3話 メイズ城
初対面から感じの悪い男。ガクは絶対に仲良くなれない人物だと確信した。
「ごめんね、ザックも悪気はないんですけど……。私はレナ、レナ・フランク!よろしくお願いします!」
満面の笑みでガクに言う。その後はレナに続くようにして全員の自己紹介が行われた。
全員分の紹介を聞き終わり、一旦頭を整理する。
まず旧ヴァルポール王国の軍隊はかつて4つに別れていたらしい。
その中で最も強い第一隊を率いていたのが王国最強の騎士ザック・シュットマン。
そしてその第一隊の隊員が、ピンク色の髪をした少女、レナ・フランク。大柄の猪の亜人、ローガン・アンプラー。
そして一言も音を発することもなくこのやりとりを角で静かに見守っていた老人、シャーロット・バウマン。
「で、後は女王サレーネ・メイズか」
「あら?主役をお忘れのようね。サンドラ・ドンペルト、このメイズ城の管理兼サレーネ様の護衛をしているわ」
自分の紹介をあっさりとスルーされたサンドラはサレーネの横に立ち、ズボンの横を摘まんでメイドのような挨拶をして見せた。
「誰が主役だよ!」
間髪入れずに的確な突っ込みを入れるガク。
「二人とも仲良しなんだねー」
からかうようにしてニヤニヤしながらレナがガクを見る。
「仲良くなんかねぇよ……。俺は矢嶋岳。多分その……召喚?ってやつでここに飛ばされて来た」
ガクもさすがに突っ込みを入れるのに疲れ、軽く自己紹介をして会話を終わらせた。
「でも、召喚で来たのだとしたら誰に呼び出されたの?異世界から召喚できる力を持つのは王族だけのはずなんだけど」
サレーネが不思議そうに首を傾げる。
確かに今この場にいる王族はサレーネしかいない。
───ってことは俺はいったい誰に呼ばれたんだ……?
「まあ良いわ。ここに居たいなら居させてあげるけど」
逆に出ていけと言われても行く当てもないガクにとってはここに居させてもらうことしか選択肢がない。
「じゃあ悪いけど帰り方がわかるまで少しここに居させてもらうよ」
ガクはそう言うと浅く頭を下げる。
顔をあげて改めてザック以外の全員の顔を確認するガク。
──こう見るとシャーロットさん以外みんなキャラ濃いな……
クラスでも目立たない方だったがここではもはや空気のようだ。ふと、ガクはあることを思い出した。
「さっきから旧王都って言ってるけど、今は王都じゃないのか?」
その質問をした直後、場の空気が一気に重苦しくなるのを感じた。全員の顔持ちが暗くなり互いの顔を見合わせ、誰も口を開こうとしない。
「いや……いいんだ別にちょっと気になっただけで……。無理に答えてくれなんて言わねーよ」
明らかに触れてはいけない所に踏み込んでしまったことを後悔する。
──なんとかして話題を切り替えねーと……
この空気を一変できる話題を必死に探す。
「いいわ、いずれ話すことになるから」
サレーネが小声で言った。ガクはゆっくり唾を飲み込んで構える。
「私の父、ジャック・メイズは第105代目ヴァルポール王国国王だったの。でも一年前、ある事件をきっかけに国を追放された。その結果3000年以上続いたメイズ家の王権は剥奪された」
大の歴史好きのガクはある事件について知りたかったのだがこれ以上の深堀りは好ましくないだろうと思い、聞くのをやめた。
「そっか。悪いな、なんか空気悪くしちまったみたいで……」
とにかく今すぐこの空気から脱したいガク。俺はもう行くわ、と言ってそそくさと部屋を後にする。だが、部屋を出てから気づく。
──俺はどこで何をしてればいいんだ……?
異世界の巨体な城の廊下を行く宛もないままさ迷い続ける。壁には見知らぬ人物の絵がいくつも飾られ、人型の彫刻や西洋風の鎧まで所々に飾られている。
「こんなところで何してるのかしら」
「うおおおっ………!ってなんだお前か、ビビらせんなよ」
突然耳元で聞こえた不気味な声に声をあげて驚く。振り返った先にはサンドラとサレーネが驚いた様子で見ていた。
「突然大声出さないでよ、ビックリするじゃない」
今のはサンドラが悪いと言いたいところだがサレーネに言われるとなぜか言い返し辛い。
「あなたの部屋はこっちよ。トイレもお風呂も部屋に付いてるしクローゼットの服は好きに着てちょうだい。あと家賃は要らないわ」
サンドラが案内しながらサッと説明をする。その後ろを黙ってついていく。
暫く歩いたところでサンドラが立ち止まり、着いたわと指を指す。
「ここが俺の部屋……?」
サンドラの指差す先には50畳はあろうかと言うほどのだだっ広い部屋にベッドとクローゼットが置かれていた。
6畳の部屋にずっと居たガクには信じられない光景に唖然とする。
「不満かしら?無料で泊めるんだから文句は受け付けないわよ」
「文句なんてあるはずねぇよ……。すっげぇ……」
こうして、俺の異世界生活は予想だにしない好スタートを切った。