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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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61話 初日

早朝。早速計画が始まろうとしていた。


一度大部屋に集められ、全体の流れを確認するようだ。


「そもそもお前らは戦闘能力が低すぎる。その程度じゃあそこらの雑魚兵と変わんねぇぞ。お前らは戦略より訓練だ」


ガイルはそう言うと、ガクとダイヤに木刀を手渡す。久しぶりの稽古にやや胸の高鳴りを感じるガクに対し、ダイヤは見るからに不満そうな顔。


「どうした?初めてだからビビってんのか?情けねぇな」


「戦いなんてしたことないし……」


「心配すんなよ!ローガンはそんなに厳しくねぇからさ」


ガイルは気だるそうに顔を曇らすダイヤの背中をドンと押し、

悪戯に笑うと他の連中の方へ戻っていった。

木刀を眺めハァとため息を溢すダイヤ。


「ガク、お前は回復するから良いけどさ、俺は治らないんだけど……本当に大丈夫なの?」


「さすがに加減はするだろう。動けなくなるまでボコボコにしても意味ねぇからな」


ふーん、と適当な相槌を打ち、木刀の強度を確認するようにコンコンと握り拳で叩く。


「お、今日から新入りが居るんだったなぁ!」


二人と同じ木刀を持ったローガン。体のせいか、木刀が短く見える。以前と同じように羽織を脱ぎ捨てる。


「二人とも揃ってるし、始めるか!」


ニッと悪役のような笑みを浮かべ、ローガンは木刀を構えた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「いってぇ!死ぬってマジで!」


腹を抑えのたうち回るダイヤ。ローガンは「大袈裟だ」と笑うが、人間であるガクには分かる。硬い木刀が直撃すればこのくらいのダメージを受けるのは至極当然のことだ。


「本番は真剣だ。保身くらい出来ねぇと死ぬぞ」


うう、と唸り声をあげうずくまるダイヤ。その姿を目にし、ガクはある考えにたどり着いた。


「実際俺達はそんなに強い奴と戦わないんだよな?なんでそんなに鍛える必要があるんだよ」


「作戦を少し覗いてみたんだがお前たち二人を一人の将軍に当てるみたいだ。最低でも二人で俺と張り合えるくらいにはなってもらう」


「マジで!?絶対無理でしょ!」


ダイヤは声を上げて立ち上がった後、腹を抑え「いてて」と顔をしかめる。


「じゃあもっと特訓しねぇとな!」


ブンッと木刀を振り今度はガクへ仕掛けた。ガクも咄嗟に木刀で受けるが衝撃を抑えきれず後方に転がる。


「まだまだだな、二人とも。同時に相手してやるから掛かってこい!」


ローガンの目付きが変わる。二人も彼に引っ張られるようにローガンを睨み、構えた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「どうだった?久しぶりの稽古」


中庭のベンチに座っていたガクの後ろからコーヒーの薫りと共に軽やかな声が聞こえた。サレーネだった。月明かりに照らされた金髪がフッとガクの視界に入る。


「まあまあかな。襲撃があったから正直もう少しまともにやりあえるんじゃねーかって思ってたけどそんなこともなかったし」


「そっかぁ……」


はい、と持ってきたコーヒーをガクに渡し、隣に腰を下ろす。


「あのお友達の子も稽古してたんだね」


「ああ、既にへばってたけどな。俺が終わった後レナに風魔法も教わってた。……なんか気に入らねぇけど」


まだ白い湯気のたつコーヒーをグッと喉に流し、前の噴水に目を落とす。


「なんで気に入らないの?」


「そりゃまぁ……嫉妬くらいするだろ」


「……嫉妬……」


サレーネは俯き、微妙な表情。何か機嫌を損ねることでも言ったのかと思い、今話した内容を脳内再生するも、目立った失言は見つからない。


「お前はどうなの?」


「何が?」


「だって行方不明だった父親の生存がほぼ確定したわけじゃん?もっと喜んだりしないのかなって……」


反応がない。不思議に思いチラと横目でサレーネを見る。彼女は一点を見つめ固まっていた。


「どした?」


「ご、ごめん。私まだあんまり実感が湧かなくて。それよりも今回でまた誰か居なくなっちゃうんじゃないかって思うとそっちの方が怖くて……」


「……そうか」


軽く口走った一言が思いもよらぬ方向へ進んでしまい戸惑うガク。空気を変える新たな話題を模索する。


「サレーネは普段何してんの?」


「え、ああ……本読んだり、散歩したり、魚釣りしたり……くらいかな」


最後だけ女王様らしくないという事はさておき、ガクは取り敢えず重い空気から脱することが出来たことに一安心。


「釣りなら俺もよくやってたな……俺は渓流ばっかしだったけど」


「ケイリュウ?よく分からないけど、私は前のお城の敷地内に流れてた川でよくしてたなぁ。結構色々釣れるんだよ!大きいのも小さいのも!食べれる魚は調理してもらったりして」


「へ、へぇー、そうなのか」


余程釣りが好きだったのか、想像以上に釣りの話で元気になった。これはチャンスだとガクも乗っかる。


「一段落着いたら一緒に行くか、釣り」


「え!いいの!約束ね」


満面の笑みをガクヘ向ける。ガクも思わず顔が緩むが強引に真顔に引き戻し平然を装うと、


「全部上手くいったらだからな」


「分かってる、大丈夫だよ。ガク君と話してたら私もそう思えてきた」


「そうだな。後1ヶ月頑張ってヨルム軍に完全勝利してやるよ!」


嘘偽りのない笑顔。ガクはかつてこんな綺麗な笑顔を見たことはなかった。心中に潜んでいた不安を一気に吹き飛ばされたような解放感だけがガクの心に満ちていた。


「随分楽しそうじゃあねぇか」


二人の空気に水を指すような男の声。それは噴水の上からだった。容姿は暗さでよく見えず、不気味な笑い声だけがこだまする。


「少し聞きたいことがあるんだ、なぁサレーネ」


快晴だった筈の空に一筋の稲妻が走った。


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