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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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5話 夢

炎あげて崩れ落ちる住宅街。足元に転がる大量の屍。そこかしこから聞こえる喉が裂けるほどの叫び声。体はひどく熱い。

業火の中から全身を白いコートで覆った長身の男が此方へ近づいてくる。


「ヨルム帝国軍、副軍隊長マルクス・リヒター。今後はこちらに付く。以後お見知りおきを」


男はそれだけ言うと再び業火の中へ消えていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「うっ……!」


突然視界を埋め尽くす協力な閃光。ガクは咄嗟に手で目を覆う。


「起きてくださーい!夕食の時間ですよー!昼も食べてないんだから夜くらいはちゃんと食べないとダメですよ」


甲高い声と共に光が消え、部屋が一面明るくなる。そっと目を開けると指の隙間から覗くピンク。レナだ。

どうやら今のは夢だったようだ。


「悪夢でも見たんですか?随分魘されてましたけど。もうみんな待ってますよ」


目の前でレナが心配そうな顔で見ている。


「ヨルム帝国って知ってるか?」


おもむろに夢に出てきた国名を尋ねる。あそこまではっきり国名を言われるとなんだか現実のようで気味が悪かった。


「そんなの知らない人の方が珍しいですよ。あの国の国王はとても危険な人で有名ですから。それがどうかしました?」


「あっ……、いや、何でもない。ちょっと夢に出てきて。……すぐ行くから先行っててくれ」


レナは、『はーい』と軽い返事をして部屋を出ていった。夢に出てきた国名が存在するという事実に困惑するガク。しかもそれはただの国ではない。


──偶然だよな?あんなこと実際起こるわけないか。


自分を落ち着かせるため強引に納得させる。嫌な汗が額を伝うのを感じる。


──夢だ、ただの夢だ。


「早くしてください!」


耳を貫くような甲高い声がガクの思考を切り裂いた。思わずビクッとして顔を上げると赤い頬を膨らませたレナが仁王立ちで此方を睨んでいた。


「さっきすぐ行くって言ったのに来ないから」

「悪い悪い。今行こうとしてたんだ」


文句を言おうとするレナの声を大声で被せるようにして遮る。


「早く行きますよ」


小さな歩幅でそそくさと先を歩くレナ。

その幼い背中を見ていると、なんだかおかしく思えて少し気が軽くなった。


「さっきから何笑ってるんですか!気持ち悪いです」


「笑ってねーよ!気持ち悪いってひでーな!」


見た目とは似つかない辛辣なコメントに突っ込む。


食堂につくと、朝と同じ顔ぶれが既に食卓を囲んでいた。


「悪い。また遅くなって」


「誰もお前なんか待っていない」


ザックはガクの謝罪の言葉を打ち消すように抗弁し反逆者でも見るように睨みを利かせながる。


「勘違いするな、俺はお前を受け入れたわけではない。俺が怪しいと判断したら即座にお前を殺す」


そういうと静かに手を合わせ、目の前に並べられた銀食器を手に取った。

いきなり殺すと言われ少しビビっているガクはひきつった顔のまま静かに自分の席へ歩を進める。


「ったく、食事くらい楽しくとりましょうよザックさん。俺はあんなやつに危険性は感じないっすけどね」


猪頭のローガンが呆れたようにぼやく。


冷めきった食卓。これはガクの遅刻によるものなのかいつも通りなのかはガクにはわからなかった。


「ザック様、偵察隊からの連絡が入りました」


突然、シンとした食堂に甲冑を着た兵士と思われる一人の男が慌ただしく入ってきた。ザックも食器を置き、ナプキンで口を上品に拭くと『話せ』と指示を出す。


「マルクス様が此方へ向かっているようです、目的は分かっておりませんが極めて少数だと」


「マルクス……?」


報告をする男の発言によって再び悪夢がよみがえった。


「どうしたの?マルクスのこと、なんか知ってるの?」


奥に座っていたサレーネが不思議そうにガクに尋ねる。こんな状況で夢の話など出来るはずないが今にも斬りかかってきそうな目でこちらをにらむザックの前で誤魔化すことなどできそうにない。


「いや、さっき見た夢に同じ名前のやつが出てきたなーって思っただけだ」


ザックはチッと舌打ちしてから、


「放っておけ。今さら攻めてきたりはしないだろう」


と、兵士に告げる。兵士は一礼するとそそくさと部屋から出て行った。


「夢ってさっき言ってたヨルム帝国の夢ですか?」


「え……?ああ、そうだ」


レナが何かを噛みながら先程の話を思い出したように言う。突然夢の話へ戻されて不明瞭な返事を返すガク。


「どうせならしてくださいよ、その話!話題もないみたいなので」


「私も聞きたい。どんな夢だったの?」


レナだけでなくサレーネまでもが言い出した。

しかし、この食卓で話すにはあまりに相応しくない内容であることに加えザックが聞いてるとなれば流石に話しづらく口ごもる。


「貴様のくだらん夢の話など興味ない」


ザックはそう小声で言うと、足を組みながら静かに紅茶を啜った。


───これは話しても良いと言うことなのだろうか。


遠回しの言い方だがおそらくそういう意味合いだろうと受け取り、ガクは話し始めた。












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