魔法訓練1
「ソラ様、リアム様がお呼びです」
部屋でのんびりしている中、そんな風にジェシカさんから声をかけられたのは、温室を見学してからすぐ、翌日のことだった。
何だろうと思いながらジェシカさんの後をついていけば、着いたのは玄関。
お城の中にある魔法師団長の部屋かと思っていたので、戸惑ってしまう。
そんな私が外に出れば、玄関の前には大きくて立派な馬車があった。
その前に、リアム様と王子様が立っていて、さらに戸惑う。
リアム様がいるのは分かるけど、どうして王子様までいるんだろう?
頭にハテナを浮かべたまま、馬車の方へ足を踏み出す。
「詳しい事は中でお話いたしますので、では参りましょうか」
リアム様が私に手を差し出し、馬車に乗せようとしてくれた瞬間、バシッとリアム様の手を振り払い、逆に王子様が私の手を取り、馬車に乗せてくれた。
「別に取って食ったりなんてしないよ。そもそもレオの事は呼んでないんだけど」
「お前と2人だと心配だからな」
「レオだっていろいろやることがあるんだから、そっち優先させた方がいいんじゃない?それに、毎回来れるわけでもないんだから」
「そうだとしたら、護衛でもつけるよ」
「はぁ」
2人がそんなやり取りをしているうちに、馬車はお城の外を走っていた。
座席の横に付けられている小さな窓から外を見れば、馬車が通っていたり、数人の人が歩いていたり、所々に立派な建物が見えたり……。
この通りはそこまでにぎわってはいないようだった。
「こちら側は城に関係している建物が建っているから、あんまり人は来ないんだ。反対の方に行けばいろんなお店があったり、人がたくさんいるから今度連れて行ってあげるよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
王子様の言葉に、嬉しくなって思わず笑みがこぼれ落ちた。
感謝を言えば、王子様の顔が微かに赤くなったように感じたが、すぐに下を向いてしまって詳しくは分からなかった。
「その話は一体置いておいてもらい、今日は魔法についてソラ様に学んで頂こうと思い、お呼びした次第です。詳しいことなどはまた後ほど、魔導師団についてからとういことになりますが、しばらくの間は、魔法についての勉強が優先だと覚悟しておいてください」
「…はい」
そう言えばそんなことを言っていたような気がする。
ここ数日、お城の中を見たり、温室を見たりで完全に頭の中から抜け落ちていた…。
「着きましたよ、ここが魔導師団です」
私がそんなことを考えているうちに、外からドアが開き、乗る時同様王子様にエスコートしてもらいながら、外に出た。
まだお城を出てから数分しか経っていないはずなのに……。
でも、王子様がこの辺にはお城関係のものが建っているって言っていたな…。
魔導師団の建物は、大きくて立派な建物だった。
リアム様に続いて、魔導師団の建物の中に入れば、大きなシャンデリアが天井に飾られており、正面にはドアが1つしかないが、左右に伸びている廊下の方には、ドアが並んでいるのが目に入った。
「ではこちらへ」
リアム様が足を進めたのは、正面のドア。
中に入れば、机とソファー、本棚などがあった。
「ここは私の部屋となっています。座学はこちらで勉強をし、実戦は裏にある庭でやることにしましょう」
「…分かりました」
「では早速こちらにお座りください」
進められたソファーに私が座れば、その横に王子様も座ってくる。
一瞬驚いたが、机を挟んで反対側のソファーに座ったリアム様にすぐに視線を戻した。
「確認のためにもう一度、こちらの水晶版に手をかざしていただけますでしょうか」
そう言って机の上に置かれたのは、前に見た水晶版。
私は何の躊躇いもなく、その上に手をかざした。
そうすれば、以前同様小さな光が数秒続いて、そして静かになった。
「…やはり、この情報に間違いはないようですね」
小さく呟いたリアム様は、真っ直ぐと私を見た。
あまりの真っ直ぐさに、思わず体が後ろに引ける。
「いいですか、ソラ様。この世界では魔力というものは、誰でも持って生まれてきます。生まれたばかりの子供でも、100ほど持っています。その魔力が成長するにつれて多くなり、一般的な魔力量は5000程です。これくらいであれば一人前の魔法師になることができ、大抵の魔物は倒すことが可能です。優秀な魔法師であれば8000から1万程持っていますが、とても希少な存在で、この国にも数人しかいません。…と言っても、ソラ様の横に居る人はそれほどの魔力を持っていますが」
リアム様の言葉に、横を向けば王子様と目が合った。
…魔力をそんなに持っているなんて……。
「俺の魔力量は9500だけど、ソラの方が凄いだろ」
王子様が優しい眼差しを向けながら放った言葉に、リアム様は頷きながら口を開いた。
「その通り。そもそも1万を超える魔力を持っている人間を私は知りませんし、聞いたこともありません。それに持っている魔力が多ければ多いほど、制御することが出来なくなり、魔法が暴走してしまう人もいます。しかし、この数日の様子を伺えば、ソラ様にはそのようなことが起こっていないと感じます。ですが、記憶のないソラ様は恐らく魔法の使い方も覚えていらっしゃらないようなので、それをお教えしようと思います」
…そっか。
リアム様の話を聞いて、納得した。
初めて魔力の量を測った時に、どうしてあんなに皆が驚いていたのか。
それは、私の魔力量が一般の人が持っている量よりも多く、そんな膨大な魔力量を制御しているから。
どうやって制御しているのかなんて、私自身も分からない。
だけど、リアム様がそんな風に言うっていうことは、無意識下で出来ているということなんだろうな。
それに、魔法の使い方なんて全く分からない。
だって日本には、魔法なんていう非現実的なものは存在していなかったから。
でも、この世界で生きていくためには、魔法と言うものは必要不可欠なものなんだと思う。
だから……。
「お願いします」
頭を下げれば、リアム様は優しく口元に笑みを浮かべた。




