欲望の谷 1955年アメリカ
南北戦争後を舞台にした西部劇。
終戦後、元北軍軍人の主人公パリッシュは西部で牧場経営をしながらの療養生活を送っていた。怪我も治り、牧場を手放して東部へ戻ることに。アンカー牧場のウィルキンソンが買い手に名乗りを上げるが、悪徳牧場主として評判が悪い。最初は農民とアンカー牧場の争いに関わる気のなかったパリッシュだが、牧童のバドが殺されたことで、アンカー牧場に立ち向かっていく。
一見オーソドックスな西部劇のようだが、脚本はよく練られているように思う。主人公パニッシュは決して善人というわけではないし、悪役ウィルキンソンもただの悪人ではない。ウィルキンソンが家族に向ける愛情やアンカー牧場にかける想いは人間臭く、ウィルキンソンを魅力的に見せる。その分悪役をこなすのがウィルキンソンの妻のマーサと弟のコール。割と欲望に忠実だが、端々に人生が垣間見えて、キャラクターに深みを与えている。
主人公パリッシュは、一見争いを好まないように見える。しかし、胸の奥に戦争の熾火が燻っていたのではないだろうか。一度敵と定めると、その戦い方は苛烈だ。婚約者とも別れてアンカー牧場との闘争に没頭していく。冷静に戦力差を分析し、地形を活かして冷酷に敵を罠にかける様は、さすが元軍人だと思わせてくれる。牛を暴走させるシーンは圧巻。実際に牛を走らせて撮影したのだろう、かなりの迫力だ。
当時の西部の無法ぶりがよく分かる映画。放火された報復に放火し返す主人公、手段を選ばず土地を得ようとする悪役、保身と利益の為に悪におもねる副保安官。ペリー提督って理性的だったんだなぁ。雇い主に契約解除を言い渡されるとさっさと解散する殺し屋集団も面白い。単なる仕事としてやっていることが分かる。主人公の元婚約者が東部に行きたがった気持ちがよく分かる。そりゃ、こんなとこに住みたくないよな。