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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
32/79

31話 裏切り

老人は純白の分厚い羽織から変わった形をした杖を取り出す。


「私と戦うつもり?」


「お前がその気であるならな。どのみちわしは殺される。それは今さらどっちに付こうが変わらん」


杖で強く地面を突く。それと同時に杖の先からルーシーの方へ地面に亀裂が走る。


「うわっ!」


ルーシーはジャンプで地割れを回避。そのまま一体のゴーレムの肩に飛び乗る。


「それは確実に裏切ったってことでいい?それなら私だって容赦しないよ」


「お前たちの仲間に戻る気はない。今回だってあいつに脅されて仕方なく手を貸しただけじゃ」


突然攻撃を仕掛けられ、怒りを露にするルーシーにシャーロットは老人らしいゆったりとした口調で応答。

ただならぬ空気が流れ、互いの出方を探っているようにも見える。が、


「やっぱり私もう帰る。同じ土属性の使い手のあなたが相手じゃ私も無傷ではすまなそうだし。じゃあね」


そう言うとルーシーは乗っていたゴーレムの肩を蹴り、ガクの後ろにある氷塊の上に華麗に着地。


「その子達は置いていくから気を付けてね!」


「は?」


氷の奥に残るゴーレムの頭を飛び石のように飛び跳ねながら消えていくルーシー。ガクは未だに完治しない傷口を押さえながら立ち上がり恐る恐る前を見る。

そこにはゆっくりとこちらに向かう無数の影。最初にいた数の半分ほどには減っているが、20はいるだろう。


「お前は少しそこで待っていろ。その傷じゃあ走るのも厳しいじゃろう」


するとシャーロットは杖を頭上に突き上げる。すると杖の先から不思議な光が一直線に天へ伸びていく。


「多少手荒に行くぞ」


「手荒にって……もしかしてさっきの……」


「もうすぐ来る」


シャーロットの杖から光が消えた。

特に何も起こらない。が、その直後。突き上げられた杖の延長線上に真っ赤に光る点が音を立てて近づいてくる。

ガクの予想した通り、先ほど目の前で大量のゴーレムを下敷きにしたアレと全くおんなじだ。


「あれってもしかして……」


「ああ、隕石じゃ。前のより大きいから気を付けろよ」


──あんなの気を付けようがねぇだろ……


段々と大きくなる隕石。しかし近づいてくるのはゴーレムも同じだ。


「おい、隕石よりも先にあいつらがこっちに来てんだろ!先に俺たちが死ぬぞ!俺はもう一発食らったら即死なんだからな」


「分かっておる。そこで黙って見とれ」


狼狽えるガクに呆れ、ふぅとため息をつくと右手に握る杖を今度は足元に突きつける。直後、シャーロットとゴーレムの間に深い溝が現れた。


「これで文句ないか?」


「さっさとやれよ!マジで焦ったんだかんな!」


バクバクと高速でビートを刻む心臓を抑えながら声を荒げる。

目の前には小石サイズに見えていたはずの隕石がバランスボールほどの大きさに見えるまで近づいていた。


「そろそろじゃ」


一瞬だった。後半の接近速度は尋常じゃなく、ガクはあっという間に爆風に飲み込まれていた。


「……すげぇなこれ……ちょっとずれてたら死んでた」


ゴホゴホと咳き込みながら掠れた声で呟く。土埃で視界がぼやけ目の前がどんな状態か把握できないガク。


「大方は片付いた。あとはこの後ろをどうするかじゃな」


煙が晴れた先にはべっこりと抉られたような大穴が空き、ゴーレムの姿は一体も見られない。


「この技すげぇ威力だな……こんなん使えたら的なしじゃねぇか」


「そんな簡単にいくならへこへこ脅しに屈したりしないんしゃがな……」


俯きながら小声で力なく呟くシャーロット。


「さっきから言ってる脅しってなんだよ。お前がマルクスに協力してたのは分かってんだからな。音声も残ってる」


「あんな弱者となんか協力するはずないじゃろ。あいつはただ利用しただけじゃ。それにわしが好んで協力したんじゃない」


「でもお前約束がどうとかって……」


ガクがそう言いかけたところでフラフラとそこらを歩き周っていたシャーロットの足が止まった。


「お前どこまで知ってる」


「え……いや、なんも知らねぇよ、今言ったのが全部だ。お前が地下牢獄で話してたところを偶然録音してたんだよ。本当にそれしか知らねぇ」


シャーロットの声色から危険を察しガクは早口で取り繕う。

その姿に安心したのか、シャーロットは振り替えると柔らかな表情を向けた。


「わしはお前たちの思っている通りの裏切り者じゃ。それはザックも感づいておった。今どこに行こうがわしは反逆者なんじゃよ」


「今お前はどっちの味方で居たいんだ?それだけはっきりしろ」


「それは言えんなぁ……。この会話すらもあいつは聞いているんじゃよ。わしは誰の味方でも誰の仲間でもない。あいつの駒でしかないんじゃ」


一筋の涙がしわしわの頬を伝う。しかし、その涙の意味すらガクには分からない。


「お前、これからどうすんだよ」


「どうしようかね……」


再びガクに背を向け空を見上げる。


「裏切り者のお前を簡単に受け入れて貰えるとは思えねぇが……訳を話せばメイズ城に置いて貰えんじゃねぇのか?そのお前の言う“約束”とかも全部」


「そんなことできる筈がない。裏切ったことは事実。理由がどうであれ一度はこの国を、サレーネ様を危険に晒した。もう全てを失った……仲間も家族も……」


風貌によく合う頼りない背中。シャーロットは砕けた隕石の欠片に腰を下ろす。あの屈強なゴーレムの大群を全滅させた男とはまるで別人のようだ。


──家族……?故郷に何かあったのか?……いや、もしかして……!


「お前って前はヨルム帝国に居たんだよな」


「そうじゃな、もう10年は経つか」


「そっちで家族が人質に取られてるのか……?」


分かりやすく黙り混む。どうやらガクの予測は当たっているようだ。


「年寄りの詮索なんてするな。わしはこれ以上は何も言え」


突如、氷塊を破壊して飛んできた雷が老人を吹き飛ばした。瞬時に振り返るとガクの氷の奥に大量にいた筈のゴーレムは全て地に伏せている。


「こんなところにいたか、裏切り者」


破壊された氷の壁から現れたのは全身から怒りの感情が吹き出して見えるほど目をギラギラと光らせるザックだった。













































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