アヤ・ヒロサキと束の間の幸せな時間
冒険者になった翌日の朝、部屋から不思議な気配を感じた。
「この気配は勇者だな。・・・ん?。・・・ヒロサキさん・・・覗きは良くないですよ?」
この気配は、アヤ・ヒロサキのものだ。前世では、覗きは・・・よくやっていた・・・しかも俺ばっかり。という事は、今までの知識から俺の事が気になるのだろう。・・・乙女心はこんなことをさせるのか?
「お、おはよ・・・シロギリ君。だって、覗きをしないと・・・分からない事だってあるじゃん・・・バカ。」
弘前亜弥。
その人は俺の友達で、弘前さんの双子の弟である、弘前皇雅の影響を受けて、俺と軽く話す位の間柄になっていた。だが、召喚されるまでの1ヶ月はまともに話をしていない。・・・覗きを毎日のように繰り返す様になったのは、今でもよく分からない。だが、これだけは分かる。
「ヒロサキさん。貴女は俺に会いたいから会いに来たのか?それとも、ただ覗きをしたくてしたのか?」
「・・・シロギリ君に会いたいから来たのっ。」
まじかよ。・・・ん?
「『折り紙・空中作成』」
「え?・・・あ・・・」
びっくりしただろう。だって、俺がヒロサキさんの肩を抱き寄せたのだから。それに気付いたヒロサキさんは、顔を真っ赤にしつつ寄りかかってくる。甘えてくるヒロサキさんが可愛かった。
さて、時間を無駄にしてくれたことだし少し仕返しするか。
「ナイフ三十本。『発射』っ。」
「・・・え?なに・・・これ。」
とりあえず、ヒロサキさんの驚きの声を無視して続ける。そして五分で仕返しの時間が終わる。俺は頭を掻きながら、呟く。
「人間だから、すっげー手加減したんだけど・・・」
「え?・・・今ので手加減してるの!?」
「ああ、手加減したよ。」
そう言って、お寝坊さんなカンナとハナを起こす。寝るときにあの二人がしょっちゅう俺に甘えてくるため、いつも密着して三人一緒に寝ている。カンナが俺の右腕に、ハナが俺の左腕に抱き付いて幸せそうに寝ている。そんな二人を起こすのは、流石に少し気が引けた。
「まったく・・・。二人共、起きろ。」
「タツト。大好き・・・」「タツト・・・。これからも、ずっと一緒だよ・・・」
「あのな・・・まぁいいや。俺もずっと一緒に居るよ。・・・さて、今日は休むか。アヤ、適当に食べ物を・・・お前もかよ。」
俺が振り返ると、アヤが俺の背中で首に腕を回して寝ていた。身体を俺に甘える様に押し付けて、寄りかかってくる。
「私はシロギリ君が好き。」
「はぁ・・・何でこうなる?別に嫌いでは無いが、三人は流石に・・・」
その時、大地が揺れた。そして異様な魔力を感じた瞬間、俺は叫んだ。
「カンナ、ハナ、アヤ、起きろ!」
「なに?・・・え?ま、魔族?」「それも高位の・・・魔王の魔力。」「え?私、死ぬの?」
「そうだ。魔王が来た。そして俺たちが標的だな。」
「くそっ!」と呟きつつ、俺たちは迎撃準備を整えて戦場へと向かうことになった。
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