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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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29話 四面楚歌

夜の暗闇の中赤く光る鋭い目がガク達にガンを飛ばす。


「倒すって言ったけど、俺武器もねぇから……。あいつらを素手で殴っても効かねぇだろうし」


「これだけの数がいるのに一体ずつ倒していくつもりですか?」


「それ以外無理だろ、一度に何体も倒すことなんて。お前もこいつらそうやって倒してただろ?」


ガクは目の前に倒れる岩石塊を指差す。

地面に倒れてしまってはもはやただの岩と区別がつかない。


「あの少女ずっと上にいるのおかしくないですか?私達の足止めが目的なら彼女だけ先に行くはずです」


「確かにそうだな。何か行けない理由でも……うおっ!」


ドスンッと音を立てて額の足元に巨体が倒れる。その背中にはハンマーを担いだドワーフの姿。


「喋ってないで手伝ってさぁ。おいら達にも限界はあるさぁ」


「おう、悪い。てか、お前喋れたのかよ!」


無造作に生えた髭をワサワサ揺らしながら話す小人。見た目からは想像ができない語尾が酷く気持ち悪い。


「ごめんなさい。でもこのやり方は効率悪くないですか?」


「確かにさぁ……倒さなくても良いかも知れないさぁ」


長い髭を擦りながら他のドワーフが呟く。


「どうゆうこと?」


「この山道は幅が狭いから道を塞げば足止めだけなら出来るかもさぁ」


──ドワーフって全員語尾それなのか……


ガクは内容よりもどうしても語尾が気になってしまう。

しかし、ドワーフのアイデアは効率のいい考えではあった。


「なるほど……。かなりマナを消費しそうですが私の魔法でなんとか出来そうです」


「道塞ぐって言ってもあのでかさとパワーじゃ簡単にはいかなそうだよな」


「さっき見せた水魔法の氷を大きくすれば出来なくはなさそうですよ」


猫背でやや四つん這い気味だが体高は2,5メートルくらいはある。そんな化け物が通れないような壁を、しかも氷で作るなど不可能としか言いようがない。


「少し時間稼いで貰えますか?」


「おいら達もそう長くは戦えないさぁ」

「なるべく早急にお願いするさぁ」


そう言うとドワーフ達はゴーレムの遺骸から飛び降り、敵の待つ最前線へ跳ねるようにして向かった。


「ガックンもドワーフ達のお手伝いお願いします」


「俺に出来ることはやるよ。……俺が役立たずってのは俺も十分分かってる。だけどお前も無理はすんなよ」


それだけ告げると、ガクも足場の悪い岩場を抜けて戦場へ向かった。


「こりゃすげぇな……」


足元に大量に転がる岩石。その先には、ドワーフだけでなくスピリットやフェアリーのような姿の精霊達がゴーレムと激戦を繰り広げている。

その戦場にもはやガクの立ち入る場所はない。


「君は何が出来るのさぁ?」


「俺は戦い向きの魔法は使えない」


「じゃあなにしにここに来たのさぁ?」


「一応……手伝い」


ガクだって役に立たないことくらい十分承知している。しかし、ここにいくことくらいしかやることもない。


「足は引っ張らないようにさぁ」


「時間ってどれくらい稼げればいいんだ」


「結構かかるさぁ。あの大きさの氷を生み出すなんてそう簡単なことじゃないさぁ」


──結構、か……


正直“結構”とだけ言われても見当がつかない。しかし、レナにとってもドワーフ達にとってもかなり負担が大きいことはガクにも分かる。


──時間もかからずレナのマナも温存出来る方法があれば……


頭を悩ます。が、回復魔法しか使えない挙げ句、魔法の知識すらもないガクにそんな都合のいい方法など思い付くはずもない。


「手伝いに来たなら手伝えさぁ。もうおいら達だけじゃあ限界さぁ」


ドワーフの方へ視線をやると、そこに見えるのは先程よりかなり追い詰められている精霊達の姿。全く減る様子のないゴーレムに対しこちら側の戦力は半分ほどに減少していた。


「何でこんな……」


「さっきも言ったさぁ。おいら達精霊もマナが無くなれば動けなくなるさぁ」


「……マジかよ」


ガクはバッと振り返り、レナの姿を確認する。彼女の手には既に彼女の身長程の氷塊が浮いていた。

しかし、この大きさではゴーレムを足止めは出来ないだろう。


「どうすれば……」


「うっ……」


唇を噛みしめるガクの前に一人のドワーフが転がってくる。身体は酷く傷つき、もう動けそうにもない。


「クッソ……!」


ガクはドワーフと一緒に飛ばされてきた、おそらくこのドワーフが使っていたであろうハンマーを拾い上げると、ゴーレムの待つ方へ直進。


「おらぁっ!」


勢いよく振りかぶったハンマーでゴーレムの右頬を殴りつけた。少し動きが止まるがすぐにブンブンと頭を振り、赤く光る鋭い目をガクへ向ける。


──少し破片が飛ぶくらいしろよ……!


ゴーレムのあまりの頑丈さに絶句。すかさず二発、三発と打ち込む。

こめかみ辺りへ直撃し、ようやく小さな亀裂が入った。


「よしっ!……うおっ……!」


喜んだのも束の間。ガクに向かってゴーレムが右フックを繰り出す。

瞬時に持っていたハンマーで防いだが案の定、ハンマーは派手に破壊された。


「ヤベェな……!?」


ゴーレムもその隙を逃さず、ガクに岩の拳を振り下ろす。

武器を失ったガクに抵抗の術はない。必死に回避を続ける。


──マジでヤベェ……!どうすれば……


頭上から降る岩石塊をギリギリで交わしながら考える。

そうしている間にも他のゴーレムのものと思われる破壊音が鳴り響く。


──どうするどうするどうするどうする……!


焦燥感が募る。しかし、今は逃げることで精一杯だ。

そもそも一体すら倒せない男がこの数を全滅させることなど出来る筈もない。ガクは必死にレナ達の方へ走った。が、


「おいおい……」


地に伏せるドワーフ達。その後ろでは、今にも倒れそうな数人だけがレナを囲っている。その光景は“敗北”以外の何物でもなかった。

ガクの背後からは先程の一体を含めた無数のゴーレムの足音が聞こえる。


「お前らレナを連れて先に城に戻れ。俺だって殿(しんがり)くらいなら役にたてるだろ」


そう叫ぶと、ガクは大きな氷塊を手の上に浮かべるレナに背を向けた。






































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