53話 酷道
「おい、どこまで行くんだよ。こんな森の中に本当に居るのか?」
先陣を切ってどんどん森の奥深くへと進むレナ。ガクとダイヤはそんなレナの後ろを子分のように着いていく。
城を出てからかれこれ2時間は歩きっぱなしの二人は既に限界を迎えていた。
「レナちゃん、俺も流石に疲れたよ少し休まない?」
「まだ先ですよ、急がないと帰りが遅くなっちゃいます」
ダイヤの要求など一切無視し険しい道を進み続けるレナ。明らかに人が通った気配などなく、どう見ても移動用の道ではない。
「そういえばさ、馬車あったじゃん。なんであれ借りてこなかったの?あれの方が絶対速いし疲れないよねぇ?」
ダイヤは巨大な木の根にへばりつきながら思い出したように呟いた。しかし、
「昨晩長い経路を走らせたのに可哀想じゃないですか、いくら馬といっても限界はあるんですよ」
「馬に劣る俺達はもっと限界だよ。ちょっとは……」
「ああもう!そんなに嫌ならそこに一人で休んでれば良いじゃないですか!そもそもレナはあなたに来てほしいなんて言ってないんですけど!」
うだうだと弱音を吐き続けるダイヤにとうとうレナが痺れを切らし、刺々しい言葉を直球にぶつける。
「え!それ言っちゃう?もぉ、何で俺にばっかそんな冷たいんだよ……まっ、そう言うところも嫌いじゃないけど」
一瞬だけしゅんとしたものの、直ぐにいつものダイヤへと戻り、レナを茶化すように軽口を叩く。
「全然元気じゃないですか。休憩は暫く要らないみたいですね」
「うわっマジかー……」
額に滲む汗を手で拭い去り、息を切らしながらダイヤは再び歩みを進めた。
「にしても本当にこんな道しかなかったのか?ここどう見ても交通路じゃないだろ」
改めて周囲をぐるっと見渡すと全方位を背の高い植物に囲われていた。物静かで当然のように人間のいる気配などない。
「あると言えば有りますよ。でもここが最短ルートなので」
「なるほどね、結局こっちのが楽ってことか」
ガクはレナの開いた道を再度踏みつける。しかし、さすがに帰りも同じ道を行くと思うと気が遠くなる。
時刻も昼を過ぎた頃だろう。空腹も堪える必要があった。
「でもさ、急がば回れって言うじゃん?だから……」
「あなたは黙って着いてきてください」
隙を見て弱音を口走るダイヤを一蹴。小さく、はい、と返事をしダイヤは黙り込んだ。
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「流石にお腹空きましたよね、少し休憩しますか」
「よっしゃ!」
ダイヤは待ってましたとばかりにその場に座り込みレナに食料を催促する。が、
「食べ物なんて有りませんよ?見れば分かりますよね?」
両手を横に広げ何も持っていないことをアピール。それを見て分かりやすく落ち込むダイヤ。
「それじゃあ……」
「ちょっと私から離れて下さい。今調達するので」
そう言うとレナは頭上を見上げ風を切るようにサッと手を動かす。すると、
「おお!果物だ!全部見たことないけど!」
数十メートルの高さから色とりどりの果実がぼとぼとと二人の目の前に落下。
「皮を剥けば全部食べれるので、取りあえずはこれで我慢してください」
レナは果実を一つ手に取りライチのように皮を剥いた。中からは瑞々しい緑色の果肉が顔を出す。ガクからしたらとても美味しそうとは思えない食べ物だ。
レナは剥き終わったその実をガクに差し出し、ニコリと微笑むと開いていたガクの口に押し込んだ。
「お、おま……!」
「サービスです!どうです?美味しいですか?」
「ま、まあまあだな……」
「贅沢な人ですね」
味はガクの思っていたほど不味くはなく、甘さの控えめな柑橘系と言ったところ。突然押し込まれたせいか、さほど味に意識は行かなかった。
「レナちゃん、俺にもやってよ!」
横で見ていたダイヤがレナの方を向き、口を開けた。
「嫌です」
「えーっ!?」
まさかの即答。レナは剥き終わったもう一つの実をわざとらしく自分の小さな口へと放り込みニヤッと悪戯な笑顔を見せた。
「ところで、さっき何したんだ?手を振っただけでこれ降ってきたけど。これも魔法?」
「まあそうですね。風魔法の一種です。この木になっていた木の実を切り落としただけですよ」
「風魔法……お前結構何でも使えるんだな」
「レナの魔法は広く浅くって感じなんで!」
誇らしげに胸を張りふふんと鼻を鳴らす。
「あ、でも俺も使えるんだよね?風魔法」
「あなたはただ僅かに素質があっただけです。それで使える気になるのは気が早すぎだと思いますけど。そもそもその事ガックンには言わないんじゃなかったんですか?」
邪魔をされたことにイライラした様子で早口でダイヤを攻撃。
ここまでいくとむしろ仲が良いのでは、とガクは錯覚を起こしそうになる。
「へぇ、お前も魔法使えるんだな、しかも俺より戦闘向きな」
嫉妬混じりの笑みでダイヤを見る。当のダイヤも嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。
「そろそろ行きますよ。目的地までもうそんなに遠くもないので……シャーロットさん居るといいんですけど……」
ここに来て不安そうな声をあげるレナ。
「こんな僻地に来て誰も居ませんでしたなんてマジ勘弁だぜ。居てくれなきゃ困る」
実を取った果実の川を木の影に投げ込み立ち上がる。すると、寄りかかっていた大木の後ろから馬の鳴き声が響いた。
「今のって……」
「ああ……誰かいる……」
恐る恐る大木の裏へ回り、ガクは鳴き声の方を見る。と、そこに居たのは真っ白い馬に股がる小柄な老人。シャーロットだった。
「なんだお前……本当にこんなとこに居たんだな……」
「おお!お前か!」
声に気づいたらしく後ろを振り返りガクを見る。その風貌にガクは言葉を失った。顔は激しい火傷のような後が痛々しく残り、左手は跡形もなく紛失していたのだ。




