33話 再
細い目をじわじわと開き、目を覚ますガク。
「おはよう。もう大丈夫そう?」
ベッドの横にはサレーネの姿。ここに来てからは、目覚めるときに必ずと言って良いほど誰かが横にいる。それはガクにとっては少し嬉しいことだった。
「ああ、まあな。マナを使いきる前にシャーロットが助けてくれたから」
返事をしながらガクはゆっくりと上体を起こす。体を確認すると僅かに治りきっていなかった小さな傷も完治していた。
「馬車の中でぐっすり眠っていたからここのベッドに移したの。あの後はみんな疲れきっていたみたいで……、もうお昼だけどみんなまだ寝てるわ」
「そっか」
ガクは布団を剥がしベッドから降りる。
「どこ行くの?」
「ちょっと謝らなきゃならない奴と話を聞き出したい奴のところ」
それだけ言ってガクは部屋を出ていった。
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「本当に悪かった。お前を疑うようなことして」
ガクが頭を下げているのは今も地下牢に閉じ込められているダイヤだ。
城が襲われていなかった、という事実が分かってからダイヤへの疑いが晴れ、それと同時に親友を疑ってしまったということから自責の念に襲われていたのだ。
「頭なんて下げんなよ。何も知らないで突然来ちまった俺も悪かったしさ。今のこの国の状況なら疑われても仕方ねぇことだと思うよ」
ダイヤも申し訳なさそうな顔を向ける。
「お前のことはここから出してもらえるよう俺から説得してみるよ」
「そんなことしなくていいって言いたいところだが……、悪いな、さすがにそろそろしんどい。よろしく頼むよ」
ダイヤはニッと歯茎を見せてはにかんだ。
──もう一人は……
狭い地下牢で辺りを見回すもダイヤ以外の姿はない。
──まさかまたあいつ……
「白い服着た爺さんなら抱えられてその下に連れてかれたぞ」
ガクはダイヤが顎で指す方へ視線を向ける。が、そこには扉も何もない。ただ石畳の床があるだけだ。
「その石の隙間から隠し扉みたいなの開けてたけど」
言われるがままに意思と意思の隙間に指をかけ、力を入れる。すると、
「おっ」
ゴリゴリと石が刷れる音がして石畳が正方形に切り出された。
ダイヤの言ったとおり中には階段が続いている。
「ちょっと行ってくるわ」
「おう」
ガクは恐る恐る階段を下りる。確かに部屋はあるが真っ暗でほとんど何も見えない。
石の壁を沿って進みながら手探りで明かりに繋がるスイッチを探す。
「誰かいるのか」
聞き覚えのある嗄れた声。間違いない。
「シャーロットだな?聞きたいことがあったんだが……こんなんじゃあ話どころじゃねぇな……」
「ここにランタンはない。この城の地下は基本的に松明じゃよ。固定型のランタンも最近普及したばかりじゃからな。持ち運び式のも最近出たばかりじゃ。使用時間も短いみたいだしな」
「確かにダイヤの場所も俺が捕まってたときも松明だったな」
──意外と発展してないところもあるんだな……道理でレナが欲しがったわけだ……
自分の故郷と比べ少しばかり優越感を覚える。
考えてみれば、罪人を入れる地下室にそんな真新しいものなど必要ない。
「仕方ねぇ、ちょっと松明かなんか借りてくるわ」
ガクは再び手探りで壁を伝いながら降りてきた階段を上がる。
揺れる炎の影が見え始め、小さな石畳の穴から顔を出す。すると、そこには先程までは居なかったレナが立っていた。
「お前あの後無事だったんだな。サンドラからの連絡で聞いてたけど直接会ったら安心したよ」
「ガックンこそ……。私必ず戻るって言ったのに……約束守れなくて」
レナの大きな目からポロポロと涙が溢れる。
「ああ……その、ほら、でも今こうして普通に生きてる。……だからそんなに気にすんなよ」
予期せぬ事態。あたふたしながらガクなりに必死に慰める。
「でも!……シャーロットさんが来なかったらもしかしたらガックンは……」
──ヤバい……
さっきにも増して泣き出すレナ。
ガクにはこの場の収め方がわからない。チラッとレナの後ろを見ると下を向いて分かりやすく笑いを堪えるダイヤの姿が目に入る。
──あの野郎……笑ってんなら何とかしてくれよ!
目で合図を送るが、ダイヤは明らかに嘲笑と見える笑顔を見せるばかり。ガクは今すぐこの場から立ち退きたい気分だ。
「あのさ、レナちゃん」
ガクの表情に気づいたらしくダイヤが笑いを抑え込んで口を開いた。謎に馴れ馴れしい呼び方に少し引っ掛かる。
「もしかしたら、なんて考えなくて良いんじゃないかな。さっきガクが言ったみたいに今目の前で生きてるわけだし……」
しゃがみこんで泣いていたレナは顔を覆っていた小さい手を静かに離し、赤く腫れている目と鼻をこすり涙を拭うと振り返ってダイヤを見る。
「もしかしたらの方に行くことなんて無いんだから今は運が良かったって喜べばいいと思うよ」
──俺よりまともなこと言いやがる……
ガクには出来なかったことをサラッとやって見せたダイヤに僅かに起こる嫉妬心。こういうスキルにおいては確実にダイヤの方が上手なのだ。ダイヤは檻の中から得意気な顔を見せつける。
「そうだよレナ。もしかしたらなんて……」
「ありがとうございます慰めてくれて。少し気持ちが楽になりました。でもその話はたった今この人から聞いたので大丈夫です」
「あ、そう……」
驚くべき切り替えの早さ。レナのいつも通りの冷たい対応にガクは言葉を飲み込む。
「シャーロットさんとお話ですか?」
「ああ、まあな。……その話なんだけどお前にあげたライトちょっと貸してくんねーかな」
タイミングよくレナに会えたのはガクにとっても好都合だった。松明なんかより遥かに優れたものがここにある。使わない手はない。
「じゃあレナも一緒にお話します。聞きたいことレナもあるので。それなら良いですよ」
「まあ、いいけど。時間もねぇし……その聞きたい事ってのも俺も知っておいた方が良いことかもしんねぇし」
「じゃあ決まりですね!行きましょう!」
数分前まで泣き崩れていたとは思えない程のハイテンションでライトを片手にずんずんと階段を下りていった。




