28話 岩石人形
「もー、邪魔しないでよ。たいした時間稼ぎも出来なそうなんだし」
面倒くさそうにその場に佇む少女の背後には赤く光る鋭い目が無数に光る。数、体格、どれを取ってもガク達の勝っている部分は見当たらない。
「そっちから来ないならこっちから行くよ」
ルーシーは右手に持った木の棒をサッと前につき出す。すると、背後に控えていたゴツゴツした化け物の一体がガク達を目掛けて飛びかかった。
「うおっ!」
「ガックン!」
飛びかかると同時に、岩石のような拳でガクの足元をベッコリと抉る。
ガクも瞬時に反応し、間一髪でかわした。
「気を付けてねー、私のゴーレム達はみんな素早いんだよ」
後ろに控えるゴーレムの一体を撫でながらルーシーは不敵な笑みを浮かべる。
「つぶしちゃってー!」
主に答えるように言語化不可能と思われる唸り声を上げ、再びガクを目掛けて拳を振り上げる。
「ドワーフ!」
レナの声が響くと、髭を生やした小人が巨大なハンマーをゴーレムの頭部へ振り下ろした。
ゴーレムは拳を振り上げたまま地面に潰れる。
「悪い、助かった」
「気を付けてください。こんなの一発でも当たったら確実に死にますよ」
そうこうしている間に倒れていたゴーレムが頭をブンブンと振って立ち上がる。
見た目は其処らの岩と殆ど同じだが、生き物らしい動きをすることに違和感を感じる。
「ドワーフのハンマーをまともに受けたのに……!?」
「あの攻撃相当強いだろ?」
「ガックンは今の十分の一の威力でも半日気絶してたじゃないですか」
「俺あいつに殴られて気絶してたのか!?」
目の前にいるおじさんのような小人に気絶させられたと思うと、あまりいい気分ではない。
「早いとこ方を付けないと。……お城の方も安全である保証はありません」
「そっちは大丈夫だよ。私以外誰も来る予定ないから」
──たまに出てくるこの親切はなんなんだ……
ガクは、突然作戦を暴露したり内部事情を話したりするルーシーに困惑。
「と、とりあえずこのゴーレム達を倒すことには変わりありませんから!」
「お前なんでちょっと怒ってんだよ……」
「お、怒ってないですよ!」
──いやどう見ても怒ってんだろ!
おそらく自分の推測が一瞬で否定されたからだろう。小学生レベルだ。
「私だって急がないとなんだからね!あんた達殺っちゃって!」
凄まじい唸り声が大音量で鳴り響き、地面が振動。目の前には先程の一体を含めた大量のゴーレムが走って来る。
「ヤベーだろこれ!」
「流石にこの数は……でも時間稼ぎくらいにはなります」
レナはサッと腕を前につき出すと、手の平から透明の剣を出し、一体のゴーレムの腹部へ飛ばした。
ゴーレムは後ろへ押し飛ばされ、ドミノ倒しのように後ろの個体へと連鎖。
「え……?お前すげぇじゃん……」
「これくらい大したことないです。水魔法ならほとんどの魔法使いが使えますよ。次が来ます!」
「うおっ!」
直径50センチほどの拳がよそ見をするガクの頬を掠める。
ガクの頬にピッと血が出る感覚が走った。が、そんなかすり傷であれば瞬きをする間に治せる。
「おじさん、もしかして凄い回復力の人?」
「まあ、多分そうだな」
「それなら私も話が変わってくるなぁ」
いつの間にか木上に腰を掛けていたルーシーがガク達を見下ろしていた。
「話が変わるって、どう変わるんだよ!」
「もう一つの任務を思い出したの。その回復術師を生け捕りor暗殺するって言うね」
──俺の存在知られてんのか
本来であれば殺害予告であるが、ガクは自分の知名度に少し満足感を覚える。
「ここで殺すのか?殺せるなら殺してみろよクソガキ!」
分かりやすく挑発。ルーシーは木上から不機嫌そうに口を歪める。
「生け捕りなんてめんどくさいしあんたが望むならここで殺してあげてもいいよ。お、じ、さ、ん!」
「だからおじさんはやめろ。まだ18だっての!」
「いつまでふざけたこと言ってるんですか!」
レナは言い合いをするガクに遂に痺れを切らし、叱責。状況を思い出したガクは辺りを見渡すとそこには複数のゴーレムが無様に倒れていた。
「これ、お前がやったのか……?」
「そうですよ!居ても対して役に立たないことは知ってましたけど目の前で遊ばれるとさすがにレナも怒りますよ!」
少し土汚れのついた頬を膨らませる。
しかし、そんなレナの背後に迫る巨大な影がガクの目に写る。
「危ない!」
咄嗟にレナの手を引いたことで岩石の塊がガクの顔面に直撃。
ガクは一瞬で意識が飛び、顔面は焼けるように痛い。
「ガックン!」
「大丈夫……」
じわじわと痛みが引き、顔に感じていた熱も弱まっていく感覚で自己治癒が進んでいることに気づく。
本来なら即死のダメージすらも治ってしまうと思うと、まるで自分が化け物のようで気持ち悪い。しかし、
──さすがにこのダメージは再生時間もマナも大分消費するな……
「本当に凄いね、その力。コーダさんが欲しがるのも分かるかも」
木上から呑気に腕枕をしながら欠伸をする少女。
「マジでお前戦わないんだな」
「別に戦ってもいいけど、その子達みんな倒してからね」
目の前には既に10体程の岩石人形が横たわっているが、後ろにはまだうじゃうじゃと動く姿が見える。
「これはきりがねぇな……」
「倒してるの全部レナなんですけど」
痛いところを突かれて黙り混むガク。先程ガクを殴り付けたゴーレムもレナの呼び出した精霊が倒したらしく、ガクの目の前で小人達の踏み台にされていた。
「お前よりもその小人達じゃねーの?」
「細かいことは気にしないでください。あと、小人じゃなくてドワーフです!」
レナは目を細め、キッとガクを睨む。
──たいして変わらないだろ……
本音が口から出かけるが内心に留める。
「取り敢えずこいつら全員倒さねぇとだな」
「そうですね……何をするにしても」
二人は木上で退屈そうにくつろぐルーシーへ睨みを利かせた。




