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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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40話 異変

当然のように綺麗に片付けられたテーブル。食堂はすっかり静まり返り、証明だけが煌々と光っていた。


「遅かったわね、どこか行ってたの?せっかくみんなで顔を合わせられたのに」


調理場へと続く奥の扉が開き、サンドラが現れた。尖ったハイヒールでフローリングの床をカツカツと軽い音を立てながら此方へ向かってくる。


「あなた達の分も用意してあるわ。さ、座って待っててちょうだい」


「……おう」


「あ、ありがとうございます……」


倒すべき敵である人物が目の前にいる。それも何年間も同じ城で何食わぬ顔して過ごしていたという事実に対する恐怖や怒りの入り交じった感情を圧し殺し、なんとか平常心を保つガクとレナ。


サンドラはそんな二人を嘲るかのようにフッと口角を上げ白い歯を覗かせると調理場へと消えた。


「あの野郎よくあんな顔出来るもんだ。……気持ち悪ぃ」


「今は何も起こってなかったことを喜ぶべきですよ」


それもそうかと内心少しホッとしながらも、ガクは既に誰もいない扉に睨みを利かせながらいつもの定位置に腰を下ろす。彼に向かい合うようにしてレナも静かに椅子に座る。


僅かの会話もない沈黙。不自然としか言い様のない状態に焦りガクは話題を探すが何も見つからない。

ガチャと音がして奥の調理場から大きなお盆を片手に綺麗にバランスをとりながらサンドラが二人分の食事を運んできた。


「はい、お待たせ。意外とまだ温かかったのだけれど一応温め直したわ」


「……いただきます」


ガクは小さな声でそう一言言うと出された食事を黙々と食べ進める。レナも負けじと小さな口に詰め込み始めた。


「二人とも様子が不自然ねぇ。あたしはいつも通りだと言うのに…」


色濃く塗られた唇を湾曲させ真っ白な歯を見せるサンドラ。ガクの手が止まった。


「不自然?……ふざけんな。こんな事態に普通で居られるわけねぇだろ」


サンドラの不要な一言でガクは怒りの感情が溢れ出る。ニヤリと微笑むサンドラに鋭い視線を向け立ち上がった。


「ガックン今は駄目だって」


両手に食器を持ちながらレナが止めに入る。二人の間に立つサンドラは変わらず不気味に微笑む。


「レナは利口ね、彼女の言うとおりよ。今すぐ私が手をかけて誰かを殺すことはしない。でも、あなたがその気ならそれ相応の対応はするわ」


「聞いてたのか……外での話」


「耳に入っただけよ。あなたみたいに盗聴なんてしないわ」


フフッと鼻で笑うとガクに背を向け調理場の方へ戻って行く。

今思えば、これまでの全ての捜索はこの男の掌の上で行われていたのだ。ガクはギリッと奥歯を噛み締める。


「ああ、そういえば」


その場に立ち止まり背を向けたままサンドラが呟く。二人はじっとサンドラを見た。


「もう調べはついていると思うけど、あたしから断言してあげる。一年前に起きた国王ジャックの裏切り失踪事件、あたしの仕組んだただの余興よ。存分に楽しませてもらったわ」


「てめぇ……!」


「あなた達のも楽しみにしてる。こんなに早く正体がバレるのは初めてよ、期待してるわ」


グルッと首を回転させ大きい目を溢れ落ちそうな程見開きこちらを見る。その化け物染みた顔にサンドラの面影はなかった。


「さっ、早く片付けたいから食べてちょうだい」


何事もなかったかのようにサンドラは靴でカツカツ音をたて調理場へ戻った。

二人は暫く硬直した後、黙って食事を再開した。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



入浴を終え首にかけたタオルで頭を掻きむしりながら廊下を進む。浴場はガクの部屋から離れているため部屋に戻るまでがやたら億劫に感じる。

風呂に入りながらも何度も再生されるサンドラの言葉。憎悪が込み上げる。


「ガックン!」


「おお、どうした?」


とんとんと肩を叩かれ振り向く。

そこに居たのはガクと同じタオルを首にかけたレナだ。いつものツインテールの髪は下ろされ認識が僅かに遅れる。頭からは白い湯気がうっすら見える。


「どうしたって、さっき夜お話があるって言ったじゃないですか」


「あ、ああ、そうだな」


「もしかして忘れてました?」


「そんなわけねぇだろ、今ちょうど探してたんだ」


──危ねぇ……、すっかり忘れるとこだった


背伸びをしながらぐっと顔を近づけて疑いの目を向けるレナ。シャンプーの匂いがふわりと漂う。ガクは気まずさのあまり目を逸らす。


「まぁいいです。じゃあ行きましょう」


「行くってどこに?」


「レナの部屋です」


「え……?」


レナはごしごしと長い髪を拭きながら自室へ向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「その辺適当にどうぞ」


「ああ」


部屋の真ん中に丸テーブルを挟み向かい合うようにして配置された3人かけソファー右端に腰を下ろす。

レナもガクの左隣にストンと座った。


「え、そこ?」


「駄目ですか?私の部屋なんだしどこでもいいじゃないですか」


「いや、話すなら正面の方が……」


至近距離でガクを見つめるレナ。慣れない距離感にガクは反射的により右側へ移動する。ガクに合わせてレナも移動。


「え、何?」


はぁと浅くため息を吐くとレナは元の位置へ戻った。


「少しは意識してくれると思ったんですけど、駄目でしたね」


「ちょっとよく分かんないんだけど……」


全身から変な汗が吹き出す。一方のレナは何ともないような顔で化粧水の様なものを顔に塗っている。


──部屋に呼ぶってやっぱそういう話か……


「よし、本題に入りますか」


顔に塗っていた液体の容器をパシと締めると、いつも持ち歩いているバッグをガサガサと漁り始めた。



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