表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

手のひらの上の銀色

作者: よしはらゆうみ

 15年もすると町の景色は変わる。

 前に住んでた家の周りはは新しくなっておしゃれな横文字の名前になっているし、俺が通ってた小学校は耐震工事でガッチリとした鉄骨が取り付けられていてまるで要塞のような作りになっている。

 俺は15年何一つ変わらないインターホンを押す。

 「おばんです、お久しぶりです」

 ただの挨拶なのに少しイントネーションに訛りが出てしまう。

 「あら、陽太さん。いらっしゃい、どうしたの久しぶりねぇ」

 叔母さんがドアを開けてくれる、15年ぶりに見た顔には少し疲れが見える。

 「久々に長い休みを貰えたしたまには顔を出さないとかなってさ」

 「あら、そうなのね。まぁ上がってちょうだい、おばあちゃんか顔を見たいってずっと言ってたから顔だしてあげてね」

 「はいよ、おじゃまします」

 玄関に入ると傘立てに刺さっているバッドやらバドミントンのラケット、使い古された靴べらに古臭いデザインの小物たち。

ここだけは時が止まっているように感じたのだった。


 一月ほど前になる。

 夜遅くクタクタになった俺の郵便受けにとある一つの手紙が来ていた。

 内容はばあちゃんの具合が芳しくないこと、最近ボケてきたこと。

 そして、俺の名前は忘れずに顔を出してほしいと呟いていることだった。

 俺は15年ぶりに会社に盆休みと称して有給を取り、ガキの頃に住んでいた町に帰ることにしたのである。


 「コーヒーでいい?緑茶がいい?」

 俺が茶の間に座ると叔母さんが気を利かして聞いてくれる。

 「コーヒーでいいよ、ブラックで」

 といい、俺はタバコを咥える。

 「ごめんね、この家もう吸う人いないから禁煙なのよ、灰皿も捨てたし」

 「えっ叔父さんは吸ってるでしょ」

 そう言って俺はタバコを箱にしまう

 「実はパパは5年前にやめたのよ、やっぱりおじいちゃんの真っ白のレントゲンを見たときになかなか心にくるものがあったんじゃないかしら」

 「それにたーちゃんの健康にも悪いし。孫には勝てないのよ」

 「なるほどねぇ」

 俺はそう言いコーヒーに口を近づける

 会話が止まると振り子時計がこちこちと音を鳴らす、その音を聞くと俺は少し埃がかぶっている古い時計をぼんやり見てしまうのだった

 「そういやばあちゃんは」

 半分ほどコーヒを飲んだあとに口を開く

 「部屋に居るわよ、今日は随分体調がよくてねずっとTV見てるわ」

 俺はそっかと立ち上がり部屋に向かった。


 ばあちゃんの部屋はきれいに整頓されていていた。

 壁には曜日ごとに飲む薬が入っているカレンダーがかけられ、ベッドは和室には似合わないリクライニングのベッドになっていた。

 「どなたさんですか」

 ばあちゃんはTVから目を離さずに口を開いた。

 「陽太です、お久しぶりです」

 俺の声を聞くとばあちゃんは顔をこちらに向き、少し目を細めた。

 「あら、陽太なの。大きくなったねぇ、大学生になったのよね」

 そう言うとばあちゃんは少しベッドを上げて背中を丸ませて俺の顔をじっと見る。

 「もう卒業して社会人だよばあちゃん」

 「あら、そうなの時が経つのは早いわねぇ。じゃあほんとにお久しぶりだねぇいつ以来だったかい、お父さんのお葬式以来かねぇ」

 俺もばあちゃんの顔をじっと見る。

 ふくよかだった顔がしぼんで白髪も相当増えている。

 「うん、そうだよ。どうだい元気かい」

 「歳取るとねぇ元気なんて日が少ないのさ、今日は元気だよ。仕事は何をしてるんだい」

 「仕事はね――」

 その後俺はばあちゃんの質問にゆっくり答え続けていった、ご飯は食べているのか彼女は居るのか、親とは上手くやってるのか。毎日楽しいのかいろんな事を聞いてくるばあちゃんにちょいと辟易しながらも5年ぶりの会話を楽しんだ。

 話して居ると少しつづばあちゃんは息があがっているように見えた。

 「いやぁだめだねぇ歳取ると話すだけでも疲れちゃうよ」

  ふぅとため息をつき深呼吸をする

 「そうかい、大丈夫かい」

 「うん、大丈夫」

 そのあと数回大きくを息を吸うとばあちゃんはベッドの上にある小袋から何かを取り出した 

 「陽太、これ」

 ばあちゃんが手に握っていたものをもらうとそこには100円が入ってた。

 「陽太覚えてるかい、小さいときにそこの駄菓子屋に通ると100円欲しくてぎんいろぎんいろって騒いでねぇ……あなのあいてないやつってうるさくてうるさくてねぇ」

 「少しだけどお小遣い、足りないだろうけど私にはこれが精一杯」

 「うん、ありがとうばあちゃんありがとう」

 「よかったぁそれじゃあね、ばいばい」

 そう言うとばあちゃんは少しベッドを倒しTVを消し目を閉じた。


 「陽太にこれはあげないとあげないととこれだけは離さないでねぇ。誤飲の可能性もあるから怖かったんだけど、でもちゃんと小袋に入れてねぇ」

 俺は戻り残りのコーヒーを飲んでいると叔母さんがボソリと口を零した

 「まだやってるからさ、行ってみなよ。ついでにたーちゃんを迎えに行ってほしいなぁ」

 そうして俺は15年ぶりの道を通るのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ