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第10話 3つの企画

──ふぅ、と大きな一息がリビングに響く。


兄さんは学校に飛び出していった……とりあえず、俺と深雪の秘密がバレる心配はないと考えていいだろう。

だが、油断はできない。

この時間は深雪が作り出した一時的なものだから、他に誰もいないうちに話せることは話しておかないと。


「はぁ、さっきはホントに危なかったな。深雪がいなきゃどうなってたか」


「ふふっ、和哉お兄ちゃんの扱い方は熟知してるから!」

  

「扱い方、って……」


深雪にとって、兄さんは取扱説明書いらずの電化製品かなんかなのか? 

いやまあ、確かに扱いやすいのは事実なんだが……もし俺が兄さんの立場だったら、今ごろ長男としてのメンタルがズタボロだぞ。


「──まあ、いつかは和哉お兄ちゃんもVtuberへ引き入れるつもりなんだけどね」


「えっ?」


サラッと飛び出したその一言に思わず動揺しかけるが、なんとか抑え込む。

最近は色んなことが起きすぎて、もう俺も驚き慣れてしまったのかもしれないな。

……とはいえ、兄さんがVtuber、ねぇ。


「うーん、キツイな」


「お兄ちゃんもそう思う?」


「ああ。少なくとも、あんな性格のままじゃ絶対に無理だ」


そもそも兄さんはスポーツ一筋だから、深雪の誘いがあったところでVtuberになる可能性は薄いだろう。


「まぁ、その話は置いといて──和哉お兄ちゃんがいないうちに、早く決めちゃお?」


言いながら、深雪は颯爽とテーブルの引き出しから紙とボールペンを取り出してくる。


「……そうだな」


今日の俺たちは兄さんという1つの障壁を打ち破っただけで、まだやるべきことが残ってるんだ。

これなしではVtuberを語れない、配信者としての最重要事項──。


「ごほんっ……それでは今から、俺が夜な夜な考えてきた配信企画の内容を発表します」


「よっ、待ってましたっ!」


パチパチと大きめな拍手をしながら歓声をあげる深雪。

ふっふっふ……ここからは兄としての腕の見せどころだ。

寝る間も惜しんでネットを漁りまくった成果を、今ここで見せてやるぜ。


「その1! ジャンルを問わないゲーム配信!」


ホラーゲームや戦闘ゲーム、動物の育成ゲームまで、幅広いジャンルの実況配信──これは配信内容を偏らせず、より多くの視聴者層を獲得するためには欠かせない手法だと言えるだろう。


「うん、普通だね」


「普通……その2! 視聴者からのリクエストによる、本の朗読配信!」


この企画は多くの配信者がやっているわけではないが、そこが俺の狙いだ。

Vtuber、それも配信経験なしの個人勢となると、どこかでオリジナリティを出さなければこの業界では生きていけない……というのが、俺がこの数日間で得た知識である。


「ちょっと地味だね」


「地味っ!? えっ、えーっと……」


時間をかけて考えてきた2つの企画が妹に躊躇なく一蹴され、俺は焦った顔を彼女に見せまいと天井を仰ぐ。

マズい、非常にマズいぞ。

ボツにした案を掘り返しても意味はないし、このままじゃ兄としてジ・エンド──いや。


「……定期的に開催する、絵描き配信」


無意識に声が出た。

そうだ……俺には俺の強みがある。

男性VTuberのイラスト制作配信は、マイナーとまでは行かないが個性を出せる絶妙なライン。


見開かれる深雪の瞳──彼女は少しの間を置いてから小さく笑って、


「うん、それが一番お兄ちゃんらしくていいと思う。合格っ!」


「よっしゃあ!」


思わずガッツポーズを決める。

良かった、これで兄としての立場は守られた。


「ただ、それだけじゃネタが尽きちゃうだろうから、お兄ちゃんができそうな斬新な企画を私も考えとくね」


「おう!」


これで大まかな企画は決まった──ナオさんからもイラストが完成したと連絡が入ったし、機材も全て揃っている。


……あとは、1週間後の初配信に備えるだけだ。

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