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異世界でワンオペ育児  作者: 霧島とろ
一章『認知しません、絶対に』
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02


宿屋エリアス。看板に描かれた花が特徴のオルツの定宿だ。

建物自体は年季が入っているが掃除が隅々まで行き届いており不快感はない。敷いてある布もふかふかだ。部屋内には簡素だが調理場もある。


ギルドの受付所で依頼達成の報告を終え報酬を受け取った後、鍵をもらい部屋に着いたオルツは早速ベッドへ寝転んだ。寝転んだ反動でシーツからは花の匂いがふわっと香った。


思ったより疲労していたようだ。宿へ着いたらすぐ料理に取り掛かろうと思っていたようだが一度寝転ぶと腰が重く、その足で何かをする気力は起きなかった。


寝転んだまま、ポーチから割らないように布で巻いていた卵を取り出し、まじまじとみつめる。卵は三寸ほどの大きさでやや橙がかっており、底面には黒い縞模様が斜めに2本入っている。


オルツはその見てくれに帰途の時点から違和感を感じ始めていた。


「カケトルの卵ってこんな縞あったっけな……」


カケトルの卵を納品する依頼は以前も受けたことがあった。

初めてということで事前に特徴を書いたメモをもらっていたが、大きさは一寸くらいでつるっとした見た目をしており柄もなく無地の茶色だ。今回も他の卵はそれに該当していたが、この卵だけは明らかにそれとは特徴が異なっていた。


他のモンスターが巣に托卵でもしたのだろうか?

だとしたらなんの卵なんだろうか?

食べられるのだろうか?


考えを巡らしたが、なにせこの世界は未知だらけだ。自分がいた現実世界とは何もかもが違う。明確な価値基準だというものがないから、何が正しくて何が正しくないのかが分からない。


加えて彼にはそれを補う経験というものが足りなかった。まだ異世界へ来て1年ほども日が経っていなかったのだ。


その状態で1つの事象を気に留めだしたら、止まらなくなってしまう、途方もないほどに。分かっているのだが、好奇心はなかなか抑えられなかった。


一頻り脳内であれこれと仮説を並べたり、それを想像で検証したりしたが、最終的に「卵は売る、あとは考えない」という結論に至った。


興味を持つことは良いが、深入りするのは自分の目指すべきスローライフへの姿勢として相応しくない。


物事はシンプルに考えるのが、異世界で生きていく上で最善なのだ。分からないなら、然るべきところへ委ねれば良い。


そう自分を納得させると、途端に睡魔が襲ってきた。


一日中カケトルの巣を探して歩き回ったせいか、途中で魔物から逃げ回って体力を使ったせいか、1ランク上げてもらった部屋の心地よさのせいか、あるいはその全てだろう。


「妙にあったかいなこの卵…」


そうつぶやくとあくびをする暇もなく、オルツは卵を小脇に抱えたまま眠りに落ちた。

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