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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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30話 役目

「なに言ってるんですか!この数相手に一人で何ができるって言うんですか!?ガックンはこの中で一番弱いんですよ!」


こうもはっきりと一番弱いと言われると少し傷つく。が、


「一番弱いから、ここに残るんだろ?このまま全員で戦っても全滅するのは目に見えてる。早く行けよ」


「でもそれじゃあ……」


「行け!」


背を向けたまま叫ぶ。ガクもレナの言おうとしたことくらい分かっていた。


「勝てるなんて思ってねぇよ。お前達が逃げるまでの時間をほんの少し稼ぐ。そしたら俺もそっちへ行く」


レナの顔から不安そうな表情は消えない。それもそのはず。この大勢の精霊を持ってしてもギリギリ均衡を保てていたのだから。


「早く行け!」


ガクがそう言いった直後、2メートル程の五つの巨大な氷塊がガクの視界を遮った。


「まだ小さいですが無いよりはマシです。絶対戻ってきますから」


背後から聞こえる足音は段々と小さくなり、やがて聞こえなくなった。


ガクは一瞬すらも後ろを振り向かなかった。今後ろを見たら目の前の恐怖から絶対に逃げたくなることはじぶんでも分かっている。ガクがこの場に居続けられる方法はこれしかなかったのだ。


眼前に敷き詰められた氷塊からはゴーレムの頭部だけがゆらゆらと動いている。


──こいつらがここを越えてからが勝負だな……


ギッと歯を食い縛り、爪が刺さるほど強く握りしめその時を待つ。


「なーんだ逃げちゃったのかぁ、つまんない」


「お前……」


頭上から聞こえる幼い声で木上で寝そべるルーシーの存在を思い出す。相変わらず足を組んで呑気にくつろぐ少女。


「その子達ならそんな高い壁越えてこれないよ、頭悪いから壁を越えたり壊したりなんて考えられないの」


「えっ……?」


氷の方を見ると、確かにゴーレム達には越えようとする様子も壁を壊す素振りもない。


──こいつの言葉は信じて良いのか……


思い返せば最初から一言も嘘は言っていない。そして新たな疑問がガクの頭に浮かぶ。


「じゃあお前はずっとそこで何してんだよ」


「その子達作るのに結構マナ使っちゃうからさ、ここでちょっと休憩。もうちょっと苦戦すると思ったんだけどなぁ」


小さな口を最大に広げて欠伸。戦闘中とは思えない。


「これからどうすんだ?」


「決めてないけど任務はこなさないと怒られちゃうから、どれか一つやり終ったら帰るよ」


そう言うと、ルーシーはストンと木から飛び降りガクに近付いてくる。


「3つから選んで良いよ。

その一、今からお城を破壊して女王様も殺す。

その二、さっきの女の子も含めた強者をできる限り消しさる。

その三、ここでおじさんを殺す。

どれがいい?」


選び用のない三つの選択肢。殿を引き受けた以上ルーシーをここから城に向かわせられる筈がない。


「ほとんど一択だろ……」


「一択?」


「ああ、三つ目だ。ここで俺を殺す。いや、俺と戦う」


「おじさん馬鹿だね」


ルーシーは手に握る木の枝で地面を叩いた次の瞬間、足元からガタガタと地鳴りが響き、たったさっき抑えたばかりのゴーレムが現れた。


「第2ラウンド!スタート!」


甲高い声で楽しそうに叫ぶルーシー。人を殺そうとしている少女の発言とは思えない。


──1分……いや30秒持つかどうか


一斉にガクを目掛けて殴りかかるゴーレム。もはや逃げ場などどこにもない。

一体目のパンチが飛ぶ。ガクは両腕をクロスして受けるがそんなちんけな防御で防げる筈もなく、体ごと氷の壁に叩きつけられる。


「うっ……!」


ゴツゴツとした氷塊が背中全面を突き刺し、あまりの衝撃で呼吸が止まる。腕を見ると肉は飛び散るように裂け、中から突き出した骨は割り箸のようにポッキリと折れている。


しかし、そんな怪我すらも5秒も経てばかすり傷程度まで回復。前方を見ると既に大きく振りかぶっているゴーレムの姿。


──マジで死ぬな、俺


石の拳がガクの頭部を粉砕。言葉にできないほどの激痛だけが全身に走る。

今までで有れば僅かではあったがたすかる可能性はその都度存在していた。しかし今はそれすらない。

その大きさ故に、一体分の攻撃しか当たらず、数十体と後ろで控えるゴーレム。背中に感じる冷たい氷からも、絶えずうめき声が聞こえてくる。


──もう殺してくんねぇかな……


稽古のお陰で痛覚が大分鈍っているガクでも即死攻撃を食らえば激痛は感じる。人間であれば人生において多くて一回しか経験しないほどの痛みを、何度も、それも数秒間隔で受けるのだ。死ぬほうがいくらか楽だろう。


──俺はやっぱなんもできないんだな……


ガクは心の中で呟く。ゴーレムに対する怒りも非力な自分に対する情けなさもない。あるべき姿を突きつけられたようでこの現状に納得している自分がいるだけだ。


ガクが迫り来る死を受け入れかけた刹那、轟音が鳴り響き真っ赤に燃える何かが眼前に墜落。巻き上がる爆風で飛び散る小石や枝がパラパラとガクに降りかかった。


「もー!今度は誰!?」


土煙が上がり鬱蒼と木々の生い茂る森から現れたのは猫背の老人。シャーロットだ。 ガクの前にいたゴーレム達はたった今落ちてきた正体と思われる巨大な岩の下敷きになっていた。


ギリギリマナを使いきる前に攻撃が遮られガクの傷はじわじわと浅くなる。


──なぜこいつがここに……!?……しかも今俺を守ったのか……?


ガクの頭に様々な情報が混在し整理が追い付かない。


「もう戦えぬ少年をそんな大勢で袋叩きにして楽しいのかい?お前達は昔っからこういうやり方だった」


「あなたこそ、そろそろ立場を確立したら?シャーロットさん」


「わしだってこんなつもりではなかったんじゃがなぁ」


対峙する二人に不穏な空気が流れる。ガクは自分の立ち入る隙などないこと瞬時に感じた。



















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