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魔女と命の指輪  作者: 石楠花
2/2

#1

 呼び出しなんて心当たりがない。

 初めての呼び出しにおびえながら足を運ぶ。


 扉の前で深呼吸。一通り可能性を頭の中で可能性を想定し、言い訳を準備して木の扉をたたく。


 「失礼します…」


 蚊の鳴くような声で挨拶した後、ゆっくりと扉を開く。

 扉の先にいたのは院長。

 その手前の来客用の椅子には魔女。もとい橘さん。


 この二人はどういう関係なんだろうとしょうもないことを話している間に、優しい声で院長が口を開く。


 「悪いね、わざわざ呼び出しちゃって。とりあえず長くなるから座ってよ」


 そう促されて、小さく頷く。質素だがどこか上品な院長室が、異常に狭く感じた。

 椅子に座ったら魔女がやさしく微笑みかけてくれる。


 理解できるものが何一つない状態で平常心を保ちつつ院長の次の言葉を待つ。


 少しの沈黙の後、院長が口を開く。


 「君はこの病院の都市伝説を知っているね。みんなが魔女だ魔女だと話しているあれだよ。実はそれについての話なんだ」


 ただでさえ私の脳内CPUがフル稼働して今の現状を処理しているのに、院長が更なる負荷をかけてくる。

 理科の究極系である医学を極めている賢い大人たちが魔女なんて信じているはずがない。

 ただただ患者の運が良かっただけだが、おじさんたちが冗談で言ってるだけのもの。

 確かに私もその奇跡を見たが、医療にも奇跡は存在する。

 それなのに、周りの賢いおじさんよりさらに頭がいいと思われるこのキングオブおじさんが魔女だなんてほんとに言っているのか?


 だめだ、一回考えるのを辞めよう。

 そう考えて話に意識を向ける。


 「今の魔女はここにいる橘君が務めている。彼女には多くの命を救ってもらっている。私としても頭が上がらないよ」


 もう訳がわからない。

 院長も疲れているのだろうか。

 私のような下々の医者が気を使わなければならないようなほど疲れているのなら医者の不養生もいいところだろう。

 とりあえず話を聞くことにしよう。


 「とりあえずまとめて全部話すから質問はその後ね」


 私の頭を見透かすようにそう言った後、すべてを語りだした。


 「この病院の魔女って存在は何十年も受け継がれているものだ。代々院長が任命して、本人が辞めるか死ぬまで魔女として生きてもらう。その魔女っていうのが何かって言うとね…」


 院長の口が止まった。言いにくいことがあるのだろうというのは簡単に察しがついた。数秒の沈黙の後、諦めるように口を開いた。


 「魔女っていうのは自分の生命力を分け与えて患者を回復させるのが仕事なんだよね。つまり自分の寿命を犠牲にして誰かを救うんだよ。その影響で魔女になった人は寿命が短かくなるんだ。一人の人の人生を大きく狂わせるが医者である以上多くの人を救える力があるならその力を使う義務があるという信念のもとこの力が受け継がれてきたんだ。それでね、今の代の魔女である橘君の生命力的に魔女の継続が不可能だと私が判断したからそろそろ代替わりしないとねって話。魔女っていうくらいだから女性にしかできないんだよね。ここまで話したら賢い君ならもうわかるだろう」


 急にSFじみた話をされて、ショート寸前の脳がショートしたがギリギリ働かせた結果こういうことらしい。


 寿命を使って患者を救う能力があって今それを使える人がそろそろ使えなくなるから君に引き継いでくれないか ということだろう


この話を聞いてある一つの謎が解けた。

なぜ橘さんが年齢の割に老けているかということだ。

新人の頃は大人びたルックスしているとしか思ってなかったが今では美魔女の域を超えている。60代と間違われてもおかしくないだろう。


寿命が吸われてたんだ。だから老けるのが早かったんだろう。


ここで沈黙を貫いていた魔女こと橘さんが口を開いた。


「急にこんな話してごめんね。困惑してるでしょう。でも今行ったことは全部ほんとなの。私は魔女になったってから10年以上経ってるから様々な命を救ってきた。けどそのせいで体の衰弱が早まってしまったの。そのまま癌を発症しちゃってね。体が弱い分進行が速かったみたい。この力は受け継がないといけないから、院長と誰に頼むかをいっぱい話し合った。それでたどり着いた結論があなただったの。とっても勝手なこと言ってることは分かってる。あなたの人生をめちゃくちゃにするお願いなのもわかってる。それでもあなたにしか頼めないの。ねぇ、魔女になってくれない?」


 彼女はいつも通りの口調で、でも少し早口で、必死なことが伝わってくる。

でもどうすればいいのかなんてわからない。頼まれたからと言って内容も振り返らず二つ返事してしまうほど浅はかではない。振り返った上でやりたくないのは当たり前だ。

 私そんな早く死にたくないし。


そう考えていたら院長が口を開いた。


「この話した以上さすがにタダでは返せないんだよね」

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