第8話 Vtuberとしての覚悟
キーンコーンカーンコーン、と。
帰りのHRが終わって担任が離れると同時に、授業が終わるまで沈黙を守っていた真面目なクラスメイトたちがひと思いに喋りだす。
チャイムの音さえも彼らの声量に競り負け、耐えかねた俺は毎度のことのように耳を塞いで廊下に逃げた。
「この騒音にも、もう慣れたな」
高校2年生になって、4ヶ月とちょっと。
毎日聞いていれば嫌でも慣れるものである。
……まあ、死ぬほどうるさいのには変わりないがな。
調子に乗ってノーガードでアレを聞いてみろ、飛ぶぞ。
「お兄ちゃん!」
教室を出てから歩くこと数分、いつものように校門の前で立っていた待ち人に自然と顔が綻んだ。
麗しき我が妹──深雪である。
「学校お疲れさん。今日はなんか面白いことあったか?」
「なーんにも。ただ、これから起きると思うよ? ……《《面白いこと》》」
一歩、いや二歩と前に出て、俺に意味深な笑顔を向けてくる深雪。
これがもし俺じゃなく同級生の男子生徒とかに向けられていたら、そいつの心臓は今ごろドッキドキのバックバクなんだろうな。
家族愛とか抜きにしても、俺の妹は本当に可愛いのだから。
「妹よ、変な言い方はやめなさい」
「ふふっ、いやぁ〜本当に楽しみだよね。お兄ちゃんの配信企画」
「当事者でもないのに楽しみなのか?」
「当たり前じゃん。お兄ちゃんの楽しみは私の楽しみなんだから」
うーん、妹のブラコンっぷりが凄いが、一旦それは置いとこう。
明日は土曜日、そして俺のVtuber初配信1週間前──。
機材は家電量販店で揃えた。
俺が頼んだアバターのイラストも、ナオさんの手によって完成間近。
至らない俺が妹やナオさんの手を借りて、まだVtuberとして足りていないのは何か?
『──企画だ』
『うん、企画決めだね』
事細かな企画。
それは例え一流の配信者だとしても、事前に決めていなければ調子がグダる、配信に必要不可欠な存在だ。
……そして今から俺が踏み入れるのは、配信経験豊かなライバルの多いVtuber界。
これなしでは、無名の人間が趣味程度の配信をすることはできても、本気の舞台では全く生きていけないだろう。
「ようやく実感が湧いてきたよ。──まさか絵師だけでなく、Vtuberもやることになるとはな」
「……緊張してる? 安心して、私がお兄ちゃんを全力でサポートするから!」
いつになく張り切っている妹に「ありがとう」と感謝の気持ちを述べながら、俺は心の中で覚悟を決める。
俺が配信者として頑張れば頑張るほど、父さんの負担が減るかもしれないのだ。
「──待っててくれよ、父さん」
絶対に、俺たちが支えてみせるから。
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