01
「今日も無事、依頼達成だ」
ご機嫌な声色で男が独言る。足取りは至極軽い。
彼は鼻歌を歌いながら、草木の生い茂るでこぼこ道を進んでいく。途中躓きそうになり、おっとっととよろけるが視線の先は自らの足元ではなく、背中に背負った大きな荷物だった。
これが壊れてしまっては今日の気分が一気に台無しだ。
この男──オルツ・クワイェルは荷物に損壊がないことをを確認すると安堵の息を漏らした。
オルツはおもむろに手のひらを天に向け、「オープン」と唱えた。すると四角くふたどられた枠に透けた文字がぼわっと浮かび上がる。それは彼が生前いた現実世界でのゲームウィンドウと呼ばれるようなものだった。最もその芸当はこの世界では魔法と呼ばれているようだが。
ーーーーーーーーーー
依頼内容:
カケトルの卵の回収×6
依頼ランク:
C
報酬:
銅貨5枚
依頼達成状況:
達成
ーーーーーーーーーー
達成の文字を確認すると改めて喜びを噛み締めガッツポーズを取った。
ギルドに依頼達成を報告し、銅貨5枚を貰う。
銅貨2枚あればしばらく1ランク上の宿屋に宿泊できるし
カジノなんかは行けないが、すこし余裕ある生活ができるだろう。晩飯くらいは奮発できる。ボロくなった釣具を新調したっていい。
金銭の使い道に思いを馳せ思わず笑みが溢れた。
側から見れば、冒険に出て悪名高き魔物を倒したわけでも、伝説の宝剣を手に入れたわけでもない。ただCランクの依頼をこなしたというだけの何の変哲もない若者の生活が写っていることだろう。
しかし、冒険に出て心躍る経験をすることが多くの者の生きがいであるように、平凡な日々の積み重ねもまた彼の生きがいだった。
そして彼が上機嫌の理由がもう一つ。
依頼内容であるカケトルの卵が1つ余分に手に入ったのだ。
余剰で手に入った素材は基本的に自由に使える。売却したり鍛冶屋で装備に加工したりその用途は様々だ。
カケトル卵の使い道は依頼外で売っても二束三文だし
精々食材に使うくらいか……?
一本道を抜ければ拠点の村につく。
晩飯は卵を使った料理を考えておこう。
そんなことを思いながらオルツは足早にかけて行った。