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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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25話 Again

いつもは見かけない護衛兵のような二人組に案内され、ギシギシと音をたてる古寂びた扉が開かれ中へと進む。

再びこの檻の中に送られるような気がしてあまり居心地はよくない。


「一番奥の檻です」


それだけ言うと二人はガクに一礼して警備へと戻って行った。

ガクは恐る恐る奥へと足を進め、あと一歩で中が見えるといった所で立ち止まった。


「あの……俺に話があるって言われて来たんだけど……」


「……ガク?ガクなのか……?」


聞き覚えのある少し高めの太い声。間違いない。声のする檻の方へそっと首を近づける。


「ダイヤ……、なんでお前もここに……」


「……無事で良かったよほんと。マジで殺されちまったかと思ったから……」


ガクの質問にも答えずに涙するダイヤ。


「お前今までどこに居たんだよ」


「あの日お前の手を掴んだまま俺は多分気失って……。気づいたときには誰もいない原っぱみたいな所で倒れてたんだ。そこを近くを通り掛かった兵士の人に助けられた」


「お前も一緒に来てたのか……」


ガクは目の前にいるダイヤが本物であることを認識すると、とてつもなく懐かしく思えて瞳が潤む。


「おい!泣くなよ!」


「いや、なんか、……久し振りだからな……」


声、口調そして容姿。全てが懐かしく感じる。時間にしては、たった半月程度。しかし、そんな短い時間には感じられなかった。


「でもどうして俺がここに居るって分かったんだ?」


「確証は無かったけど、兵士のおっさん達が隣の国にこの服着てる男を見たって噂してたから。それで、今回の貿易に一緒に連れて来て貰ったんだよ」


──貿易?この国にもそんな相手居たのか……


ガクがこの国に来て一度も聞いたことのない話。だが、これほどの国ならそのくらいあって当然だろうと納得する。


「取り敢えずここから出してくれねぇかな、これじゃ身動きもとれねぇから」


座っているダイヤの両足首には巨大な鉄球が繋がれ、両腕は壁から生える厳重な鎖に吊るされている。

タイミングが悪いせいか、ガクの時よりもかなり警戒されているのが分かる。


「そう言われても俺は権力ないからそんな勝手出来ねぇよ」


「そうだよな、俺もあっちではそうだし」


「お前の今いる国ってどこにあんの?」


「んー、どこって言われても分かんねぇけど……。ヨルム帝国っていう国だ。知らねぇか?結構デカい国らしいんだけど」


ガクは耳を疑った。何せ、これから再び抗争が起ころうとしている国だ。

目の前に座る幼馴染が途端に極悪人のように見えてくる。


「お前マジでヨルムに……てことはお前が一緒に来た兵士って……」


「どうしたガク?顔色悪いぞ」


今ヨルムがこの国に来る理由は一つしかない。シャーロットの潜入がバレる前から攻撃体制を整えていたのだ。


「ダイヤ。ヨルム帝国はこの国と貿易なんかしに来ていない。この国の女王を殺しに来たんだ」


「そ、そんな筈ないだろ?あの人たちはみんな良い奴だ」


「半月前にここは一度襲われてんだよ。内通者だっていた。それでもそんな事言えんのか?もしかしてお前も……」


最後の一言を言いかけたところで、体の奥まで振動する程の轟音が鳴り響いた。


「何だ!?ガク!何の音だこれ!?」


大声で騒ぐダイヤを無視し、ガクは扉の方へ向かう。


廊下へ出ると、壁に掛けられていた絵画は落ち、花瓶や彫刻も幾つか地面へ転がっているのを確認する。

廊下の奥からは重装備を身に纏った大量の兵士が慌ただしく動き回っていた。


──まさか、もう攻撃を……!?


「おいガク!」


背後から声がして振り替える。ザックだ。以前使用していた大剣を背中に背負っている。


「たった今ガイルから連絡が入った。俺は軍を連れて直ぐに彼方へ向かう。ここは頼んだ」


「おい!ちょっと何が起こってんだよ!」


ガクは状況が飲み込めず、即座に走り去ろうとするザックを引き留める。


「シャーロットが逃げた先に本隊が控えてやがった。最初から俺達の兵力を分散するためのヨルムの策だったんだ。今はガイル達が応戦してるが二人で相手できる数じゃない。」


「俺はどうすれば……」


「ガイル達のいるレベリオ区に敵の主力はほとんど集結しているらしい。ここはあまり狙われないと思うが何をしてくるか分からない。サレーネ様を頼む」


そう言うとザックは兵士が動き回る方へと走り去った。

突然の事態に頭が混乱する。しかし、ザックの表情から前回の比ではない事は分かる。


──クソッ……


今度の相手はマルクスなんかの比では無い。今ガクが行ったところで足手まといになるだけだ。そんなことはガクだって分かっている。分かっているからこそ悔しさが心の奥底から込み上げる。


──俺がザックくらい強ければ……


「彼らのことが心配なのはあたし達も同じ。無いものを望んでる余裕はない。今は任された責務を全うする以外ない筈よ」


「あの人たちみんな強いから大丈夫です。レナ達も今出来ることやりましょう」


前を向くと、気付かぬうちに目の前にいた二人がガクを励ましていた。隣には不安そうに肩をすくめ、俯くサレーネの姿。


「そうだな、ザックに頼まれたんだから」


二人の言うとおりだ。今はそんな理想を嘆いている余裕はない。ガクも心を切り替える。


「今はまずサレーネ様を守ることだけ考えましょう」


「みんな本当にごめんなさい。私が戦えないから……」


サレーネが申し訳なさそうに俯く。きっと今までもこのような経験をしてきたのだろう。濃紺の瞳には涙が浮かんでいる。


「戦えないのは俺も同じだ、謝ることはねぇよ。お前にはお前にしか出来ないことが山ほどあんだからよ」


ガクは自分がしてもらったようにサレーネを励ます。はりつめていた空気が少し和らぐのを感じた。



































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