはポーションと呼ばれているものです。薬草を用いて作られているもので、3つの種類があります。一番色が薄いものが、初級ポーション。切り傷などの軽い怪我、軽い風邪を治すことができます。そして真ん中のものが、中級ポーション。初級ポーションでは治せない怪我や軽い病気を治すことができます。最後に一番色の濃いものが、上級ポーション。重傷や重い病気などを治すことができますが、限度があり、命の危機にある人を救ったりすることはできません。治癒魔法を使える人が少ないために、ポーションを使うことが多くなっております」


 ポーション。

 私がいた世界で言う薬のことを言うんだろう。


「ポーションについてはこれから使用する機会も多いと思いますので、ご説明いたしました。それでは早速ですが、これから魔法の使い方をご説明いたします。もしものことがあっては大変なので、庭に移動しましょう」


「分かりました」


 ソファーから立ち上がり、 部屋の外に行ったリアム様の後ろをついていく、私と王子様。


 一度外に出て、建物をグルッと回った裏側。

 そこには、広い庭があり、周りは何メートルにもなる高い塀に囲まれていた。


「ここは魔法師団が魔法を練習するために使っている裏庭です。この空間を取り囲むように結界が張ってあるため、あまりにも破壊力のある魔法などを撃たない以上、外に影響が出ることはありません」


 …結界。

 よくよく周りを見渡してみれば、透明な薄い膜のようなものが目に入った。

 その向こう側が微かに歪んでいるように見える。

 きっとあれが結界だとは思うけど、言われるまで気づかなかった…。



「では早速、魔法の使い方をお教えしようと思います」


 それまでも真剣な表情をしていたリアム様が、より一層真剣な顔をして、背筋が無意識にピンと伸びた。


「魔法の使い方は至って簡単です。使いたい魔法を思い浮かべるだけでいいのです。ですがそれは、治癒魔法以外の話であり、治癒魔法の発動方法は他の魔法とは異なってきます。その方法とは、治癒魔法を使う人自体が、その人を癒したい、治したいと思うことです。その思いに反応し、魔法が発動し魔法の効力も変わってきます。それも相まって治癒魔法を使える人が少ないのです」


 魔法の使い方は分かったけど、話を聞いていて疑問に思ったことがある。


「癒したい、治したいと思う人はたくさんいるのではないですか?」


 治癒魔法の発動方法がそう思うことならば、そう思う人は多そうなはずなのに……。

 何だったら、治癒魔法が一番簡単な魔法にすら思えてしまう。


 私の疑問を聞いたリアム様は、静かに首を横に振った。


「上辺だけの気持ちでは駄目なのです。心の底から『この人を助けたい』、『この人を癒してあげたい』と思わなければ治癒魔法は発動しないのです。その証拠に、治癒魔法を使える人でも、身内に対する魔法の効果と、名前すら知らない人に対する魔法の効果には雲泥の差があると分かっています。そのため治癒魔法は、魔法である前にその人の本質を見極めることが出来る唯一無二の魔法と言われています。先ほど使える人がほとんどいないと言いましたが、正確には使えはするけど、自分が本当にこの人を助けたいと思っているのかどうかを知られてしまうため、使う人が極端に少ないのが本当の話です」


 リアム様の話に私は納得した。

 本当に善良な人間にしか治癒魔法は、完璧な発動をしない。

 だからこそ、ポーションが必要不可欠なものになっているんだ……。


「……私に…その気持ちがあるかどうか……」


 その話を聞いて、私は自信をなくした。

 私には、治癒魔法以外の魔法が使えない。

 例え、どんなに大量の魔力を持っていようが、この国が欲している治癒魔法が得意魔法だと書かれていたとしても……。

 その効力を最大に発揮するためには、心の底からその人を癒したい、治したいという思いが大事なわけで……。

 でも、私にその気持ちが芽生えるかなんて……。


「大丈夫」


 俯いていれば、王子様の声が聞こえ、顔を上げた。

 そこには優しい笑顔を浮かべている王子様の姿。


「ソラにはその気持ちがきっとあるよ。大丈夫」


 何の確証もない発言。

 だけど、まるで未来が分かっているようにはっきりと言い切った王子様に、どこからか自信が少しだけ湧いてくるのが分かった。


「…私もそう思います。ソラ様には、たくさんの人を救う力と思いがあると…」


 リアム様にもそう言われ、私は小さく頷いた。

 出逢って間もない、どこの誰かも定かではない私をこんなに信じてくれている……。


「ソラ様が魔法を使えるのか確かめたいので、王子様の胸に手をかざし、癒したいと思ってください」


 目を見開いてリアム様を見た。

 …王子様に向かって……?

 そ、そんなこと……。


「…申し訳ありません。治癒魔法は他の魔法と違い、対象が生き物と決められており、物に対して発動することが出来ないのです。しかも、自分に対しても治癒魔法を行うことが出来ないので…」


 出来るわけないという私の思いを汲み取ったのか、リアム様は苦笑をしながらも説明してくれた。


「触れる必要はありません。手をかざすだけで良いので…」


 これは私に対する訓練。

 リアム様が言ったことをクリアしないと、意味がないし、話が進まない。

 でも……視線を王子様に向けると、

 いつでも準備万端というような顔をしている。


「…ふー……」


 私は小さく息を吐くと、王子様の目の前に立ち、胸に手をかざし、そして目を閉じた。


 …失敗したらどうしよう……。

 こんなに大きくて、結界の張ってある裏庭に連れてきたということは、もしものことを考慮したから。

 治癒魔法を失敗したらどうなるのか、想像もつかない。

 もしも失敗しなくても…魔力が暴走したら……。


 …王子様に危害を加えるかもしれない……。



「これはっ!?」


 リアム様の驚く声が聞こえ、パッと目を開ければ、王子様が光に包まれていた。


「あっ!!」


 驚いて一歩後ろに下がった時、地面に足を取られその場に転んでしまった。

 その襲撃でなのかは分からないが、王子様を包み込んでいた光も消えた。


 王子様に目を向ければ、リアム様同様驚いたように目を見開いている。


 …何で……。

 私、魔法を発動した覚えなんてないのに……。


 何だったら、失敗したらどうしよう、王子様に危害を加えてしまったらどうしようって思っていたのに……。

 もしかして、そう思っていたから失敗しちゃったのかもしれない……。



「大丈夫か?」


 王子様の声が聞こえるけど、頭が混乱していてそれに答えることが出来ない。




『ソラちゃん』


 王子様とリアム様のではない声が、頭の中に響いた。


 この声は…女神さま……。


 その声に導かれるように、私はその場で意識を失った―――……。


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