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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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8話 ガクの病

「ええ、ある特定の人を見ると胸が締め付けられるような感覚が起こったりふとした瞬間にその人のことを考えてしまう」


ガクは自分の症状と重なり真剣な眼差しをサンドラに向ける。だが、周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。


「ハハッ、確かに重ーい病だなぁ」


「ガックンもそういう年頃かぁ」


ローガンとレナがニヤニヤしながらガクを見る。二人の行動の意味がガクには一切わからない。サレーネのほうを見るとサレーネも理解できない様子で二人の表情を伺っていた。


「さっきからなにニヤニヤしてんだよ!さっさと言えよ!」


「あなたの冒されている病はズバリ恋の病ってやつね」


指をピンッと立てて名探偵のように断言した。


「はぁ!?っんなわけねぇだろ!」


一瞬で全身が熱くなり、怒りと恥じらいが混ざったような複雑な感情がガクを襲う。そんなガクを見て腹を抱えて笑い転げるローガンとレナ。言い返そうとしても言葉が出てこず、益々身の置き処のない羞恥に駆られる。


「勝手に言ってろ!」


ガクは自分の力では収まりきらないと察しその場を立ち去ることを選択。が、ふと右奥に座っていたサレーネに視線を向けると真っ白い顔を茹で蛸のように赤くして固まるサレーネの姿に気づく。


「なんでサレーネ様も照れてるんですかー!?面白ーい!」


「べっ別に照れてないから!私もう部屋戻らないと」


ガクをイジる勢いでサレーネのこともイジり始めるレナ。ひどく取り乱すサレーネはその場を立ち去ろうとする。


顔を真っ赤にした二人が早歩きで食堂を出て行く様子がまたしても二人の坪に入ったようで再び笑い転げ、その横でサンドラもクスクスと笑う。シャーロットだけが普段通りの真顔だ。


これほどまでに笑い者にされたことのないガクは、その場から一秒でも早く逃げることしか考えられず、そのまま去った。



部屋に戻ってようやく冷静さを取り戻しベッドに仰向けになる。そこであることを思い出した。


「今日もまたあの夢だったな」


現実味の有りすぎる悪夢を2日連続で見るなんてやはり普通ではない。

もしこれが正夢になったら。そんな事を考えると寒心に堪えない。だが、他の連中に話すとこの前のような重苦しい空気になるのは目に見えている。


──俺はどうしたらいいんだ……?


「もう男らしく告白しちゃいなさいよ」


「その話じゃねぇよ!って、お前いつからいたんだよ!」


いつの間にか真横に立っていたサンドラがガクの心中へ勝手に返答する。


「もう一度あの夢を見たことを呟いていた辺りかしらね」


「最初からじゃねぇか!それよりお前はどう思う」


最初から聞いていたサンドラに昨日と変わらない切れのいい突っ込みをかます。サンドラの前では隠し事はできない。それなら話すことも話さないことも同じだ。


「あたしは彼が攻撃してくる可能性は限りなく低いと思うわね」


少し考えてからそう言うと右手に持っていた洗濯されて綺麗に畳まれたガクの制服をベッドに置いた。それを見て今まさに自分がサンドラとペアルック状態であることを思いだし、慌てて上着を脱ぐ。


「レディの前で服を脱ぐなんて何考えてるのよ」


「お前に見られてもなんも感じねーわ!」


きゃーっ、と目を覆い照れるような素振りをするサンドラを一蹴し、サッと膝の破けた学ランに少しよれたワイシャツに着替える。なんだかんだこの服装が一番落ち着くのだ。


「で、なんで攻めてこないって思うんだよ」


「これはあたしの見解に過ぎないけど……、一度も勝ったことのない相手が居る城に少数で乗り込むなんてことするのかしら。もしそうだとしたらあまりにも頭が悪過ぎるわよ」


サンドラの言うとおりだ。そして、昨夜の夢が再び頭の中で再生される。


「確かに昨日の夢でもザックがいない間にって言ってたんだ。ってことは、ザックが外出した隙を狙って村を襲撃しようとしてるのか」


「彼に外出の予定はないわ」


ホッと一息つく。少なくともザックが居るうちは何も起こらないだろう。一番はあの夢が本当にただの夢であることだが。


「もう用は済んだから出ていけよ、俺の部屋だろ」


「随分酷い扱いだこと、そんな態度じゃあサレーネ様に嫌われるわよ」


「いいよその話は!早く出てけって!」


部屋から追い出そうとするガクにサンドラも再びサレーネの話題を引っ張り出して反撃。大きな弱味を握られたようで胸糞が悪い。サンドラを部屋から追い出そうとの背中を開いているドアまで押し続ける。


「うわっ!ビックリした!なんでサンドラがガックンの部屋に?」


サンドラを押しながら前が見えない状態で進んでいたため、危うく廊下を歩いていたレナと正面衝突しそうになる。


「彼の相談に乗っていただけよ。あなたは?」


「早速稽古を始めようと思ってガックンを呼びに来ました!」


──そういえばそんな話もしてたっけ


ガクは、からかわれたことで頭がいっぱいになり稽古の話をすっかり忘れていた。


「どうやら彼は忘れていたみたいよ」


「おいっ!勝手に人の心読むな!」



心中をそっくりそのままレナに伝えられて焦るガク。サンドラは口を押さえて口が滑ったとでも言いたそうな演技をする。


「ひどーい!せっかくローガン達と稽古つけてあげようと思ってたのに!」


「悪い、今行くから」


急いでベッドから飛び降り、レナの下へ駆け寄る。


「レナさん、稽古よろしくお願いします」


深く頭を下げて高校球児のような挨拶。久々に部活をするような気分になり少々胸が高鳴る。


「よろしい。師匠としてまずは魔法の特訓を付けてやろう!」


レナは小さな体で見下ろすかのように胸を張ると、フフンと得意気に鼻をならした。













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