2-4. 「START」
何もかもが私には目新しかったけれど、自分でも怖くなるほど胸が躍ったのは、そういう鮮やかな光景が次々に展開されたからなのだと思う。別にその人が私を意識してそうしたというわけではなかった。後から思えば、それは要するにそのゲームにおける日常的な光景で、その人はただ機械を相手に練習をしていたに過ぎなかったのだから。そういう「練習」という概念も、その頃の私は知らなかった。ゲームというのは楽しんだり立ち向かったりするためのもので、相手が機械だったとしても、そこで勝つという以上のことがあるのを知らなかったのと同じで。だからその人は平然としていたのだけれど、私には、その手さばきが、何かとてつもなく優れたもの、貴重なものであるようにしか思えなかった――この認識が間違っていたわけでもないけれど。
やがて最後の敵、体が半分ずつ赤と青に塗り分けられているという冗談のような外見の(ゲームのキャラクターなんてだいたいそうだけれど)変な男も危なげなく倒してしまうと、物語が語られ、ゲームが終わりになった。その人はもう一度続けて、今度は別のキャラクター、胴着姿の女の子で始めた。男の人がそういう選択をするということ自体、その頃の私の感覚ではいくらか意外だったけれど、もうあまり詳しく言う必要もないと思う。私はその人の手並みが披露されるのを、もう一度、終始興奮しっぱなしで眺めたのだった。
そしてその人は席を立って、どこかに行った。私はまだ胸の高鳴りが収まらないまま、その感触や記憶をなぞったり確かめたりしながら、別の台に向き合っている人の背後に移動した。そこでもどれほど興奮したか分からないけれど、さっきまでとは全く違う、奥行きのある立体的な世界で繰り広げられる戦いはさらに全く新鮮な驚きに満ちていたというくらいで済ませておく。倒れた相手を殴ったりしている様子には、ひどいショックを受けたということを付け加えておこうか。
そんな風にしばらく続けているうちに、私が最初に見ていた台とその周りが全て空いた。ひどい後ろめたさを感じながら、私はその席に座り、必要なのが百円玉でなくて五十円玉だということにも驚かされ、慌てて席を立って両替機に向かって百円玉を切り分け、また席に戻った。自分の間抜けさは分かっていたし、まだ始めてもいないのに恥ずかしくて仕方がなかったけれど、だからといってやめようという気は全く起きなかった。そして恐る恐る、本当にこうすればいいのだろうかと、その頃の私にはそれなりに貴重だったと言っていい硬貨を、ボタンとレバーのあるパネルの端に開いた口に放り込んだ。
画面が切り替わったけれど、キャラクターを選ぶ画面に移らないというところでまずつまずいた。手当たり次第にボタンを押してみても効果がなく、試合の中で使う六個並んだボタンとは離れたところにある小さな一つに「START」と書いてあるのを見つけ、ようやく始めることができた。
次に、どのキャラクターにしようかと胸を落ち着かせながら考えようとしたら、残り時間を示すタイマーがものすごい速さ(そう見えた)で進んでいて、さらに焦ってしまった。最初はあの黒い胴着の男にしようかと思ったけれど、女の子を選ぶ方が「らしい」ような気がして、やめた。そしてあの、私の目の前で活躍を演じた女の子がなかなか見つからず、制限時間ぎりぎりで、ようやく決めることができた。その後続けて何かを選ばされたけれど、意味が分からなかったし、適当にボタンを押してしまったから、何が何だか分からなかった。
そんな有様なのだから、実際始めてどうなったかは明白というものだろう。私は天才ではなく、知識もなければ情報を得る方法もなく、何の説明もないまま放り出された世界で、私はただ途方に暮れ、ただとにかくレバーをどう持てばいいのかも分からないまま、握りしめるようにしてガチャガチャ動かし、ボタンを叩いた。それはさっきまで自分が眺めていたものとはあまりにもかけ離れていた。だから、失望というか、そういう感覚があってもおかしくないと思うのだけれど、私はひたすら興奮して、どうやら楽しんでいたらしい。何も分からないまま、画面の中の女の子は私の意に反して、というか、何の「意」もないのだからその通りに、跳んだり跳ねたりを繰り返し、ときどき拳や蹴りを突き出したり振り上げたりした。大技に必要なメーターはたまったけれど、どうすればそれを使って、あの跳び蹴りを繰り出せるのか、もちろん分からない。