2-5. 親切な言葉
私は、例えば前に出て相手に拳を浴びせたかった。しかし多少落ち着いてみると、そういう意思を画面の中に反映させるのに、私のいるところからとんでもない隔たりがあることを、あまりにも強く感じた。何も思い通りにはならず、なるわけもなく、ただめちゃくちゃだった。それでも一人目との試合に勝つと(最初は機械の方で接待をしてくれる)、後にも先にも経験がないような達成感があった。決して二度と現れなかったほどの。
しかし二人目では、三本勝負のうち、最初のを取って馬鹿なことにいくらか得意になり、次で負けて焦り、次もやっぱり負けた。この瞬間も、かなり悔しかった。悔しがれる資格みたいなものを、持っているはずもないのに。
もっとも、すぐにそんな下手くそな腕前を晒してしまっていることが恥ずかしくてたまらなくなり、私はすぐに席から立ち上がって、その場を去ろうとした。
――すいません、あの……まだやれますよ。
私が椅子から足を抜くのに散々手間取って歩き出そうとしたとき、私はその声を聞いた。恥ずかしさとか興奮の余韻とかで頭の中がめちゃくちゃになっていた私は、それがどういう意味なのか、あるいはそもそも何が起きたのか、全く分からなかった。
――五十円で、二回できますから。
向き直ると、私の後ろに、あの眼鏡をかけた男の人が立っていた。
いくつものことを考えた。どういうことだろう、この人は私がやっていたのをずっと見ていたのだろうか、だとすればそれも恥ずかしい、この場でこれ以上恥をかかずに済ませるにはどうすればいいんだろう、あるいは私がここにいることそのものがとがめられるならどう言い訳をすればいいんだろう、などなど。
結局私は、何も答えずに席に戻り、ボタンを押すと、確かに言われたとおり、もう一度始めることができた。途中、一度画面が暗くなると、そのいくらか丸く湾曲した画面に、天井のうっすらした照明と、背後にいるあの人の姿が映っているのが、はっきり見えた。
その二回目も、一回目と大差なく終わった。それでも、胸の中は、だいぶ落ち着いてはいた。恥ずかしさの熱は、まだだいぶ残っていたけれど。
頭の中で言葉を整理してから立ち上がり、背後に向き直った。その人はまだ同じように立っていた。私よりもずっと背が高く、顔つきも大人びて見え、まるで別世界に住んでいる人のように感じられた。大げさではあるけれど、あまり間違ってもいないと思う。
――あ、ありがとうございました。
――いや……誰かと来てるんですか?
――いえ、私、一人で来ました。
――あー、そうですか。ええと……
そのときの私にとって、大学生の彼は、何もかも私とは違っていて、何というか、大人に見えた。だから私は、言葉を詰まらせた彼が、私と同じように戸惑っていたのだとは夢にも思わず、ただこの場にいることを認められたような気分だけを感じていた。